建築から医療まで。様々な分野で活躍するCADとは
長年にわたりものづくりを支えてきたCADは現在、「図面を引くツール」という従来型のCADのイメージを超える新しい方法で活用されています。
そもそも「CAD」とは“Computer Aided Design(コンピュータによる設計支援)”の略称であり、製図ではなく設計すること自体がこのツールの本来の目的だと言えます。
この記事では、現在も進化を続けているCADという設計支援ツールについて、
1. 現在CADはものづくりの現場でどのように活用されているか
2. 3DCADが主流になることにより、何が実現したか
3. CADを使ったものづくりのこれから
という3つのポイントについてまとめました。
CADとは
CADという言葉はコンピューター上であらゆるプロダクトの設計を行うためのソフトウェアを指します。
CADで作成されるデータは、設計上重要となる寸法や角度といった緻密な数値情報をもつ二次元の図面または3Dモデルの形で表現され、そのような設計データを元に建築・製造が行われます。
CADによる設計は正確でスピーディーであり、設計データの修正や共有が容易であるという大きなメリットがある上に、無料で使用できるCADも複数あるため建築業・製造業で広く活用されています。
現在では二次元の設計データに高さや奥行き情報などを加え、視覚的に把握しやすい3Dモデルを作成する3DCADを使った設計方法が主流となりつつあります。
建築・医療・アパレル、ものづくりの様々な分野で活用されているCAD
建築
建物をデザインし、構造計算や積算を行い、最終的に建築基準法に基づいて建築確認申請を行う上でも平面図や立面図といった図面は必要不可欠であるため、建築はCADとは切り離して語ることのできない分野です。
とはいえ二次元の図面のみの設計には、平面図と断面図の内容が食い違っていないか、同じ高さで配管が交差しているような構造上の矛盾がないか、一箇所に加えた修正が関係する各図面全てに正確に反映されているかなどの整合性をチェックし、問題が見つかれば修正するという作業に大きな時間と労力がかかっていました。
3DCADではそのような設計上の問題をすばやく発見して解決することが容易であり、設計者は余計なチェック・修正作業に時間を取られることなく設計に集中できるようになりました。
建築の分野ではオートデスク社の「AutoCAD」、フリーソフトの「JW_CAD」などが普及しています。
医療
医療機器の製造は一般的な製造業とは多くの点で非常に異なっています。
まず人の生命に関わる製品であるゆえに厳しい法規制をクリアし、高度な安全性が保証できていなければなりません。
また補聴器や義手・義足など直接身体に装着する医療器具のほとんどは独特な曲線の多い形状であるため、直線や円弧のようなシンプルな線を使う一般的な機械設計の場合よりも複雑なデザインが可能な設計ツールが求められます。
医療機器の製造はクリアしなければならない困難な課題の多い分野ではありますが、この分野のものづくりもCADが支えています。
医療機器の設計でも古くから2DCADが利用されてきましたが、近年では3DCADが広く導入され、医療機器メーカーは2DCADのみで設計する場合に発生しやすい図面の読み違いによるエラーの修正や、検図(図面通りに製造しても問題無いかチェックする作業)にかかる多大な時間とコストを削減できるようになりました。
現在では手術用の照明灯や未熟児のための保育器、ぜんそく薬の吸引器、コンタクトレンズなど、大小問わず様々な医療機器が3DCADによってデザインされています。
有機的な曲線を持つプロダクトデザインの設計に強いダッソー・システムズ社の「SolidWorks」やシーメンス社の「SolidEdge」などが医療機器製造の現場で広く活用されています。
アパレル
従来型のアパレル製造業で衣服をゼロからデザインし、縫製し、世に送り出すまでにはデザイン画やあり型(既存のデザイン案・図面)からの新製品用の型紙の製図・裁断・組み上げ・トワルチェック(仮縫いされた製品を実際に試着してチェックすること)、そして修正や変更というプロセスが必要とされます。
かねてからアパレル業においてもCADは広く導入されており、洋服の型紙(パターン)を作るパタンナーは業務にCADを使用するのが一般的でした。
現在ではアパレル業でも3D CADが広く活用されるようになり、上記のアパレル製造のプロセスのうち、型紙の製図だけでなく裁断からトワルチェック、そしてデザインの修正に至るまでをコンピューター上で行えるようになっています。
また、あり型の古いデータをCADで管理し、簡単に新しいデザインへ活用することも可能になりました。
アパレルCADの分野ではテクノア社による「i-Designer」や東レ社の「CREACOMPOⅡ」などが有名で、大手アパレルメーカーやスポーツブランドなどがこれらのCADを活用してデザイン・製造を行なっています。
