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「DXレポート2」とは?概要と要点を説明します

近年、デジタル技術による業務・ビジネスの変革・効率化を意味する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が急速に注目を集めています。

経済産業省が設置した「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」(以下「DX研究会」といいます)では、国内におけるDXの推進を目的として、各種レポート・ガイドライン・指標などの公表を行っています。
2020年12月28日には、DX研究会により『DXレポート2(中間取りまとめ)』(以下「DXレポート2」といいます)が公表され、日本におけるDXの現状の到達点や課題認識などが示されました。

(参考:「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました」(経済産業省))

今回は、DXレポート2の全体像が分かるように、その要点をピックアップして紹介します。

1.DXレポート2が公表された背景

1-1. 先行する『DXレポート』における主な問題意識
DXレポート2に先行して、DX研究会の前身である「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」は、2018年9月7日に『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(以下「DXレポート」といいます)を公表しています。

DXレポート2の大きな目的の一つは、DXに関する直近の状況を踏まえて、DXレポートにおいて提示された以下の問題意識を克服するための大まかな指針を示すことにあります。

1-1-1. レガシーシステムに内在するDX化の阻害要因
DXレポートでは、(2018年当時において)日本国内の各企業によって利用されている既存のITシステムが、DX化の推進に当たって足枷となっているという問題意識が提示されました。

その理由として、既存のITシステム(「レガシーシステム」)に関する以下の問題点が指摘されています。

①システムの複雑化・ベンダーへの開発丸投げ・有識者の退職・スクラッチ開発の多用などによって、ITシステムがブラックボックス化し、ユーザー企業が自社でシステムを修正することが不可能になっている。
②レガシーシステムが一応機能している間は、時間とコストがかかり、リスクもあるシステム刷新に取り組むインセンティブが生じにくい。
③レガシーシステムの運用・保守費が高騰し、DXをはじめとした将来へのIT投資に資金・人材を振り向けることが困難となっている。

1-1-2. ユーザー企業の経営層・各部門・人材等に内在するDX化の阻害要因
またDXレポートでは、ユーザー企業における経営層・各部門・人材等に関する課題として、以下の問題点が指摘されています。

①レガシーシステムの刷新に関して、経営層の強いコミットがない企業が多く、現場サイドの抵抗を押し切ることができない。自社のITシステムに対する経営層の現状把握・理解も必ずしも十分でない。
②ユーザー企業のCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)がベンダーに責任を押し付け、またはベンダー企業の提案を鵜呑みにする傾向にある。
③システム投資に対して、事業部門がオーナーシップをもって関わる仕組みになっていない場合が多い。
④ユーザー企業において、DX化の推進を主導できる、システムやプロジェクト・マネジメントに精通した人材が不足している(ベンダー頼みになっている)。

1-1-3. DX化を推進しない場合の影響
さらにDXレポートは、DX化の推進を阻害する各要因が存在する中で、DX化を推進しない場合には、以下の悪影響・リスクが生じてしまうことが指摘しています。

①レガシーシステムの刷新に関して、経営層の強いコミットがない企業が多く、現場サイドの抵抗を押し切ることができない。自社のITシステムに対する経営層の現状把握・理解も必ずしも十分でない。
②ユーザー企業のCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)がベンダーに責任を押し付け、またはベンダー企業の提案を鵜呑みにする傾向にある。
③システム投資に対して、事業部門がオーナーシップをもって関わる仕組みになっていない場合が多い。
④ユーザー企業において、DX化の推進を主導できる、システムやプロジェクト・マネジメントに精通した人材が不足している(ベンダー頼みになっている)。

1-2. 日本国内におけるDXの取り組みの現状
DXレポートで指摘されている問題意識などを踏まえて、DXに対する現状への危機感を持つ国内企業は増加しています。

その一方で、DXの取り組みを始めている企業と、まだ何も取り組めていない企業に二極化しつつある状況です。
DXレポート2の「エグゼクティブサマリ」では、2020 年10 月時点での企業約500 社におけるDX 推進への取組状況を分析した結果、全体の9割以上の企業が未着手または散発的な実施に留まっている状況であることが指摘されています。

1-3. コロナ禍の影響による事業変革ニーズの高まり
2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、企業を取り巻く環境が急激に不安定化したことによって、新たな事業環境に合わせた事業変革が、あらゆる業界の最優先事項となっています。

