新技術で進む建設業の製造業化の現状は
建設業界は技術革新により、ここ数年で大きな様変わりを続けてきました。特にICTを導入した現場の様子は以前と大きく異なり、まるで製造業の工場のような姿にも変容しつつあります。
実のところ、建設現場のこのような製造業化は、ある種必然と言える変化でもあります。建設業界がこのような変化を遂げた理由について、みていきましょう。
目次:
①建設業で進む製造業化
②建設業で採用が始まるモジュール工法
③建設業界における3Dプリント技術の躍進
建設業で進む製造業化
一昔前の建設業のイメージといえば、暑い日差しが差す中で多くの人が建設現場に集い、負担の大きな重労働に身を投じているというものが一般的でした。
しかし最近では建設現場の技術革新により、無人機やロボットが多く活用される機会も増え、人の気配も消えつつあります。
また、現場に従事する作業員も体を壊すような重労働に身を置く機会も減り、まるでデスクワーカーと変わりない業務内容になってきているケースも見られます。
生産性向上に向けた「i-Construction」の推進
このような変化が建設業界に現れたのは、国土交通省によって打ち出された「i-Construcution」の推進が背景にあります。i-Construcutionとは、一言で言えば建設現場における生産性向上に向けた、ICTの導入による現場改革の推進を目的とする方針です。
建設現場は重労働であるだけでなく、多くの人手を要する場所です。
しかしながら現在日本は少子高齢化が進み、労働人口が減少の一途を辿っているだけでなく、熟練の労働者も一線を離れ、技術力の低下も危ぶまれています。
この影響を特に受けているのが、建設業界なのです。
そのため、建設業界はこれまでの働き方とは異なる、より効率的で革新的な業務遂行プロセスが求められることとなりました。ICTの導入によって、建設現場を製造業のように効率化してしまう方向性です。
建設現場は工場のように効率化された空間へ
建設業界へのICT導入はまだ始まったばかりですが、すでに現場へ大きな影響を与えています。設計はBIMの導入によって一気にデジタル化が進み、一つのデータを施工から運用まで一貫して活用できるような環境が整備されました。
また、施工においてもロボットやAIの導入による作業の自動化、あるいは精度の向上が進み、作業員が重労働やリスクのある業務から解放されることとなりました。
また、デジタルデータで建設現場を管理することが可能になったことで、現場のマネジメントはリモートでも行えるようになり、一人で複数の現場を管理することも容易になっています。その結果、建設現場からは徐々に必要な人の数も減り、着実に現場の無人化は進められることとなったのです。
製造業は次々に工場の自動化を進め、今や工場といえば無人が当たり前になっていますが、今建設現場においても同じような現象が起こっています。
建設業で採用が始まるモジュール工法
建設業の無人化を促進する技術として注目されているのが、モジュール工法の存在です。
モジュール工法とは
モジュール工法とは、建設現場で全ての組み立てを行う従来の方式とは違い、あらかじめ工場などで建物をモジュールとして組み立てたのち、それを現場に運び込み、完成させるという手法です。
現場で行う作業はモジュール同士を接着させ、組み立てるだけの単純作業であるため、各地に熟練作業員や精密機器を送り込む必要はなくなります。
また、陸上輸送だけでなく海上輸送にも優れているため、海外の建設予定地へモジュールを送り込み、竣工することも可能です。
モジュール工法のメリット
モジュール工法のメリットは、なんと言ってもそのコストパフォーマンスにあるでしょう。
モジュール工法は海外の安い工場でモジュールを組み立て、日本へと輸送することでコストカットも可能なので、建築現場にかかる負担の軽減はもちろん、必要な機器や人間の数も少なくなります*1。
モジュール化することで輸送コストも安価になるため、従来の海外委託よりもはるかに効率的です。
また、モジュールをユニット単位で建築し、増築や減築も柔軟に行えるので、可逆性が高く柔軟な建築が行えます。
余ったユニットや減築で生まれたユニットは、別のプロジェクトに活かすこともでき、無駄な資源が出ないのも特徴です。
モジュール工法でプラント建設を実施する日揮
モジュール工法を積極的に活用し、グローバル展開を進めているのがエネルギー会社大手の日揮です。
日揮は世界各地のプラント開発において、早くからモジュール工法を採用しており、現地の環境に合わせたプラントをモジュールで組み立てています。
ロシアやオーストラリアなど様々な地域で導入を進めており、効率的な建設を実現しました*2。
建設業界における3Dプリント技術の躍進
建設業界においてもう一つ注目を集めているのが、3Dプリンタの活用です。
建設業界における3Dプリンタの活用方法
3Dプリンタはこれまでテーブルサイズのオブジェクトの生成に役立ってきましたが、人の生活を直接支えるようなサイズのプロジェクトに採用されることはありませんでした。
しかし近年では国内外で3Dプリンタを用いた建築が実験的に進められており、建設用の3Dプリントシステムの開発も行われています。BIMデータを活用することで、3Dプリンタで正確に建物の部材などを抽出し、建設現場で用いる日も近いでしょう。
3Dプリンタ導入のメリット
3Dプリンタの最大のメリットは、やはり複雑な形状の部材を簡単に生産できるところにあります。これまでコンクリートの壁を作るのには型枠を利用するのが一般的でしたが、3Dプリンタを使えば直接壁の形状を生成できるため、多大な業務効率効果を期待できます。
また、これまでの技術ではあり得なかった形状の部材を生成できるようになれば、新しい建築の可能性を追求することも可能です。3Dプリンタの登場によって、新しいコンセプトの建築物も登場するかもしれません。
3Dプリンタで作り上げた大林組のシェル型ベンチ
建設用3Dプリンタの可能性を期待させてくれる事例としては、大林組が完成させたシェル型ベンチが挙げられます。セメント系の材料と3Dプリンターを使い、7メートルにもなる幅のベンチはその規模もさることながら、曲線が多用されているシェル型構造を採用している点も特徴です*3。
従来の建築技術では困難とされてきた形状の建築物を3Dプリンタで生成できるとなれば、多様な建築の可能性が広がっていくでしょう。
おわりに
建築業界で製造業のように効率化が進められているのには、労働人口の不足と熟練者の減少という、深刻な問題を抱えていることに端を発しています。
しかしその結果、国内では次々に新しい建築技術が誕生し、新しい働き方や多様な建設物の可能性も花開きつつあります。
今後数年で、建設業界の働き方改革が大きく進み、新しい感動を与えてくれる職業へと生まれ変わるかもしれません。
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*1 川村建設「モジュール工法」
http://www.kawamura-k.co.jp/products/module.html
*2 日本経済新聞「資材組み立て現地に運搬 日揮、プラント建設を効率化」
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD090K2_Z01C13A0000000
*3 ニュースイッチ「なんと幅7m、3Dプリンターで製造した巨大シェル型ベンチがスゴい」
https://newswitch.jp/p/20568