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スマートスピーカーの投入でAppleは再び世界を変えられるか

今回の記事のタイトルは、「Appleは再び世界を変えられるか?」と大上段に構えてみました。実際Appleは、これまでにいくつものユニークな製品を市場に投入し、世界を何度も変えてきた奇跡の企業です。今回のスマートスピーカーの投入によって、再びAppleは奇跡を起こすことができるのでしょうか。

 

 

スマートスピーカー「Home Pad」

 

昨年6月のWWDCでAppleはスマートスピーカー「Home Pad」を発表し、今年の2月から発売を開始しています。Googleの「Google Home」やアマゾンの「Echo」に続き、後発ではありますがスマートスピーカーの市場に参入してました。現在Appleはこれらの企業と並ぶ世界有数の優良企業の地位を築いていますが、過去には倒産の危機を迎えた時期もありました。スマートスピーカーの話題の前にAppleのこれまでの歴史を簡単に振り返ってみましょう。

 

 

過去に何度も世界を変えてきたAppleの歴史

 

1984年 マッキントッシュ発売

 

1984年、画期的なGUIと入力デバイスとしてのマウスを標準装備した、マッキントッシュを発売し、パーソナルコンピューターという市場を作り出しました。直感的に操作できるアプリを搭載し、レーザーライターという周辺機器と画面で見たまま印刷できるWYSWYGを実現することで、デスクトップパブリッシングというこれまでにない領域を開拓しています。最初に世界を変えたのがこの時でした。

 

1998年 iMac発売

 

その後Windowsを発表したマイクロソフトとのシェア争いに破れたAppleは、倒産の危機を迎えます。ここに創業者であるジョブスが戻ってきてiMacを発売しました。これが1998年の事です。iMac自体はコンシューマー向けの、決して高機能とは言えない製品でしたが、トランスルーセントなデザインと、当時普及し始めたインターネットへの接続が容易にできることなどから大ヒットしました。一般ユーザーが気軽にインターネットへ接続できる機器を普及させるとともに、ビジネスユースか一部のマニアックな層が扱うイメージが大きかったパーソナルコンピューターを、レイトマジョリティー層のホビーユースにまで広げた功績を考えると、これも「世界を変えた」製品と言えるでしょう。

 

2001年 iPod発売

 

この成功を機に、Appleは奇跡的な成功の道を歩み始めまます。次にAppleが発売したのがiPodです。デジタル化された音楽を1000曲分簡単に持ち歩くことができる、というコンセプトで開発されました。当時こうした音楽プレイヤーは他にも存在しましたが、その操作性とデザインで多くの人から愛され、爆発的なユーザーを生むことに成功しました。

当時、ジョブスはSonyの製品にリスペクトをしていたということが伝わってきています。例えば、ウォークマンは録音機能のない再生専用機として企画されました。当初営業担当者からは「そんな低機能な製品が売れるはずがない」という社内評価だったそうです。それを押し切って開発したところ、大成功をおさめ「音楽を持ち歩く」という文化を創出しました。iPodもコンセプトは同じで、機能を一部制限しても操作性とデザインを追求したことによって成功に繋がっています。

 

2003年 iTune Music Store開始

 

2003年には音楽のダウンロードサービスであるiTune Music Store(IMS)を開始します。当時はNapsterなどで海賊版ではありますが、音楽配信サービスが先行していました。これに対してIMSは、アメリカの五大レーベルとの契約を取り付け、正規のルートで音楽が購入できると言う画期的なものでした。音楽をダウンロードしてiPodで持ち歩くという新しいマーケットを作り出すことに成功します。

ここまでご紹介した通り、Appleのこれまでの製品と言うのは先行する製品やサービスが既に存在しているものが多いのです。その製品やサービスをブラッシュアップし、より洗練された形でユーザビリティーを増した製品に昇華させることによって、圧倒的な存在感を示すのがAppleの得意な手法です。

 

2007年 iPhone発売

 

