CIM推進に貢献!Cellid社が大林組の現場にて3次元位置情報の取得に成功
この記事を読むと、以下の3つの事がわかります。
1.Cellid社と大林組が行った実証実験の内容
2.Cellid社の独自技術Cellid SLAMの特長とメリット
3.CIMで必要なデジタルツインについて
AR技術の開発や提供を行うCellid株式会社が、3次元位置情報の取得を目的として大手ゼネコン大林組の現場にて実証実験を行いました。この実験により、測量士や測量機器を使わず、汎用単眼カメラのみで3次元位置情報の取得に成功しています。
Cellidが開発する独自技術Cellid SLAMやそのメリット、実験の詳細について解説します。
Cellidが大林組の大規模建設現場で3次元位置情報の取得に成功
国内IT企業であるCellid社は、大手ゼネコンである大林組の大規模建設現場において、独自技術「Cellid SLAM」を使って作業員の3次元位置情報の取得に成功したことを発表しました。(※1)
Cellidと大林組の実験では、作業員が汎用単眼カメラを装着して巡視しています。そしてCellidの技術でその汎用単眼カメラの移動経路を導線として把握することで、3次元位置情報の取得に成功したのです。
上記の実験でポイントとなるのは、汎用単眼カメラのみで3次元位置情報が把握できた点です。ドローンや測量装置、測量の技術者といった専門ツールがない状態で、3次元位置情報の取得に成功しました。
そもそも大林組とCellidが行った実験は、以下の2つが目的です。
1.複雑で大規模な屋内外の建設現場で、職員の移動経路を元に3次元で導線を把握できるか?
2.BIM/CIMの一環であるデジタルツインプラットフォームと3次元位置情報を統合して、安全管理や労務管理として発展できるか?
今回の実験により、上記2つの目的が可能であることが明らかになったのです。
CellidはARグラスなどの開発を行う会社
Cellid株式会社はAR技術を得意とした会社で、2016年に設立しています。SNSの先駆けともいえるmixiを立ち上げたmixi社と共にAR Cloudを活用したARゲームを実施実験するなど、すでに様々なAR技術の提供を始めている会社です。
Cellid社は「人とデジタルの境界をなくし、制限や制約のない世界の実現する」をビジョンに、両手がふさがるスマホからハンズフリーで使えるARグラス向けのシステム・空間認識ソフトの開発に特化しています。(※2)ディスプレイシステムや高精度の空間認識ソフトウェアの開発など、ハードとソフトの両方から開発している点が大きな特徴です。
SLAM技術とはSimultaneous Localization and Mappingの略で、もともと存在する技術です。LiDARやカメラ、センサーなどでセンシングして位置特定と地図測定を同時に行えるもので、すでに自動運転やロボットなどにも使われています。
CellidはそのSLAM技術を独自に開発したCellid SLAMによって、BIM/CIM導入に貢献する結果を残したのです。
独自技術「Cellid SLAM」とは
Cellid SLAMは、大規模空間に対応した高度なARグラス向けのSLAM技術です。
既に現場に導入している汎用単眼カメラからの映像だけを情報として、人工知能によって自己位置の測位を行います。つまり、一般的なSLAM技術で必要となるLiDARやカメラといった専用デバイスが必要ありません。
Cellid SLAMはAndroidやLinux端末、オープンソースであるDockerといった環境で利用できるので、さまざまなデバイスで利用できます。
またCellid SLAMは独自の空間認識技術によって、カメラ位置の推定とデジタルツインの生成をリアルタイムに行えます。そのため、大林組の実証実験のように作業員が単眼カメラを装着して巡視するだけで3次元位置が取得できるのです。
さらにデータはクラウドに保存されるので再利用でき、大規模なデジタルツインであっても4G環境でも作成できます。
もともと位置情報の取得技術には、Bluetoothを使うビーコンや人工衛星を使うGNS(衛星測位システム)がありました。しかしデバイスの調達コストや精度の観点から、建設現場で活用するには至っていません。
そこで人工知能で3次元位置情報を取得できるCellid SLAMによって、ビーコンや全球測位衛星システム(GNSS)の課題をクリアすることができたのです。Cellid SLAMなら専用デバイスも不要で、かつビーコンやGNSSよりも高い精度でデータを取得できます。