経済産業省は、コロナ禍を踏まえたうえで、DXによるシステムの変革を含めた企業文化全体の変革を推進していくことが、企業の取り組むべき本質的な課題であることを指摘しています。

今回のDXレポート2は、「コロナ禍を踏まえて浮き彫りになったDXの本質及び、企業・政府の取るべきアクション」がテーマとなっており、コロナ対策の要素がきわめて重要な位置づけを与えられています。

2.DXの現状認識とコロナ禍で表出したこと

2-1. DX推進指標の自己診断から読み取れる我が国DXの現状

(引用:DXレポート2 7頁)

2019年・2020年に、情報処理推進機構(IPA)が中立機関として、DX推進状況に関する各企業の自己診断結果の収集・分析を行いました。

その結果、2019年調査の時点で、約95%の企業はDX にまったく取り組んでいないレベルにあるか、DX の散発的な実施に留まっており、全社的な危機感の共有や意識改革の推進といったレベルには至っていないと判断されました。
2020年調査においても、この状況の顕著な改善は見られませんでした。

さらに詳細な自己診断結果の分析によれば、現在の平均的な日本企業においてDXの取り組みが遅れている理由・課題は、以下の点にあることが指摘されています。

・経営層による危機感、必要性の欠如
・適切なガバナンス
・DX人材の育成、確保に関する成熟度
・経営のスピード・アジリティに対応したIT システムの構築や事業部門のオーナーシップ

2-2. コロナ禍で明らかになったDXの本質
新型コロナウイルス感染症の影響により、「感染拡大を防ぎ顧客・従業員の生命を守りながら、いかに事業を継続するか」という対応を強いられた企業は、はじめて自社のデジタル化が遅れていることを現実の課題として実感したと考えられます。
(例)テレワーク制度の導入、PCの追加購入・支給、ネットワークインフラの増強等

別の観点から見れば、コロナ禍において急速にテレワークが普及したことは、経営トップの判断により、大きな変革が短期間に達成できることの証左であることが指摘されています。
さらに、DXへの取り組みについても、コロナ禍という危機を捉え、経営トップのコミットメントのうえで速やかに取り組むことが同様に可能であることが明らかになったとされています。

(出典:DXレポート2 11頁)

DXレポート2では、コロナ禍を踏まえて、

「単にレガシーなシステムを刷新する、高度化するといったことにとどまるのではなく、事業環境の変化へ迅速に適応する能力を身につけると同時に、その中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)することである」

とDXの本質を再定義しました。

そのうえで、コロナ禍を好機として企業文化を刷新し、ビジネスを変革できない企業は、デジタル競争の敗者としての道を歩むことになると警鐘を鳴らしています。

3.デジタル企業の姿と産業の変革

3-1. 企業の目指すべき方向性
コロナ禍の状況では、人と人との接触を極力減らし、遠隔・非対面での社会活動が強く推奨される中で、従来と同様の生活水準を維持する必要に迫られています。
その結果、これまでデジタル技術が適用できるとは考えられていなかった領域においてもデジタル化が進んだほか、デジタル技術をあまり活用してこなかった層もデジタルサービスを利用するようになりました。

(例)ECモール・通販が購買に占める割合がほとんどの世代で増加、AmazonやファーストリテイリングといったEコマース企業の増収・増益

このような状況では、ビジネスにおける価値創出の源泉はデジタルの領域に移行しつつあり、この流れはコロナ禍が終息した後も元には戻らないと考えられます。

コロナ禍でデジタル化が加速する状況下において企業が競争優位を獲得するためには、

「常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、「素早く」変革「し続ける」能力を身に付けること」

が重要であると指摘されています。

特にコロナ禍では、社会の変化のスピードが格段に上がっているため、企業は生き残りのために、中長期的な課題も見据えながら、短期間での事業変革を達成し続けることが必要です。
そのためには、短期間で実現できる課題を明らかにし、ツール導入などによって解決できる足元の課題には即座に取り組み、DXのスタートラインに立つことが求められることが指摘されています。

3-2. ベンダー企業の目指すべき方向性
ベンダー企業は、これまでも企業のITシステムを担ってきており、DXの推進に当たっても重要な役割を果たすことが期待されます。

