Google Nest Hub、ブランド名変更の背景とその実力
2019年6月12日、Googleからスマートディスプレイが発売されました。その名も「Google Nest Hub」。Nestと聞くとプログラマーの場合、if文による「入れ子」構造を、ネットワークエンジニアの場合、Hubはイーサネットケーブルがつながれたメドゥーサの首のような機器を想像しませんか? もしそんな幻想を描いてしまうようであれば、少し休暇をとってのんびり海を見に行くべきかもしれません。
このネーミングは、一般消費者には耳慣れない言葉です。「Nest」には居心地のいい休憩場所や隠れ家の意味があります。「hub」の意味は中枢。したがって、「自宅で居心地のよい時間と空間を提供する中枢となる機器」というイメージです。
日本で発売された後、インターネットで伝えられるレビューではGoogleの新しいスマートディスプレイが好意的に評価されています。では、Google Nest Hubの実力はどのようなものでしょうか。
この記事を読むと次の3つのことが分かります。
①Google Nest Hubのブランド名変更の経緯とデザイン性
②Google Nest HubのディスプレイとAmazon製品の違い
③スマートディスプレイが切り開く家電の新しい領域
Google Nest Hubは、なぜブランド名を変えたのか
スマートスピーカーの分野でもGoogleは後発でしたが、Amazon Echoよりデザインがスマートな(洗練された)製品を発売して人気を集めました。米国では、ファースト・ムーバーズ・アドバンテージ(先行者利益)を得たAmazonの圧倒的な市場シェアに追いつくことは困難だったとはいえ、市場シェア2位を獲得する勢いがありました。
あらためて過去を振り返ると、サーチエンジンを展開していた企業が、いまや最先端の家電製品メーカーに成長しつつあります。驚くべき進化です。
ところで、海外ではGoogleのスマートディスプレイは「Google Home Hub」というブランドで発売されていました。しかし、Google Nest Hubにブランド名称が変更されました。なぜ変更したかといえば単純な話で、現地時間で2019年5月7日の「Google I/O 2019」というイベントで発表した通り、2014年に買収したNestという企業を2018年にGoogleに統合したからです。
Nest はスマートホーム向けのサーモスタット(温度を一定に保つ装置)を製造していた企業で、創業したのは「iPodの父」と呼ばれるTony Fadell氏です。彼は元Appleの上級副社長でした。買収されたNestがGoogleを含む巨大な多国籍コングリマリットのAlphabet傘下になった後、彼はGoogle Glassなどのハードウェアを手掛けてきました。
しかしIoT時代が加速するとともに、ハードウェアとソフトウェア、AIなどを統合する必要が生まれました。スマートホームの先駆的ブランドとしてNestは定着しているので、このブランドがスマートディスプレイにも使われるようになったという経緯です。
今後、Googleのハードウェア製品は「Google Nest」というブランドとして統一していく方針です。
ブランド名称変更を深読みすると
いかにもGoogleらしい企業統合によるブランド名称の変更ですが、あらためて興味深いネーミングとして少し深読みをした考察を加えます。
Google Home Hubのネーミングの背後には、スマートホームの構想があります。つまり、スマートスピーカー/スマートディスプレイが家全体の家電を中央制御するコントロールセンターになって、IoTであらゆる家電をコントロールすることであり、「機能中心」の発想です。
一方で、Google Nest Hubのネーミングの背後にあるコンテクスト(文脈)は、ユーザーの「居心地のいい休息」「隠れ家的な楽しみ」などを実現する「ユーザー体験と価値観」ではないでしょうか。
リビングの照明を音声コマンドで消灯できる「利便性」はもちろん、Google Nest Hubはユーザーの癒やされる空間と時間を創出する家電の側面が強くなりました。公式ページにおいても、スマートスピーカーとして機能的な存在感をアピールするのではなく、さりげなく生活に溶け込むザインをメインに訴求しています。
Nestの創業者が元Appleの役員だったことは、偶然だったとしても意味深長です。Appleは、ハードウェアとソフトウェアを統合したパーソナルコンピュータによる「ライフスタイル」を提案し続けてきた企業でした。そして、いまGoogleは新しい時代のAppleになれるかどうかが試されているのかもしれません。
いずれにしてもGoogleは、ハードウェアに本気で取り組む姿勢をみせています。
おしゃれなディスプレイ、Google Nest Hubのデザイン性
