有機ELに「価格が高い」以外のデメリットはあるのか
家庭用テレビにPC、スマホなど、身の回りはディスプレイだらけです。昔は大きなブラウン管テレビが主流でしたが、今やディスプレイといえば液晶でしょう。
そして液晶の次にディスプレイ市場を席巻しそうなのが、有機ELディスプレイです。
とても薄く、カーブをつけたり折り曲げたりだってできてしまう、これまでの常識を覆すディスプレイ。そんな有機ELですが、デメリットとして「価格が高い」とよく耳にします。果たしてデメリットは価格だけなのでしょうか。本記事では、有機ELのデメリットについて考えてみます。
この記事を読んでわかること
・有機ELのメリット
・現状での有機ELのデメリット
・有機ELパネル供給の現状
6つのメリットを持つ有機EL
まずは有機ELのメリットについて簡単に確認しましょう。メリットとしてよく挙げられるのは以下の6点です。
・薄い
・曲げる・丸めるなど、様々な形状が可能
・完全な黒を作れる(コントラストがきれい)
・視野角が広い
・電力消費が小さい
・応答が高速(ゲームやVRに強みを発揮)
これらの特徴は、有機ELパネル自体の発光によって映像を映し出していることに由来します。
一方、液晶パネルではバックライトが発光し、その光をフィルターで着色・シャッターで調節することで映像を映し出しています。
※有機EL・液晶の詳しい仕組みは過去記事をご覧ください。
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現状ではメリットが十分活かせないことも
前述したように、多くのメリットを持つ有機ELですが様々な理由によりそのメリットを活かしきれてないケースがあることにも注意が必要です。
例えば、「曲げる・丸めるなど、様々な形状が可能」ですが実際にこの性質をうまく活用したデバイスはまだそれほど多くありません。今年(2019年)になってようやくサムスンから画面が二つに折り曲げられるスマホ「Galaxy Fold」が発表され話題になりましたが、まだまだ有機ELの特性をうまく活かしたデバイスが普段使いできる状況ではないのが現状です。
消費電力が小さいというのも特徴としてあげられていますが、これも現時点では「原理的に液晶よりも消費電力を抑えることができる」ということであって、実際に発売されているテレビなどでは必ずしもそうなってないことにも注意が必要でしょう。
LGエレクトロニクス製の55インチ薄型テレビで、液晶と有機ELを比較(2019年4月10日時点)してみると
55UK6300PJF(液晶)・・・消費電力 135W
OLED55CBPJA(有機EL)・・・消費電力 370W
と倍以上の差が開いています。この比較では単純に液晶と有機ELで最安価格にある製品を比べましたが、「液晶がエントリーモデル、有機ELは高価格対象品」であるという違いがあるため、単純にモニタだけが消費する電力ではないことも原因でしょう。しかし、現行商品でみると単純に「消費電力が少ない」とは言えないことには注意が必要です。
有機ELのデメリットは4点か
しかし、有機ELにも弱点があります。価格の高さを筆頭として、他にも
・日光の下などの明るい場所で見えづらい
・焼き付きが発生する
・寿命が短い
といったデメリットが取り上げられがちです。
では、実際のところこれらのデメリットはどれほど問題視されるものなのでしょうか。果たして、有機ELの使用をためらうほどのものなのでしょうか。
デメリット1:価格が高い
有機ELのデメリットの代名詞とも言うべき「価格の高さ」。実際、どれほど高いのでしょうか。
1つの試みとして、「価格.com」で有機ELテレビと液晶テレビの最安価格を確認してみましょう。
※有機ELテレビは基本的に薄型・大型なので、液晶テレビも同様の条件で見ています。
※有機ELテレビで最安だったLGエレクトロニクス同士での比較です。
70,000円(液晶 55UK6300PJF [55インチ])
146,500円(有機EL OLED55C7P [55インチ])
※値段は2019年4月10日時点。
価格に2倍程度の差があります。
液晶テレビがとても安くなっているため、相対的に「有機ELは高い」と言えそうです。
ただし、有機ELテレビ「OLED55C7P」が2017年6月には35万円ほどだったことを考えると、価格は大きく下がってきています。
(参考:ついに55インチで35万円前後。LG製品は23万円! 普及価格帯に突入した有機ELテレビの最新動向 ? 価格.comマガジン)
この先、「価格が高い」というデメリットがなくなる日が来るかもしれませんね。
有機ELパネルを巡る現状
大型の有機ELパネル生産に関しては現在、LGエレクトロニクス社が独占状態となっています。国内メーカーではソニーが自社製の有機ELディスプレイテレビを発売していたのですが、2010年に撤退しています。現在も東芝などから有機ELテレビは発売されていますが、パネルは全てLGエレクトロニクスから供給を受けている状況となっています。
国内ではソニーとパナソニックが母体となったJOLEDが、国内で唯一有機ELパネル量産に向けて動き出しています。競合相手の少ない中型の特殊用途向け製品からスタートし、いずれはスマートフォン向け(小型・現在はサムスンが独占状態)や、薄型テレビ向け製品の製造を目指しているところです。
▽有機ELスマホについてはこちら
LGエレクトロニクス社とは異なる「印刷方式」と呼ばれる独自技術を持っているため、量産化に成功した場合には「発光効率が良い」「コスト削減可能」など多くのメリットがあるとされています。しかし、量産化するための新規設備には1,000億円単位の巨額投資が必要であり、その資金繰りがうまくできるかどうかが今後のポイントになりそうです。
有機ELパネルの供給メーカーが増えること、新しい技術の開発・導入によって生産コストが下がること、有機ELの需要が拡大し量産化の効果が出ること、などが今後の価格に影響してくるでしょう。いずれにしろ、国内メーカーには頑張って欲しいものです。
デメリット2:日光下で見づらい
有機ELは最高輝度、つまり一番明るくしたときの明るさが液晶よりも低いことが欠点とされています。家電量販店で朝日や夕焼けの映像を見比べてみると分かります。
そのため、屋外の昼間などの日光下や明るい部屋などでは画面が見づらくなります。
外で確認することも多いスマートフォン利用時や、天窓のある部屋・窓の近く等で昼間テレビを視聴する際には、日光を遮るなどの工夫が必要です。
デメリット3:焼き付きが心配?