Cellid SLAMのメリット
Cellid SLAMを使うと、以下のメリットがあります。
・デバイスの調達コストを抑えられる
・専門知識を持つ人材が不要
・東西南北の他に正確な高さまで測位できる
・3次元マップの保持や拡張ができる
Cellid SLAM必要となるのは汎用単眼カメラと人工知能のみというシンプルな仕様で、測量にかかるコストや手間が大幅に削減できるのです。
Cellid SLAMを使った別の実証実験では、2016年モデルのiPadやiPhone Xを使っています。(※3)建設現場でiPadを導入する企業も増えていますが、Cellid SLAMならiPadなど既存のデバイスを活用できるのです。
またCellid SLAMを搭載したARグラスなどの汎用デバイスがあれば、測量の専門技術者が現場にいる必要もありません。慢性的な人材不足・技術者不足に悩む建築業界にとって、Cellid SLAMは大きな戦力となるでしょう。
今後の展望
Cellidは大林組の実証実験の結果を踏まえ、さらにBIM/CIMで構築したデジタルツイン上で位置情報を反映させて情報の統合を進めていくことを明らかにしました。情報の統合が進めば、Cellidが別で開発を進めているAR付箋の実現も近づいていきます。
AR付箋とは現実空間に記録や注意事項といったデジタルデータを貼り付ける技術で、2021年7月時点でまだ実装アプリは開発中です。工場オペレーションの高度化について行った実証実験ではAR付箋の実験も行っていて、完成すればノウハウ伝承や作業効率化に貢献します。
また同一現場で複数の作業員が同時にカメラを装着して撮影することで、大林組が請け負うような大規模建設現場でも情報をスピーディーに集約でき、さらなる作業効率化が期待できるでしょう。
測量を行う測量士は、建築現場が決まるたびに移動して作業しなくてはいけません。また1日に数件はしごすることもあり、測量場所が広ければさらに負担は増えてしまいます。長時間労働・休日出勤などが常習化する一方で人件費は削減傾向にあり、慢性的な人出不足に悩む企業が少なくありません。(※4)
Cellidの技術を建築業界で活用することで、測量にかかる多くのコストが削減できます。作業が効率化すれば働きやすさにつながり、よりよい仕事へとつながるのではないでしょうか。
建築業界でも進むデジタルツイン
デジタルツインとは、現実空間にあるモノや環境といったあらゆる情報をデータ化して収集し、デジタル空間上で再現する技術のことです。建築業界で導入が進むBIM/CIMの一環としても、このデジタルツインの構築も重要視されています。
デジタルツインが構築できれば、デジタル上でシミュレーションを行ったり設備を遠隔地からメンテナンスしたりといったメリットがあり、建築業界で問題視される働き方改革・人材不足の改善につながります。デジタルツインについては「デジタルツインとは?事例を交えてわかりやすく解説します」で詳しく解説しているので、ぜひお読みください。
今回Cellidが大林組と行った実験も、デジタルツインの実現を目指したものです。国内の大手ゼネコンはCellidのようなIT企業と協力し、BIM/CIMの実現を目指してさまざまな実証実験・試験導入を始めています。
今国内では、データやデジタル技術を活用してビジネスを進化させるDX(デジタルトランスフォーメーション)が重視されています。さらに国交省が2025年までに「原則CIM化」を提唱しており、建築業界も決して他人ごとではありません。
今後も原則CIM化に向けてどのような技術が生まれるのか、注目していきましょう。
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参照サイト:
※1 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000030718.html
※2 https://www.wantedly.com/companies/cellid
※3 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000030718.html
※4 https://media.legal-job-board.com/surveyor-overtime#chapter-1