多重下請構造・ウォーターフォール型を前提とする現在の開発委託システムの下では、対価が労働量に応じて設定されることが多いため、ベンダー企業にとって生産性の向上や新規技術の習得に対するインセンティブが働きにくいという問題があります。

今後の社会においては、ユーザー企業は絶えず変化する顧客のニーズに対応するために、自社のIT システムを迅速に更新し続けることが必要です。
そのためには、より迅速な開発対応を可能とするアジャイル型開発を前提として、ユーザー企業とベンダー企業が共創的パートナーとなってDXを推進すべきであることが指摘されています。

DXレポート2では、今後の新たなベンダー企業像として、以下の4つの形態を提示しています。

①ユーザー企業の変革を共に推進するパートナー
②DXに必要な技術・ノウハウの提供主体
③協調領域における共通プラットフォーム提供主体
④新ビジネス・サービスの提供主体

4.企業の経営・戦略の変革の方向性

DXレポート2では、企業がデジタル企業へと変革するために、以下の取り組みが必要であることが指摘されています。

・事業変革の環境整備(DXを推進する関係者間での共通理解の形成、社内推進体制の整備など)
・競合他社との協調領域の形成
・変革を対等な立場で伴走できる企業とのパートナーシップの構築
・変革を遂行する人材の確保

これらの観点を踏まえて、企業が今後行うべき取り組みが、超短期(直ちに)・短期・中長期の3つの時間軸で以下のとおり示されています。

4-1. コロナ禍を契機に企業が直ちに取り組むべきアクション

4-1-1. 製品・サービスの導入による事業継続・DXのファーストステップ
コロナ禍における急速な事業環境の変化に対するもっとも迅速な対処策として、まずは以下に挙げるような市販製品・サービスの活用による対応を検討すべき旨が指摘されています。

①業務環境のオンライン化
テレワークシステム、オンライン会議システムなど
 
②業務プロセスのデジタル化
OCR製品、クラウドストレージ、各種SaaS、RPA、オンラインバンキングツールなど
 
③従業員の安全・健康管理のデジタル化
活動量計、バルス調査ツールなど
 
④顧客接点のデジタル化
電子商取引プラットフォーム、チャットボットなど

もっとも、これらの製品・サービスを導入するだけでDXが達成されるわけではなく、後述する短期的・中長期的対応の取り組みへと発展させなければなりません。

4-1-2. DXの認知・理解
DXは製品・サービスの導入のみで達成されるものではなく、企業経営者が自ら考えて取り組みを進めることが必要です。
そのため、各種公表資料などを参考として、経営者がDXの理解を深めることが重要であると指摘されています。

4-2. DX推進に向けた短期的対応

4-2-1. DX推進体制の整備
DXを推進していくための前提として、企業内部において以下の体制整備を行う必要があります。

①DX推進に向けた関係者間の共通理解の形成
DXの推進に当たって協働する経営層・事業部門・IT部門の間で、DXに関する基礎的な共通理解を初めに形成します。
特に、対話においてIT部門からアイディアや知見を引き出すため、IT部門が経営層や事業部門と対等な立場で議論できるように、マインド・環境を経営層が変えていくことが必要です。
 
②CIO/CDXOの役割・権限等の明確化
CIO/CDXO(Chief DX Officer)とは、DX 推進のために経営資源の配分について経営トップと対等に対話し、デジタルを戦略的に活用する提案や施策をリードする経営層を意味します。
経営トップに適切なリーダーシップを発揮させるため、CIO/CDXOの役割・権限を明確化したうえで、適材適所の人材配置を行うことが大切です。
 
③遠隔でのコラボレーションを可能とするインフラ整備
企業がDXを推進するには、製品・サービスを短期間で市場に投入するスピードが重要です。
そのためには、従来のシステムを「作る」という発想から、他社を含めた既存サービスなどを「使う」「繋げる」という発想への転換が必要であり、必然的に外部技術者とのコラボレーションの価値が高まります。
 
こうしたコラボレーションを効率的に実現するには、遠隔でのコラボレーションを可能とするインフラ整備を適切に行うことがポイントになります。

4-2-2. DX戦略の策定
契約書などへの「押印」に代表されるように、これまで当たり前とされていた業務プロセスの中には、前例を踏襲しているだけで実は見直しによって効率化可能なものや、積み重ねられた個別ルールによりかえって非効率となっているものが潜んでいる可能性があります。

