普通のCADとどこが違う?「建築CAD」の機能と主な種類
設計や製図を支援するアプリケーションソフトのCAD(キャド)は、建築の分野でも必要不可欠なツールです。線や円を組み合わせて製図を行う「汎用CAD」も多く使用されていますが、中には建築に特化した「建築CAD」を使用している場合もあります。
今回は、汎用CADと建築CADの違いをご説明するとともに、建築分野で良く使用されているCADをご紹介します。
建築CADとは
汎用CADは建築設計でも多く使用されています。しかし、わざわざ建築に特化されたCADが存在するという事は、より作業効率を上げ、ミスを減らすという点において優れているからにほかなりません。
一般のCADとの違い
日本で多く使われているAutoCADやJW_CADは汎用CADと呼ばれており、基本的にどのような図面も描くことが可能です。これらのCADを使用して建築図面を作成しているCADオペレーターも多いでしょう。
しかし、汎用CADで建築図面を作成するためには平面図と立面図は別々に作成する必要がありますし、ドアや窓の形状も一つ一つ描くか、ブロックにして登録しておかなければなりません。また、ダクトや配管などの設備に関するものは、平面図と立面図からそれぞれ立体の形状を確認し、梁や高さを考慮して設計していく必要があります。
戸建て住宅などの比較的小さな建物などではさほど気になりませんが、大規模なビルや公共の建物(ホールなど)では設計ミスを誘発する可能性が高くなってしまうのです。
建築CADは3次元(3D)での表示がメインとなっており、視覚的に構造を認識しながら設計を行えるという大きなメリットがあります。また、ドアなど必要とされるパーツや壁や床の模様(テクスチャー)が豊富に用意されているなど、設計しやすさとイメージを掴む機能が格段に高くなっています。
建築CADは建築設計に欠かせないツール
このように、建築設計において「建築CAD」は欠かすことができないツールとなっています。大きなビルなどの設計を手掛ける建築事務所では検討段階から建築CADを使用している場合が少なくありません。そのため建築士にとって、建築CADの操作スキルは必須と言えるでしょう。
また、ある程度設計が進めば、続きはCADオペレーターに任せることになる場合も多いです。建築系はCADオペレーターにも人気のある分野ですので、建築系の仕事を専門としたCADオペレーターになりたいと考えている方は、こういった建築CADの操作をマスターしていることで差別化を図れます。特に建築事務所などでの就業を希望している場合には、ぜひ修得しておきたいスキルといえます。
建築CADの種類と特徴
建築CADといっても設計事務所などで使われているものにも種類があります。ここでは主なソフトとその特徴をご紹介していきましょう。
AutoCAD
汎用CADとして最も有名なのがAutoCADです。ACAD(エーキャド)とも呼ばれ、多くの企業の様々な分野で使用されています。ソフト自体は少々クセがあるものの、世界中で普及していることもあり、日本語特有のフォントを使用しなければ海外でもそのまま表示・使用が可能になっています。
二次元(2D)での使用がほとんどだと思われがちですが、実は標準で3D機能が搭載されています(2D機能に限ったものはAutoCAD LTといいます)。その機能の中には2019版より建築に特化したツールが含まれるようになりました。窓やドアといったものだけでなく、空調や電気の配管や配線などのオブジェクトも豊富に用意され、ビルなどの構造モデリングなどに必要な鋼材や配管などの設計ができるツールが標準で搭載されています。こちらの機能で3Dモデルを作成すると、自動で平面図や立面図、断面図ができるようになっており、図面化の時間が大幅に短縮できるようになっています。
JW_CAD
完全なフリーソフトであるJW_CADも比較的小規模な企業を中心に利用されています。特に建築に特化した機能はありませんが、一般的な2D CADとして機能面で劣ることもなく、コストもかからないことから導入する企業・個人は増えているといえるでしょう。
SketchUP(スケッチアップ)
3Dのモデルを作成できるCADで、主に建築やインテリアの分野で使用されています。WindowsでもMacintoshでも使用することが可能であることや、機能は制限されているものの無料版の「SketchUp for Web」も提供されているため、個人で勉強をするために利用することもできるようになっています。
直感的な操作により比較的容易に修得できることから、プロ・アマチュアを問わず広く普及しています。
VectorWorks(ベクターワークス)
汎用CADとしてAutoCADに並ぶのがVectorWorksです。2D CADとして使用されているのは「ベーシックタイプ」と呼ばれるものです。
このVectorWorksには建築に特化したタイプが3種類(3種類の機能をすべて搭載した「Designer」を含めると4種類)用意されており、目的に応じて選べるようになっています。VectorWorksの建築CADは全て3D CADとなっています。
モデル全体とその一部を同時に表示させることができるマルチビューや360°見渡せるパノラマビューなどで、バランスを見ながら操作が可能になっています。2016以降のバージョンではより実物に近いレンダリング(質感の表示)が可能になりました。またBIM(BIMについては後述します)の機能も持ち合わせており、より高度な設計が可能になっています。
Revit(レビット)
AutoCADを開発したAUTODESK社が、BIMに特化したCADとして作り出したのがRebitです。
BIM(ビー・アイ・エム)はBuilding Information Modelingの略で、分かりやすく説明すると、コンピューターの中に実際の建物を作ってしまうようなイメージでしょうか。BIMは3D CADとよく似ていますが、それぞれのパーツに素材やメーカー名や品番、価格などの情報を付加することができる点が大きく異なります。つまりモデルに素材データが含まれているため、モデルを組み上げた時点で実際の建物のイメージだけでなく、コストや資材をどの程度使用しているかが分かるようになっているのです。
ArchiCAD(アーキキャド)
前項でご説明したBIMソフトの代表格でもあり、BIMソフトならArchiCADかRebitと言われるほど有名なCADです。もともとがMacintosh用のソフトとして開発されたため、MacintoshでもWindowsでも使用が可能です(RebitではそのままではMacintoshでの使用は不可)。
Rebit同様、複数の設計者が分担して作業を同時に行える環境を備えており、より迅速な設計が可能になっています。また図面の自動作成や、使用している資材の数の一覧表なども取り出せる機能が備わっているのも特徴のひとつと言えるでしょう。
日本におけるBIMの普及について
RebitやArchiCADといったBIMは、これからの建築設計の主流となって行くと考えられます。特に海外での大きなプロジェクトにおいては、入札条件にBIMの使用を義務付けている場合もあり、日本としても積極的に取り入れて行こうという動きがあります。
国土交通省では令和元年6月に、BIMの活用の推進と、建築物の生産プロセス・維持管理における生産性向上を図るため「建築BIM推進会議」を設置しました。その内容は『建築BIMの将来像と工程表』というパンフレットにまとめられています。
一般社団法人「日本建築業連合会」が2016/2018年にゼネコン各社に行ったBIMの導入に関するアンケートでは導入企業は60%から76%へ増加しているとされています。一方で、一般社団法人「日本建築士事務所協会連合会」の2018年のアンケートでは「導入済み」が17.1%、「導入済みだが未活用」が12.9%と決して高くはありません。
BIMの有効性は認めているものの、導入コストが高い、設計に関わる人材がBIMを使いこなせなければならない、今の状態で問題がないなどという理由から、BIMが建築CADのスタンダードになるにはまだまだ時間がかかると考えられます。
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