Google Nest Hubのディスプレイは7インチタッチスクリーンで、解像度は1,024×600ドットです。本体の横幅は178.5ミリで、ディスプレイ上部には左右の2つの高感度マイクにはさまれて、中央にアンビエントEQセンサーがあります。この光を感知するセンサーで画面の光や色を自動的に調整します。
タブレットのように見えますが、Google Nest Hubのディスプレイは取り外すことができません。ディスプレイの角度も固定された状態です。1,024×600ドットの解像度は、タブレットでは小さな文字は見えにくい場合があります。しかし、スマートディスプレイは細かな文字を表示させる必要があまりありません。YouTubeを鑑賞するのには最適であり、音声コマンドでダイレクトに観たい映像を指定できます。
ライバルとなるAmazon Echoとディスプレイの解像度を比較してみます。
■Amazon Echo Show
10.1インチタッチスクリーン、解像度 1,280 x 800
■Echo Show 5
5.5インチタッチスクリーン、解像度 960 x 480
■Echo Spot(参考)
2.5インチ、解像度 480×480
ちょうどEcho ShowとEcho Show 5の中間サイズです。コンパクトで動画チャットなどを楽しみたいならばEcho Show 5を選択したほうがよいかもしれません。しかしながら好みの問題ですが、三角柱のようなEcho Show 5よりも、ファブリック素材のスタンドに「G」をあしらえたGoogle Nest Hubは背面のデザインがおしゃれです。
また、「チョーク」「チャコール」「サンド」「アクア」の全体的にパステルトーン調の4色から選べることも魅力で、ピンク系のサンドのような女性に好まれる配色を加えたところにセンスがあります。
大型スクリーンを求めるユーザーには、米国では2019年9月に10インチの「Google Nest Hub Max」が発売される予定です。現在発売されているGoogle Nest Hubには寝室などの利用などプライバシーを考慮してカメラがついていませんが、Google Nest Hub Maxにはカメラが搭載されます。このカメラは防犯カメラとしても利用できます。
Google Nest Hub、部屋別の活用方法
実際に家の中でどのような活用シーンがあるのでしょうか。部屋別に便利な機能を解説します。
キッチンではタイマー
料理中に両手がふさがっているときに「タイマーを20分セットして」と声でタイマーを起動させることは便利です。スマートスピーカーでは音声コマンドでタイマーをセットしても「あと残り何分?」などと聞かなければなりませんでした。ところが、スマートディスプレイでは、視覚的にタイマーの残り時間を確認できます。さらに2つのタイマーを起動できるため、複数の料理を並行して進めているときにも役立ちます。
レシピ検索でも、スマートスピーカーの場合、メモしなければなりませんでしたが、画面に調味料の分量などが表示されるので、ディスプレイがあることは大きな違いです。
リビングではフォトフレーム
スマートフォンのカメラで撮影する機会が増えて、デジタルフォトフレームが増えました。Google Nest Hubはデジタルフォトフレームとしても楽しめます。Google Homeアプリから「フォトフレームを編集」を選択し、「Googleフォト」で表示したい写真をアルバムから選択すると、スライドショーとして選択した写真を表示するフォトフレームになります。
遠くで暮らしているおじいさん、おばあさんにGoogle Nest Hubをプレゼントして、リアルタイム共有アルバムの機能を使えば、撮影した当日に写真を共有して見せてあげられるようになります。もちろんフォトフレームだけでなく、旅行に出かける際の経路検索、天気予報、ニュースなど、インタラクティブなラジオや音声アシスタントにもなります。
寝室では時計
OSやブラウザでダークモードが一般化しましたが、アンビエントEQセンサーがディスプレイ上部にあるので、「OKGoogle、おやすみ」ということによって、スマートホームに対応した照明を消灯すると同時に、Google Nest Hubのディスプレイ自体も適切な暗さに調整します。また、同時にアラームや予定などの設定も可能です。
まとめ:スマートディスプレイという新しい家電
スマートスピーカーがディスプレイを搭載することによって、「そうそう、これがほしかったんだよ!」という家電に近づいたのではないでしょうか。音声認識AIを搭載したスマートスピーカーは便利ですが、ウェイクワードで起動して音声で伝えるよりも、タッチパネルで操作したほうが早いときがあります。また、ディスプレイがあれば、ビジュアルによるエンターテイメントの幅が拡がります。
テレビではなく、しかもPCやタブレットでもないスマートディスプレイ。小型で低価格な製品であれば、部屋に一台置いたり、遠隔地に住むおじいさんやおばあさんとのコミュニケーションに使ったり、さまざまな活用ができそうです。
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