国交省が発表するBIM/CIM 活用ガイドラインから読み解けること
日本における建築・土木関連のさらなる業務効率化は、人手不足や需要の増加、そして未曾有の災害に備え、ますます我が国における喫緊の課題として明確になりつつあります。
そこで官民を超えて急務と考えられているのが、BIMおよびCIMの活用です。次世代の標準的なテクノロジーとして受け入れられつつあるこれらの技術は、国土交通省においても活用ガイドラインが策定されるなど、大々的に普及が進んでいる様子が見受けられます。
今回はそんな日本におけるBIM/CIM活用の現状や、国交省のガイドラインに見る活用方法とその課題などについてご紹介していきます。
①BIM/CIMの活用が急激に進む日本
②担当者に求められる役割と視点
③運用に向けた課題の検討も必要
BIM/CIM活用の現状
まず、現在の日本国内におけるBIM/CIM活用の現状について見ていきましょう。
BIM/CIM活用の定義
国土交通省が定義するBIM/CIMの活用においてポイントとなってくるのが、測量・調査、設計段階から3次元モデルを導入するという点です。
測量から施工、そして完成後の維持管理まで一貫して同じ3Dデータを使用することで、事業者間における情報共有が簡略化され、建設および管理のコストパフォーマンスを飛躍的に高めてくれる効果が期待されています*1。
生産性向上に必要な要求事項(リクワイヤメント)
BIM/CIMは比較的新しい概念である以上、導入に際して、どのように運用するのが効率的なのかという検討は欠かせません。
CIMモデルの構築やオンラインでの電子納品の施行、CIMモデルを活用した工事費、工期の算出や、照査の実施など、あらかじめ発注者が受注者に対して要求事項を設定することで、効率的なBIM/CIMの活用が期待できます*2。
国交省では2012年度より開始
BIM/CIMの運用は、日本でも官民を問わず10年近く前から行われており、国土交通省でも2012年度よりBIM/CIM関連の業務を開始し、2013年度には施工に移っています*3。
国交省では2018年までに291件の設計業務、339件の工事を行っていますが、2018年度だけで147件の設計と65件の工事を行っていることから、ここ数年でBIM/CIM活用の件数が大幅に増加していることがわかります。
2019年度は全体で400件の設計・工事を目標としており、この数字は前年度の倍近い件数とも言えます。しかしながらBIM/CIMの活用を積極的に推し進めていこうという機運の高まりや、建設需要の高まりを考えると、決して達成不可能な目標ではないことも確かです。
国交省が考えるBIM/CIM活用
次に、国土交通省が考えているBIM/CIM活用の担当者が押さえておくべき視点と役割について見ていきます。
担当者に求められる二つの視点
国交省が活用担当者に求める視点として、「フロントローディング」と「コンカレントエンジニアリング」の二つが挙げられています*4。
フロントローディングは、工程のフロント(初期)において集中的な検討を行うことで、その後の工程において生じうる仕様変更などを未然に防ぎ、円滑な業務の遂行と品質の向上、そして工期の遅れや、それに伴うコストの増加を防いでくれる効果を期待できます。
BIM/CIMの活用によって同一のデジタルデータを始終運用することができるため、工程に応じて柔軟に負荷の掛け方をアレンジできるのは、デジタルデータ活用の大きな魅力です。
コンカレントエンジニアリングは、3Dモデルやその他のデジタルデータを各部門で情報共有できるようにすることで、開発プロセスにおける各工程を同時並行で進められるようにするという手法です。
事業関係者がリアルタイムで情報共有を各部署間で密に行うようになることで、品質の向上が期待でき、意思決定の迅速化にも役立ちます。そして何より、工程の同時進行によって、工期の大幅な短縮が見込めるのが大きな特徴です。
担当者はこれらの視点を持ちながら、BIMおよびCIMの運用を進めていくことが求められます。
担当者が負うべき責務と役割
BIM/CIMの活用にあたり、担当者が負うことになる責務と役割についても確認しておきましょう。
まずは、BIM/CIMモデルの確認と、実施において支障がないよう、ハードウェアとソフトウェア、そして通信環境が整備されていることをの確認です。あるいは受発注関係者間の調整も担当者が率先して行う必要もありますし、そもそもBIM/CIMの活用を実施する箇所についても明確化する必要があります。
現場の混乱を防ぎ、円滑にシステムを運用できる環境を整えるのが、担当者の役割です。
BIM/CIM導入の課題
最後に、BIM/CIMの導入に伴う課題についても確認しておきましょう。
生産性における定量的な評価基準の検討
BIM/CIMを導入して、実際に生産性が向上するかどうかは、適切に運用ができるかどうかにもよりますが、そもそも従来の方法と比べてどれほどの効果が期待できるか、という効果分析がどれほど可能なのかについては疑問が残る点もあります*5。
効果を分析する上で、比較対象として他に有効な評価指標を発見し、データとして提示できるかどうかが、BIM/CIMの運用普及に大きくつながってくると考えられています。
3Dデータのオンライン共有・活用に関する懸念
3Dモデルが各部署で同様のものが共有され、作業プロセスが効率化されるのは良いものの、どれほどの機能まで許可するべきかについては議論の余地があります。
誰でも自由に閲覧できるということは、セキュリティ上の懸念をもたらしてしまう心配もあるだけでなく、自由に編集できてしまうと、誤った情報が一斉に共有され、全ての工程においてミスが発生してしまうリスクも生じます。
各プロジェクトごとに、システムの仕様についてはきちんと精査する必要があるでしょう。
おわりに
日本におけるBIM/CIMの活用はまだまだ始まったばかりで、どのプロジェクトにおいても手探りで試験的に導入を進めている段階です。
積極的に運用を進め、環境をBIM/CIM活用に最適化させていくことが求められています。
出典:
*1 国土交通省「発注者におけるBIM/CIM実施要領(案)」p.4
http://www.mlit.go.jp/tec/content/001331315.pdf
*2 国土交通省「BIM/CIMの課題克服に向けた検討」
http://www.mlit.go.jp/common/001252267.pdf
*3 建マネ「国土交通省におけるBIM/CIMの普及・促進の取り組み」p.8
http://kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/248/fa_01.pdf
*4 *1の資料 p.5-6
*5 *2の資料 p.14
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