効率化だけに留まらないBIMの導入事例5つ
この記事を読むと、以下の3つのことがわかります。
①BIMが導入される分野
②多岐にわたるBIM導入事例
③導入各社の取り組みから見るBIMの影響と活用法
建築・設計分野に普及しているBIM(Building Information Modeling)は、3Dモデルデータを作成し、素材などの属性情報をもたせ、施工・管理にまで情報を活用するワークフローです。直感的に把握できる3Dモデルを使い、建物に関する情報をBIMで一括管理することによって効率化やコストの削減を図ります。
本稿では5件の導入事例を取り上げ、効率化だけに留まらないBIMの魅力を探っていきます。
BIMが導入される分野
3Dモデルを作り、それに情報を集約させるというBIMのスタイルは建築・設計分野と親和性が高いです。また、細かな計画や管理が必要な他の分野でも活用されています。
BIMソフトウェアRevitを提供する大手のAutodeskでは、Revitが関連する分野を、
・建築設計
・構造エンジニアリング
・MEP(機械、電気制御、配管)エンジニアリング
・建設施工
と捉えています。
どの分野も柱となるのは3Dモデル
どの分野でも、BIM活用の中心となるのは3Dモデルです。これは、今回導入事例として取り上げるAutodeskのRevit、VectorのVectorWorks Architect、福井コンピュータアーキテクトのGLOOBE全てに共通しています。
2D図面を併用するケースも当然存在しますが、属性情報まで内包する3DモデルなくしてBIMは語れません。
多岐にわたるBIM導入事例
本稿では前述したBIMソフトウェア製作3社の公式サイトにて紹介されている事例から、5件をピックアップします。導入各社の発想豊かな取り組みに迫り、効率化だけに留まらないBIM活用の可能性を探っていきます。
導入事例1-株式会社奥村組によるBIM測量(Revit)
2015年よりBIMを本格的に活用している奥村組では、BIM測量というユニークな技術が広まっています。
BIM測量は建物などのBIMモデルと、現地での測量結果を統合して管理するシステムです。Autodesk Revitによる3Dモデルと連携させるためAutodeskのアドインやクラウドシステムであるBIM360 Glueを用意し、iPadにiOS用アプリBIM360 Layoutをインストールを行い、遠隔操作可能な測量機LN-100を用いることによって、単独での出来形管理や墨出しが可能となりました。
このBIM測量に関しては「使ってみたい」という問い合わせが工事所から来るほどで、豊かな発想から生まれた技術の魅力を物語っています。測量の結果をBIMモデルにフィードバックし、工事関係者の間で共有できるのも大きいです。
導入事例ではBIM測量を活用し杭芯のずれを発見するなど、効率だけではなくBIM活用に基づく正確性の向上も示されています。
また、ユーザーからの要望に応え、Android版のBIM360 LayoutがリリースされるなどRevit中心としたAutodeskソフトウェア内の連携は強固になるばかりです。
(*1)
この取り組みから分かるBIMの影響と活用法
Revit単体では行えないプロジェクトですが、3Dモデルをスマートデバイスで利用し、BIMを使い単独で測量を行う様子は創意工夫と技術の融合と言えます。3Dモデルへのフィードバックもあり情報の一括管理に向いたBIMらしい事例です。
また、Revitを中心としたソフトウェアの連携も利用されていて、BIMソフトウェアの中でも汎用性の高いRevitの強みがうかがえます。
導入事例2-ホーア・リーエンジニアリングコンサルタント会社によるバーミンガム音楽院の音響設計(Revit)
バーミンガムシティ大学でのバーミンガム音楽院における音響設計事例です。500席のコンサートホール、リサイタルホール、練習部屋、オルガンスタジオ、ジャズクラブの設計がシミュレートされました。各フロア内での音響が求められるのと同時に、各フロアはお互いにとって完全防音である必要があります。それはダクト1つの配置にも影響してくるため、非常に緻密な計画が求められました。
ホーア・リーはRevitをはじめとするAECコレクションを使って、このプロジェクトに挑みました。
//修正文開始
Revitはもちろん、VR環境を構築するための3ds Maxも欠かせない存在でした。そのためホーア・リーはAECコレクションを採用しました。
//修正文終了
//AECコレクションの内容を確認してもらうために設けたリンクでした。文章を修正し、AECコレクションへの導線を分かりやすいものにしました。赤文字の文章も修正前として残しております
(*2) //修正分によって対処しました
Revitによる3Dモデル作成によって設計は進んだものの、音という見えないものを扱う音響を手掛けるとあって、プロジェクトは複雑になっています。ここで自社ソフト内での連携に優れたAutodeskのAECコレクションが力を発揮します。
施工中のフロアで1つ1つパイプやダクトのサイズを変更し、その都度現場で音響を確かめていくのは、その労力を考えると現実的ではありません。しかしRevitによる3Dモデルがあれば、コンピュータ上でそのシミュレートができるため、演奏に適した空間をより良いものに仕上げられます。
