超高速インターネット実現の鍵を握る、光コヒーレント通信技術とは?
光コヒーレント通信技術とは?
「光コヒーレント通信」とは、大容量通信方式のひとつで、光の波としての性質を利用した技術です。コヒーレント(coherent)とは干渉性があるという意味で、周波数や波長がわずかに異なる複数の光を、同時に送受信することで搬送波を多重化しています。
また、光を強度変調する方式に比べて受信感度が優れているとされています。
光コヒーレント通信を実現する技術は?
コヒーレント光通信は、波の“進み”と“遅れ”である「位相」と「振動方向」を用いる技術で、波が特定の方向に伝搬している場合に、波を進ませたり遅らせたりといった制御ができるようになります。この技術は“位相変調”と呼ばれており、コヒーレント通信では波の位相をずらすことによって信号を伝達する方法が用いられています。
そして、伝送経路の前と後にFDM装置(WDM装置)を設置することにより、複数の波長に多重化させた光信号を1本の光ファイバーケーブル上で発生させてデータ転送を行います。このため、従来の光ファイバーでは、何本にも分割して伝送する必要でしたが、光コヒーレント通信では1本の光ファイバーで通信可能です。理論上では、1本の光ファイバーで、数T(テラ)bps~数十Tbps程度の伝送速度が実現するとされています。
無線通信の場合、有線と同様に、2つの異なる振幅・周波数・位相に0または1を与える通信方式となっており、それぞれASK(Amplitude Shift Keying)、FSK(Frequency Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)と呼ばれています。
1980年代、レーザー光が発見されたころからコヒーレント通信の研究はなされていたものの、当時の研究では、検波の方法と中間周波数信号の安定化という問題がありました。その後の研究の成果により、コヒーレント光の受信部が受信帯域から外れた光波を減衰させることを利用して、光による多重通信が可能になることが確認されました。
このため日本をはじめ各国が、コヒーレント光通信を次世代の光ファイバー通信技術として注目しています。しかし、強度変調方式比べて、送信機や受信機の構成が複雑になる上に、発光素子や光ファイバーに対する技術条件も厳しくなることが今後の課題と言えます。デジタルコヒーレント技術は、加速度的に莫大になりつつあるトラフィックをサポートするために必須であり、今後のさらなる研究が待たれるところです。
コヒーレント光通信により私たちの生活はどう変わる?
デジタルコヒーレント光通信を利用した超高速無線通信が実現すると、私たちの生活には次のようなことが実現すると言われています。
- 携帯端末への音楽・動画のダウンロードが容易になる
例えば、携帯音楽プレーヤーのメモリを、従来の無線LAN(IEEE 802.11n)で転送する場合、超高速無線通信では半分以下の時間でダウンロードできるようになります。また、デジタルカメラ・ビデオカメラ内の高解像度の写真やハイビジョン動画などをケーブルなしでワイヤレスでパソコンに転送でき、その転送も瞬時に行われます。 - 災害発生時の通信回線の確保が可能となる
災害発生などで光ファイバー回線が遮断された場合でも、移動無線車などで現地に向かえば、その場で通信回線を確保できます。マイクロ波による移動無線車自体はすでに実用化されているものの、超高速無線通信が実用化されれば、ひとつの無線通信回線でより多くのユーザ数を許容できるようになります。 - 電波資源が有効利用できる
超高速無線通信ではまだ利用の少ない帯域である“ミリ波帯”を使うことになるため、限られた電波資源の有効利用が可能になります。
光コヒーレント通信技術に関する、今後のさらなる研究により実現が待たれるところです。