コロナ禍において業務プロセスの抜本的な見直しの必要に迫られる中で、デジタルかつ顧客起点の見直しを恒常的に行えば、大幅な生産性向上や新たな価値創造が期待できることが指摘されています。

4-2-3. DX推進状況の把握
DX推進指標を活用した診断を定期的に実施して、アクションの達成度を継続的に評価し、関係者間での認識共有や、次に取るべきアクションを明確化することが推奨されています。

(参考:「デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました」(経済産業省))

4-3. DX推進に向けた中長期的対応

4-3-1. デジタルプラットフォームの形成
DXレポート2では、企業が今後システムを利用するに当たって、以下の点に留意することが必要です。

①自社の強みとは関係の薄い協調領域と、ビジネスの強みである競争領域を識別すること
②協調領域におけるIT投資を効率化・抑制し生み出した投資余力を競争領域へと割り当てていくこと

協調領域における効率化を実現するためには、業界内の他社と協調領域を形成して共通プラットフォーム化することも検討すべきことが指摘されています。

4-3-2. 産業変革のさらなる加速

4-3-2-1. 変化対応力の高いITシステムを構築するために
競争領域を担うシステムにおいては、スモールスタートで仮説としての製品・サービスを市場に提示し、データによる仮説検証を実施し、その結果に基づいて製品・サービスを改善するというサイクルを繰り返す必要があります。
そのためには、大規模なソフトウェア開発の一括発注を行うのではなく、アジャイルな開発体制を社内に構築し、市場の変化を捉えながら小規模な開発を繰り返すべきです。

しかし、開発体制の変化は一朝一夕には実現できないため、他企業とのパートナーシップの構築が重要となります。

4-3-2-2. ベンダー企業の事業変革
ベンダー企業側から見ると、協調領域のITシステムがパッケージソフトウェアやSaaSの利用に代替され、競争領域のITシステムがユーザー企業で内製化されることにより、大規模な受託開発は減少していくものと考えられます。

従来の大規模ソフトウェアの受託開発には、開発費用が労働量に対する対価となっている
ため、生産性の向上によりかえって売上が下がってしまうという構造的なジレンマがありました。
さらにベンダー企業は、エンジニアを安定的に供給する観点から、自社に不足している労働力を下請企業との取引で補っており、このことが多重下請構造という社会問題を構成しています。

ベンダー企業に対する需要の変化に対応して、ベンダー企業自身も価値中心の取引へと舵を切れば、ユーザー企業とベンダー企業の双方における内製化とアジャイル開発への移行との相乗効果により、エンジニア需要が平準化し、結果として多重下請構造の解消も期待できることが指摘されています。

4-3-3. DX人材の確保
DXは、企業が自ら変革を主導することにより達成されますので、その推進に必要となる人材は、ベンダー任せではなく、ユーザー企業が自ら確保すべきです。

DXの推進に適した人材を確保するための方策として、以下のものが提案されています。

・ジョブ型人事制度の拡大
・専門性を評価する仕組みや、リカレント学習の仕組みを導入
・副業、兼業を行いやすくし、人材流動や、社員が多様な価値観に触れる環境を整える

5. 政府の政策の方向性

5-1. 事業変革の環境整備

政府は、企業がレガシーカルチャーから脱却して個社のDXを確実に前進させるため、DXに関する共通理解の形成やDX戦略の立案の支援など「事業変革の環境整備」の支援に踏み込む必要があります。

5-1-1. DXの認知・理解

(引用:DXレポート2 29頁)

DXは、地域・中央の差や企業規模の大小に関係なく成長のツールとなるため、地域経済の中心的な担い手となり得る企業(「地域未来牽引企業」)におけるDXの認知・理解向上策は重要です。

認知・理解向上策の具体案としては、共通理解形成のためのポイント集の活用や、企業が経験やノウハウを共有する場の支援などが挙げられています。

5-1-2. DX推進体制の整備
DX推進体制の整備に関する問題意識として、以下の2点が提示されています。

①DX とは何か、会社のビジネスにどう役に立つのか、という基本的な事項についての共通理解が企業内で形成されていないため、具体的なアクションに繋がらない
→対応策として、経営層向けの「ポイント集」の策定が挙げられています。
(参考:「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました」(経済産業省))
 