まだAutodeskの3Dレンダリングソフトウェアである3ds MaxとVRを使い、3Dモデル内で位置を変えた際の音響を確かめるなど、先進的な試みもなされています。ここでも中核となったのは、Revitであり、それによって創造された3Dモデルでした。
(*3)
この取り組みから分かるBIMの影響と活用法
音響という見えないものを視覚化する上で、3Dモデルが果たした役割は紛れもなく大きなものです。
このプロジェクトではAutodeskのAECコレクションが用いられ、BIMによる3Dモデルを中心としながらも、同社ソフトウェア内の連携をフルに使った、総力戦とでもいうべく事例となっています。それと同時に、ホーア・リーの立てた計画の緻密さが光るプロジェクトです。
VRを使い、3Dモデル内で音響を確かめていく手法も先進的であり、様々な点で目を引く事例です。
導入事例3-株式会社バウハウス丸栄のインテリアデザイン(VectorWorks Architect)
年間5000件以上の商業空間を手掛けるバウハウス丸栄では、2011年にも事例が取り上げられたように、早い段階でVectorWorks Architectによる3Dモデルを活用しています。
2018年の事例ではVRによる提案もなされており、先進的な技術の追求には目をみはるものがあります。また、クライアントによっては3Dモデルに着色し、柔らかなイメージでコンセプトを伝えるなど顧客本位のスタイルも貫かれています。
中でもパノラマレンダリングによるウォークスルーはクライアントに好評で、インテリアの種類、質感、配置を直感的に確認できるのは大きな強みです。また、アニメーション取り出しの『回転して撮る』機能を用い、動画を作成した例が紹介されています。これは動画のシークバーをスライドさせることによって、水平方向への視点を疑似的に動かすことができるもので、独創的な発想が光ります。
また、新入社員研修にVectorWorksのセミナーを盛りこむことによって、技術を習得させながら、併せて企業の方向性を示し、一貫型の業務推進へ一丸となって向かっています。
//修正文開始
また、新入社員研修にVectorWorksのセミナーを盛りこむことによって、技術を習得させながら、併せて企業の方向性を示し、一貫型の業務推進へ一丸となって向かっています。
//修正文終了。ケアレスミス申し訳ありません
(*4)
//消し忘れのリンクを削除しました。重ね重ねケアレスミス申し訳ありません
この取り組みから分かるBIMの影響と活用法
年間5000件という数字は、BIMによる効率化がなければ、膨大なマンパワーによる人海戦術の様相を呈しますが、バウハウス丸栄の取り組みは、そのデザインするインテリア同様、非常にスマートなものです。
インテリアに関する情報をどこまで伝えられるか試みたVRやパノラマレンダリングの例はBIMの得意とするところであり、利用者は直感的にインテリアがどのように配されるか確認可能です。
また、BIMの3Dモデルに着色し、クライアントにフィットする形でプレゼンテーションや説明を行うなど効率化ばかりではなく、創意工夫の余地が存在するBIMの魅力を引き出す事例となっています。
導入事例4-福井工業大学工学部建築土木工学科における設計演習および製作(GLOOBE)
産学共同=実学という理念によって行われた取り組みです。いくら技術の進歩によってBIMがソフトウェア面で進化を遂げたとしても、それを使用する技術者あってこその話です。この事例では技術者の育成に重きがおかれています。
また、BIMソフトウェアGLOOBEを製作している福井コンピュータアーキテクトが、その地元でもある福井工業大学と共同でプロジェクトを立ち上げる姿からは、国産ソフトウェアの強みを生かす同社の戦略も見て取れます。
実務CADを学ぶ全ての学生にGLOOBEが利用できる専用IDが交付され、学生たちはBIMをコンピュータ上で動かすだけではなく、実際に「坂井市竹田の里プロジェクト」に参加し、ツリーハウス・ドームのデザイン提案から、材料発注、施工まで行いました。
ツリーハウス・ドームのデザインは2Dの図面では製作が難しい独創的な形状をしており、学生たちの豊かな想像力をBIMソフトであるGLOOBEが後押しする形となりました。また、3DモデリングソフトウェアSketchUpとの連携もこのプロジェクトには見られ、BIMソフトウェア業界で進む他社製ソフトウェアとの連携を体感できる内容にもなっています。
BIMソフトウェアの強みである3Dモデルを使ったプレゼンテーション演習も組まれており、BIMのメリットを余すところなく伝えようという試みはGLOOBE利用IDを交付された学生のみならず、開発元である福井コンピュータアーキテクトにとっても、BIMの未来へと通じる、着実な一歩となっています。
(*5)
この取り組みから分かるBIMの影響と活用法
多くの学生が携わった「坂井市竹田の里プロジェクト」では、BIMによってツリーハウス・ドームのデザインから施工の情報が管理されました。情報をBIMによって一括管理することによって、BIMが得意とする情報共有や効率化を、学生たちが身をもって学べる事例となっています。