有機ELは同じ画面を表示し続けた場合、その部分が劣化して色味が変になってしてしまう「焼き付き」が発生します。せっかく高い値段で購入したものがすぐにダメになってしまっては困りますよね。
しかし、普通に1日数時間程度テレビを視聴する程度であれば、基本的にはそれほど焼き付くことはないと言われることもあります。
焼け付きの不安がより強いのは、スマートフォンやゲーム、PCのモニタでしょう。
スマートフォンは画面上部の時間表示やアイコンなどが、ゲームだと体力ゲージなどが同じ部分に表示され続けますし、PCだと画面下や上にずっと表示されているツールバー、タスクバーが気になるところです。また、ゲームやPCは長時間使用する場合も多いです。
焼き付きについてはメーカーも気にしているようで、有機ELテレビや有機ELのスマートフォンには、画面の明るさを調節したり、表示を少しずらしたりといった「焼き付き防止機能」が備わっているものもあります。
前述した「最高輝度の関係から野外では見えにくい」という特性と合わせて考慮すると、デジタルサイネージや屋外に設置するタイプのモニタは液晶が向いていると言えるかもしれません。それぞれの用途を考慮したパネルの選択が必要でしょう。
(参考:有機ELテレビの魅力とは? 東芝REGZAの開発陣にきいてみた (3) 「有機ELの課題」にどう向き合うか | マイナビニュース)
デメリット4:寿命が短い?
有機ELは寿命の短さがデメリットとして挙げられることもあります。
しかし、それは「液晶と比較すると短い」というだけで、実用面ではそれほど問題ではない、とも考えられます。
というのも、有機ELの寿命は3万時間とも言われており(参考:有機ELテレビの魅力とは? 東芝REGZAの開発陣にきいてみた (3) 「有機ELの課題」にどう向き合うか | マイナビニュース)、テレビであれば1日8時間(朝2時間・夜6時間)視聴したとしても10年程度耐えられる計算だからです。
スマートフォンなら、仮に1日16時間(7時間睡眠、1時間風呂以外の全ての時間)使用したとしても5年ほど使用できます。
有機ELの寿命が尽きるよりも、テレビやスマートフォンを買い換えるスパンの方が短いのではないでしょうか。
また、有機ELテレビを販売しているLGエレクトロニクス社の社員は10万時間が過ぎてから有機ELの明るさが減っていく、とも述べており、今後さらなる長寿命化が期待されます。
(参考:LGエレクトロニクス、有機ELテレビ大衆化の準備完了…2018年までに10兆ウォン投資(2) | Joongang Ilbo | 中央日報)
価格の高さ以外で気になるデメリットは日光下での見づらさと焼き付きリスク
有機ELのデメリットについて見てきました。
結果、現状では
▲ましになったとはいえ、液晶と比較すると価格はまだ高い。
▲日光下などの明るい場所では有機ELパネルの輝度が足りず、見づらい。
△画面の焼き付きリスクは存在する。しかし、普通の使用では焼き付きはそこまで気にしなくてよいと言われることもある。また、焼き付きを軽減する機能が組み込まれている商品も出ている。
○一般的な利用期間を耐える程度には寿命がある。
ということが分かりました。
また、有機ELテレビは現状だと「ハイエンドユーザー向け」の高価格商品として発売されています。そのため、50インチ以上の大型モニタが主力であり、32インチなどの中型モニタ用の商品がないこともデメリットとしてあげられます。これは「中型の薄型モニタ市場では、まだ高価格な有機ELテレビは競争力がない」というメーカーの判断によるところが大きいと思われます。
しかし、この現状も2020年ぐらいからは、テレビ用の有機ELを量産できる海外メーカーが複数登場しそうだということですから、一気に液晶から置き換わる可能性を秘めています。いずれにしろ、現時点でのデメリットの一つとして「サイズを自由に選択できない」ことも指摘しておきましょう。
まとめ
現時点もメーカー各社が開発にしのぎを削っている状況ですから、こうしたデメリットは順次解決されていくと思われます。将来的には価格と最大輝度、焼き付きリスクというデメリットも克服され、有機ELが液晶に取って代わっているかもしれませんね。
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