次に発売前から製品化が期待されていたスマートフォン分野への進出で、iPhoneが発売されます。現在Appleがスマートフォンメーカーとして世界へ君臨してるのはこのiPhoneの成功にほかなりません。2007年に颯爽と壇上に登場したジョブスは「電話を再定義する」と宣言しました。インターネットに容易に接続可能なモバイル端末であり、当時普通であったハードウェアキーボードを外した画期的なデザイン。また、Appleの真価でもある抜群の操作性でそれまでのスマートフォンを一掃します。その後、タブレット端末であるiPadなど快進撃が続きます。

 

Apple製品に共通する特徴とは?

 

簡単にAppleのこれまでの歴史を振り返って見ましたが、特徴的なのは次の点です。
・すでに先行する製品やサービスが存在する
・決して多機能を追求するのではなく、デザインと操作性で他を圧倒する
・新たな価値観とマーケットを創造する

さて、本題のスマートスピーカーですが、今回の「Home Pad」でAppleは再び世界を変えることができたのでしょうか?また、「スピーカーを再定義」したのでしょうか?

 

 

Home Padは現時点ではまだ十分な性能とは評価できない

 

残念ながら、各種の使用レポートでは「Home Pad」にはそれだけのインパクトが現時点ではないように思われます。スマートスピーカーに求められる以下の性能に関して、先行するサービスよりもやや劣っているようです。

・音声による操作
・AIアシスタントが回答
・周辺機器や関連するサービスへのアクセス

もちろん、スピーカーですから音楽の再生というのも重要なファクターではあります。しかし、ただ音質が良いというだけではスマートスピーカーとは言えませんので、やはり重要なのは上記の点での性能ということになるでしょう。Home Padはナビゲーション、カレンダー、電子メール、通話など、他のスマートスピーカーが対応している分野でもまだ未対応な部分があり十分とは言えません。

 

Google Homeがやや優勢

 

音声での操作と、AIアシスタントの適切な回答という点では、Googleに軍配をあげる調査結果が多いようです。膨大なビックデータを自社のインターネットサービスで収集・分析し、AIの開発に力を入れているGoogleがこの分野で先行するというのは当然かもしれません。こうして見てみると「Home Pad」は肝心の部分で後発であるにも関わらず、Google Homeの方が優勢であるというのは否めないでしょう。現時点でのHome Padは「世界を変える」ほどのポテンシャルはありません。

 

 

ジョブスの夢 デジタル製品のハブ

 

ある程度予想はできたものの、長年のAppleユーザーでもある筆者にとってやや残念な結果であると言えます。ジョブスがAppleに復帰した際に「コンピューターのシェア争いで、Appleはマイクロソフトに負けた。」と宣言し、それに続いて「だから、コンピューター以外の製品とサービスにシフトする。」と方針を転換したと伝えられています。その時に「デジタル製品のハブとして機能する新たな機器」の開発を指針としました。

さらにこれまでのApple製品に共通するのは「画期的な入力デバイスの採用」です。マッキントッシュでのマウスの採用、ノートパソコンで採用したトラックパッド、iPhoneでのソフトウェアキーボード、スワイプなどのアクションでの操作の実装など、いずれもユーザーが機器をそれまでよりも容易に、感覚的に操作することができる改革をどこよりも早く取り入れてきました。

デジタル機器のハブとして機能し、音声入力という新しい情報入力手段を利用するスマートスピーカーで、しかもAppleが後発として参入する。これまでの画期的なApple製品と同じような環境が整っていただけに、期待したいところではありましたが現時点では「世界を変える」ほどではないと言う結果となりました。しかし、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピューターなどのデジタル機器で、ハードウェア・ソフトウェアの両方を製造し、世界最大規模のアプリストアと音楽ダウンロードサービスを提供している企業はApple1社だけです。これらの製品やサービスがシームレスに連携し、その中核に音声入力デバイスをうまくフィットさせることができれば、Appleが再び世界を変えることができるのかもしれません。

 

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