長谷工コーポレーションによるマンション事業特化のBIM運用とは
かねてより、マンションに注力した事業展開を行ってきた長谷工コーポレーションですが、10年をこえる歳月をかけ、独自のBIM運用を進めてきました。
従来のCADシステムからBIMへと移行したことで、どのような課題が生まれ、そして事業改革を行ってきたのか。
今回はそんな長谷工コーポレーションのBIM運用に注目し、いかにしてソリューションを生んできたのかについて見ていきます。
目次:
①マンションに特化した独自システムの「長谷工版BIM」
②BIM導入に伴う課題にも正面から取り組む
③次なるビジョンとして掲げる「LIM」
マンション特化の「長谷工版BIM」
長谷工コーポレーションが意欲的に取り組んでいるのは、自社ならではのオリジナルBIMソリューション、通称「長谷工版BIM」です。
ライフサイクルを支えるBIM活用を目指す
長谷工が得意としてきたのは、マンションに特化した設計・施工ですが、現在は完成後の建物の維持管理や修繕まで、ストック領域における事業も受け持つようになっています。
このようなビジネス領域の変化に伴い、社内で期待を寄せられているのがBIMの存在です。
長谷工版BIMはこのような変化をより円滑に進め、設計から施工、販売、維持管理など、マンションのライフサイクルにおけるあらゆるプロセスでの活躍が想定されています。
長谷工版BIM公式サイト:https://www.haseko.co.jp/hc/technology/bim/
情報量の多さを活かし、同一のBIMデータをあらゆる過程で応用することにより、情報共有の簡略化、意思決定の迅速化、品質・生産力の向上といったメリットをもたらすことが期待されています。
オリジナルビューワーで販売シーンでの活用も
長谷工におけるBIMデータの運用は、販売シーンでの活躍も想定されています。
マンションの施工設計にBIMを用いることによって、竣工後の内覧や、見学会で同様のデータの活用が可能となりました。
長谷工が開発した「長谷工オリジナルBIMビューワー」では、VRとBIMデータを活用することで、実寸サイズかつリアルな一室一室のVR映像をその場で体験することを実現しています。
従来のモデルルームの場合、その場に用意されているタイプの住居のみ確認できる方式が一般的でした。
しかしオリジナルビューワーの活用により、希望に応じて幅広いバリエーションから選ぶことができるようになります。
また、オプションとして壁や家具の色を切り替えるといったことも可能となるため、より多様なリクエストに応え、迅速な意思決定を促していくことができます。
長谷工が直面したBIM導入における課題と改革
このようなBIM導入による一貫した事業展開を進めていく上で、長谷工はいくつもの課題への直面と、抜本的な改革を求められるようになりました。
『Revit』導入で始まったイノベーション
BIMの運用にあたり、導入当初から長谷工が採用してきたのは、CAD関連ソフトウェア会社大手のAutodesk(オートデスク)が提供する『Revit(レヴィット)』です。
Revit 公式サイト:https://www.autodesk.co.jp/products/revit/overview
長谷工はマンション事業に特化し、9割を超える設計施工比率を誇っています。
そのため、さらなる設計と施工の連携強化が可能で、非常に前向きな検討が進められてきました*1。
しかしいざBIMの導入を実施してみると、確かに従来よりも利便性の向上が見られた点もあった反面、それに勝るとも劣らない課題も表面化していくこととなりました。
浮き彫りとなった生産効率の低下
BIMの運用に伴う課題は、重くなったデータをどうするかや、データの精度をどのように向上させていくかなどが挙げられます。
そして中でも頭を悩ませることになったのが、BIMの導入による生産効率の低下でした。
2014年に板橋区で着工した、長谷工によるBIMプロジェクトの第一号では、従来のCAD作図と比較して、およそ5倍もの時間を要してしまったのです*2。
もちろん最新技術を導入したことによって、従来とは異なるプロセスでの作業が求められたことも遅れの原因ではありました。
しかしある程度プロジェクトを重ねていた2017年の時点においても、やはりBIM導入前と比較して2倍もの時間を要していたことから、抜本的なシステムの改革を余儀なくされたのです。
工業化と標準化の徹底から見出した活路
かねてよりマンション事業における工業化と標準化の徹底を追求してきた長谷工は、新しい技術であるBIMの導入に際したソリューションの創出も、柔軟に進めていきました。
例えば、設計段階における自動配置ツールの導入です、
かねてより水まわりやドア、家具などの製品情報を、メーカーとタイアップして綿密に把握してきたため、設計の際にはこれらのデータを流し込み、自動配置の効率化に成功しています*3。
あるいは、抜本的なシステムインターフェイスの刷新により、BIMを取り入れたワークフローにおいても、流れるような作業環境を実現しました。これも改革の一環と言えるでしょう。
こういったシステム改革を推進するきっかけとなったのが、構造計画研究所と共同開発により誕生した「H-CueB」と呼ばれるツールです。
Revitのアドオンツールとして誕生したH-CueBは、システムにおける自動化を一手に引き受ける役割を果たし、BIM運用に最適なオートメーション環境構築を担いました。
長谷工はRevitの導入によるBIM活用の課題に早くから取り組み、業界における先進的なBIM運用事例を次々と生み出すことに成功したのです。
長谷工が創出する新しいBIM活用
長谷工のBIM運用は未だ発展途上で、独自のビジョンを描きながら、新しい価値の創出にも取り組んでいます。
BIMからLIMへ
長谷工が考えるBIM活用は、前述の通りあらゆる事業フェーズへの応用です。そこで提案しているのが、BIMからLIM(リビング・インフォメーション・モデリング)への展開です。
住まい情報にとどまっていたBIMを暮らし(Living)の領域にも広げていくことから提案されたLIMは、建物管理・大規模修繕・リノベーション・建て替えにおけるBIM運用を想定したものです*4。
BIMモデルを使った見学会などはその一例ですが、今後は販売手法だけでなく、生活のサポートにもBIMの運用を進めていく検討が進んでいます。
その際に注目しているのが、AIやIoTを絡めた新しい価値の創出です。
センサーなどの外部機器とBIMを連携し、暮らしに役立つサービスの提供を行い、オープンイノベーションの機会も増やしていく考えを見せています。
すでに長谷工の社員寮において、これらの技術を活用したサービスが試験的に進められており、暮らしにおけるBIMの存在感は、ますます拡大していくことになりそうです。
おわりに
BIMの導入に伴う課題に早期から取り組み、独自のイノベーションを進めてきた長谷工コーポレーション。
BIM導入が前提となるシステムが整いつつある今、次なる目標を新しい価値の創出に据え、さらなる革新的な取り組みが行われていることも期待できるでしょう。
出典:
*1 建設通信新聞「長谷工コーポレーション こだわり続ける一貫BIM/22年3月期に設計施工100%」
https://www.kensetsunews.com/web-kan/400935
*2 上に同じ
*3 上に同じ
*4 上に同じ
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