CADの3D化で可能になったこと
2DCADは今も非常に有用な設計ツールですが、二次元の図面のみによる設計でよく生じる問題の多くが3DCADの導入によって解決されています。
再現性が高く、より現実的なシミュレーションが可能に
設計者・製造者はまず二次元の設計図を作成し、それを元に試作品を作り、細かな修正・改良を加えながら製品としてブラッシュアップしていくというプロセスにかなりのコストと時間をかけていました。
設計者や製造者が設計の整合性を確認したり、実際に製造する前の段階で商品や建築物の問題点を発見したりする上で、現在主流となっている3DCADで可能な試作品なしのシミュレーションは非常に有用です。
データ上でデザインし、組み立て、動かすことのできる3DCADによる設計は再現性が高く、より高度なデザインや製造プロセスの高速化、コスト削減を実現しています。
クライアント・顧客とのコミュニケーションが容易に
設計者・製造者が、専門知識を持っているわけではないクライアント・顧客とのコミュニケーションや情報共有を図面のみを使って行うのは容易ではない場合も多くあります。
3DCADでの設計ではプレゼンテーションのためにモックアップやパース画などを新たに用意する必要がなく、3Dモデルによって誰とでも簡単に視覚的なコミュニケーションを図ることが可能になりました。
また設計に多くの企業や設計者が関係する場合の情報共有も簡素化され、ミスの少ない円滑なプロジェクト進行が実現しています。
進化するCADとものづくりのこれから
CADは単体でも大きな進化を遂げていますが、外部のシステムやハードウェアとの連携により、CADを通したものづくりの新しい可能性が広がっています。
BIMという次世代の当たり前
現在では建築設計の新しい形としてBIM(Building Information Modeling)が主流となりつつあります。
これは従来のCADによる設計を進化させ、コンピューター上に設計・施工・維持管理に必要な属性情報をもった3Dのオブジェクトを建造物のモデルデータとして組み上げていくという新しいシステムです。
これにより、BIM上に組み上げられた一つのデータを元に平面図・断面図・パース・数量表などを任意に出力したり積算を行ったりすることが可能になりました。
BIMでは複数の設計者がそれぞれ作成した複数の図面・表データを一つにまとめていくという設計方法ではなく、最初から最後まで一つの建造物の3Dデータを複数の作業者が設計・修正していくという方法で作業が進められていきます。
そのため一箇所に加えた修正が他の図面では反映されていないというようなエラーが生じることはありません。
またBIMで設計された電子データは建築確認申請で確認済証交付を受けることも可能ですので、かつては煩雑だった各種手続きの高速化を押し進めることも期待されています。
BIMの分野で使用されるソフトウェアは“BIM対応の3D CAD”や“3DCADと連携するBIM対応ソフトウェア”と位置づけられており、グラフィソフト社の「ArchiCAD」やオートデスク社の「Revit」などが高いシェアを誇っています。
BIMは建築分野でのみ活用されていますが、「属性データを持つ3Dモデルを使って設計する」という手法は他の分野で用いられているCADの進化にも影響を与えるかもしれません。
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VRとの連携
VRはまだスマートフォンのように爆発的に普及している状態ではありませんが、このテクノロジーはものづくりにも着実に影響を及ぼしています。
CADで作成された3DモデルはVRとも親和性が高く、3DCADで作られたデータの中に入り込んで建物の中を歩いてみる、工場プラントや店舗什器が使いやすい配置に設計されているか確認する、バイクや自動車に乗ってみるという仮想体験をすることが可能です。
CADとVRとの連携によって、よりユーザー目線に立ったデザイン、より多くの人に実際に体感してもらえる設計が実現しています。
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まとめ
現在では設計を進めていく上で図面は無くてはならないものですが、CADがより進化し普及していけば、近い将来には図面を1枚も必要としないものづくりが当たり前となっているかもしれません。
テクノロジーが様々な形で発展していく中で、ものづくりの形も大きく変化しつつありますが、その変化の一部分をCADというツールが支えています。
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