②国内においてCIO とCDXO の役割に関する共通の認識が確立されていない。
→対応策として、CIOやCDXOなど(「CxO」)が担うべき役割や、ガバナンスの対象事項について再定義を行うことが挙げられています。

5-1-3. DX戦略の策定

企業がDX戦略を策定するに当たって、一部の経営者からは、具体的に何をすればよいのかわからないという声が聞かれました。

その対応策として、政府がDX の具体的な取組領域や、成功事例をパターン化し、企業において具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DX 成功パターン」を策定することが挙げられています。

5-1-4. DX推進状況の把握

これまでもDX推進指標による自己診断やベンチマークを推進してきたものの、依然としてさまざまな業種・業界、規模の組織における網羅的な調査には至っていません。

国内産業のDX推進状況を俯瞰的に把握し、効果的な政策に繋げるためには、DX推進指標の周知をさらに進めることが必要とされています。

また、追加での対応策として、「プラットフォームデジタル化指標」「プラットフォーム変革手引書」の策定が挙げられています。

これらは情報処理推進機構(IPA)にて策定中ですが、早期の完成が目指されています。

5-2. デジタル社会基盤の形成

政府は、個社のみで対応しきれない顧客・社会課題を迅速に解決するため、個社の垣根を越えた協調領域のプラットフォーム形成の支援や、デジタル市場の将来像を見据えた産業構造の再設計などの「デジタル社会基盤の形成」を促すべきことが指摘されています。

5-2-1. デジタルプラットフォームの形成

企業が経営資源を競争領域に集中するには、競合他社を含めた合意形成による共通プラットフォームを構築し、協調領域に対するリソースの投入を最小限にする必要があります。

共通プラットフォームの構築に当たっては、その中立性の担保が重要となるため、公的機関の役割も重要です。

政府は、幅広い業界へ共通プラットフォームの横展開が可能となるように、共通プラットフォームの形成を阻害している要因の除去や、加速のための施策について検討するとしています。

さらに、異なる事業者間や社会全体でのデータやITシステムの連携を容易にするために、デジタルアーキテクチャの設計と、設計を主導できる専門家の育成を進めているとしています。

5-3. 産業変革の制度的支援

デジタル社会の実現による恩恵を国全体に行き渡らせるためには、市場原理に委ねるだけでは解決が難しい産業変革が不可欠です。

そのため、政府による地域の中小企業への支援も含めた「産業変革の制度的支援」が重要になります。

5-3-1. 製品・サービス活用による事業継続・DXのファーストステップ

4-1-1.で言及したように、DXが進まない企業にとっては、既存の製品・サービスを活用することが第一歩といえます。

中小企業をはじめとして、これまでDXを進められなかった企業への支援として、以下の既存施策の普及展開を図るとしています。

・ものづくり補助金
・IT導入補助金
・中小企業デジタル化応援隊
・地方版IoT推進ラボ
・ITコーディネータの普及
など

5-3-2. 産業変革のさらなる加速
産業変革をさらに加速するためには、ユーザー企業のDXを起点として、ベンダー企業の事業構造の変革を促す必要があります。
ベンダー企業は受託開発型のビジネスと決別し、ユーザー企業のDXを支援・伴走して牽引するようなパートナーに転換していくことが求められます。

ベンダー企業の事業変革の状況を把握し、抜本的な変革を後押しするためには、レガシー企業文化から脱却して変化に迅速に適応できる「優れた」ベンダー企業が有する機能・能力を明確にすべきであることが指摘されています。
そのため政府は、ベンダー企業の競争力を定量的または定性的に計測できる指標を策定すしたうえで、変化の阻害要因を明確化し、今後の具体的な方策について検討するとしています。

また、コスト面からもデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革を後押しするため、以下の施策が提示されています。

・DX投資促進税制
・中小企業向けDX推進指標の策定(自己診断の実施による社内のDX推進状況把握を、各種補助金の要件として位置づけるなど)
・DX認定企業向けの金融支援