そして、福井コンピュータアーキテクトによるGLOOBEのID交付は、ほぼ2D図面に触れていない状況でいきなりBIMを使う、デジタルネイティブならぬBIMネイティブを生み出しました。創意工夫によって新たな使い方が生まれるBIMの世界に、斬新な発想をもたらす可能性を秘めています。
他社製ソフトウェアとの連携もあり、プロジェクトによって多種多様のソフトウェアと連携をはかるBIMの特色まで見られる一例です。
導入事例5-設計施工一貫にこだわった長谷工コーポレーションによるBIMカスタマイズ(Revit)
設計施工一貫のBIMにこだわってきた長谷工コーポレーションは、2019年の3月期に着工したプロジェクトの3割でBIMを導入しています。さらに、2022年3月期には全案件への全面導入を目指すなど、BIM活用への意欲は留まるところを知りません。
Revitによる3Dモデルを使うだけではなく、設計施工一貫を目指す同社はワークフローに適した形にRevitをカスタマイズしました。RevitのアドオンツールH-cueBを共同開発し、BIM導入時の問題点でもある「データの重さ」「データ精度の確保」「生産効 率の低下」を解消する端緒となる自動化ツールをシステムに組みこみました。
長谷工版BIMとも呼べる、設計施工一貫に向けカスタマイズされたRevit活用を経て、施工図をなくし統合図に一本化。設計部門と建設部門の垣根がなくなりました。このシームレス化は、Autodeskの打ち出す多業種、他社製ソフトとの連携と軌を一にするものであり、BIMの将来図を示した形でもあります。
また、長谷工コーポレーションはBIMに着想を得たであろうLIM(Living Information Modeling)という概念を編み出し、設計施工一貫へ真摯な態度で臨んでいます。LIMはセンサー活用などによって、人々が住みはじめてからの建物の状態、設備の利用状況や人の動きなどを把握し、その情報を一元化する仕組みのことです。
(*6)
2009年からBIMに取り組んできたその先進性は、Revitカスタマイズの効率化やシームレス化を経て、LIMという新たなモデルを生み出す形で結実しました。RevitなどのBIMソフトウェアがもつ、汎用性、発展性を示す好例です。
(*7)
この取り組みから分かるBIMの影響と活用法
長谷工コーポレーションが目指す設計施工一貫は、BIMの強みである情報の一括管理や各種ソフトウェアの連携と親和性が高く、その結果長谷工版BIMとも言うべきカスタマイズされたRevitが誕生します。
また、3Dモデルを中心とした情報の一括管理によるシームレス化はこの事例でも見られ、部門の垣根を取り払う結果となりました。そして、長谷工コーポレーションが提唱するLIMの概念はBIMの存在抜きにしては語れません。BIMという概念がもたらした影響力の大きさがうかがえます。
まとめ
5つのBIM導入事例に触れて参りました。既にお気づきかも知れませんが、今回取り上げた事例は、VRやソフトウェア同士の連携、カスタマイズなど、BIMの拡張性が感じられる内容となっています。それと同時に、BIMの概念や機能そのものが人間の豊かな発想の土壌となったケースも見受けられます。
BIMソフトウェアは主に効率化を図るためのツールではありますが、より良いものを創り出そうとする人間のポテンシャルを引き出す一面も秘めています。これからも斬新で自由な発想がBIM利用者の間に生まれることでしょう。
(*1) http://bim-design.com/catalog/pdf/Okumuragum-CaseStudy.pdf
(*2)https://www.autodesk.co.jp/collections/architecture-engineering-construction/included-software
(*3) https://www.autodesk.com/solutions/bim/hub/hoare-lea-designs-with-bim
(*4) https://www.aanda.co.jp/casestudy/2019/2019-01.html
(*5) https://archi.fukuicompu.co.jp/architectstylelab/info/10
(*6) https://www.haseko.co.jp/bimlim/index2.html
(*7) http://bim-design.com/catalog/pdf/Haseko-CaseStudy.pdf
建設・土木業界向け 5分でわかるCAD・BIM・CIMの ホワイトペーパー配布中!
CAD・BIM・CIMの
❶データ活用方法
❷主要ソフトウェア
❸カスタマイズ
❹プログラミング
についてまとめたホワイトペーパーを配布中
大手ゼネコンBIM活用事例と 建設業界のDXについてまとめた ホワイトペーパー配布中!
❶大手ゼネコンのBIM活用事例
❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX
▼キャパの公式Twitter・FacebookではITに関する情報を随時更新しています!