さらに、研究開発投資やデータ・AIを用いたビジネスモデルの転換を支援するため、研究開発税制についての見直しを実施するとしています。

5-4. 人材変革
政府は、DXを推進する実行力のある人材を確保するため、国家的に「人材変革」に取り組む必要があります。

5-4-1. DX人材確保
DX人材に関する問題点として、国内における人材の流動性が低いうえに、IT人材がIT企業に偏在しているため、DXを実行するために必要な人材がユーザー企業内に十分確保されていないことが指摘されています。

(引用:DXレポート2 42頁)

IT人材不足に応えるような人材の育成・確保を実現するために重要となる施策として、以下のものが挙げられています。

①学び直し(リカレント教育)の仕組みを整備
・文系出身者によるITスキルの獲得
・ITエンジニアによる新たな技術の習得
など
②ITスキルの能力開発に関するモチベーションを向上させる仕組みの整備
・デジタル人材市場における課題と、人材確保の在り方の再検討
・デジタル時代の人材評価、育成の在り方の再検討
・テレワークを活用したDX人材の活用
・社外との協業を通じたスキル向上
など

5-5. 今後の検討の方向性
上記の各施策を普及展開するに当たっては、指標分析や統計調査等、データに基づく効果測定を定期的に行うことで、施策の効果を最大化すべくフィードバックを繰り返すとしています。

6.DXレポートでの指摘とその後の政策展開

6-1. DXレポートでの指摘
本サマリー冒頭でも言及したとおり、DXレポート2に先行して公表されたDXレポートでは、複雑化・老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムに関するリスクなどに伴う経済損失は、2025年以降、最大年間12兆円にのぼる可能性があるという問題が指摘されていました(「2025年の崖」)。

2025年までに集中的なシステム刷新を行うことを目標として、DX研究会(およびその前身組織)は、DXレポート以降、以下の公表を行いました。

2018年12月:「DX推進ガイドライン」
(参考:「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)を取りまとめました」(経済産業省))
2019年7月:「DX推進指標」
(参考:「デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました」(経済産業省))

6-2. DX実現シナリオで目指す産業構造変革
本文の総括的な内容として、DXの実現に向けては、以下の産業構造変革に向けた取り組みが必要であることが指摘されています。

・協調領域のクラウド、共通プラットフォーム活用
・競争領域の内製化
・ビジネス部門とIT部門が一体となって行う戦略策定、実行、検証の繰り返し
・価値創出の基盤となるIoTの活用、XCPSの構築、ビッグデータを管理できるクラウドコンピューティングの活用
など

さらに、DXを阻害する要因として以下のものがあることを指摘しています。

・既存システムの複雑化、ブラックボックス化により、運用保守コストが増大し、さらに新機能の追加が妨げられている
・エンジニア等の人材がベンダー企業に偏在しており、ユーザーとベンダーの間で情報の非対称性がある
・多重下請構造の下で超過利潤を享受可能なプライムベンダー企業の変革が進まない

そのうえで、DXを推進していくには、ユーザー企業においてビジョンを明確にし、全社で共有するとともに、ビジネスとデジタル技術で戦略立案していくことが重要になるとしています。

6-3. DX推進政策のこれまでの考え方
企業においてDXが進まない理由として、以下の2つが挙げられています。

①デジタル技術の理解不足とそれによるビジネス変革の遅れ
②社内IT部門と経営や他部門の対話不足と、それによるレガシーシステムの温存

上記の問題点を生み出しているのは、各企業が「DXは進めた方がよいと理解している」ものの、「自社は健全である」と誤認しているためであることが指摘されています。

このような企業の行動を変容させるためには、「認識の入れ替え」と「周辺環境の整備」が必要です。
経済産業省は、「認識の入れ替え」のためにDX推進指標等の策定を、「周辺環境の整備」としてデジタルガバナンス・コードの策定と認定制度の施行を行っています。

6-4. DX推進政策の展開
最後に、DXレポート以降の政策展開が、以下の図のとおりまとめられています。

(引用:DXレポート2 51頁)

2020年11月に取りまとめられた「デジタルガバナンス・コード」では、持続的な企業価値の向上を図っていくためには、企業全体の組織構造や文化の改革、中長期的な投資を行う観点から、経営者の関与が不可欠なものであることが指摘されています。
さらに、DXに関するステークホルダーとの対話を経営者の主要な役割と位置づけ、対話に積極的に取り組んでいる企業に対して、資金・人材・ビジネス機会が集まる環境を整備していくこととしています。

  

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