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Googleに、政治的・商業的な検索バイアスは存在するのか

偏った報道を繰り返すマスメディアや、フェイクニュースばかり飛び交うインターネットメディアに対し、日本人のメディアに対する信頼度は下がる一方です*1)。同時にこうした傾向は、適切な情報を取捨選択するスキルのメディアリテラシーがより重要な社会になっていることも意味しています。
中でもGoogle検索ほど、利用者のスキルが明暗を分けるメディアはないでしょう。世界で最も検索エンジンの利用シェアを占める「Google検索」は、適切な検索ワードを打ち込むことであらゆる情報にアクセスできる自由なメディアであり、それゆえ現代人の情報収集において不可欠な存在とされてきました。
しかしそのGoogle検索の中立性にさえ、近年では疑いの声が上がり続けています。実は2010年から2020年にかけてGoogleは、全世界さまざまな組織や団体から寄せられる「商業的にあるいは政治的に都合のいい情報を優遇しているのではないか」という批判と、常に戦い続けてきたのです。

Googleの商業的な検索バイアス

Googleは独占禁止法違反?くすぶり始めた、疑惑の焔

例えば、EUの執行機関である欧州委員会(EC)による2010年の「独占禁止法違反の調査*2)」は、こうした疑惑の比較的初期の事例と言えるでしょう。「Googleは、自社サービスの競合に当たるサービスに対し、検索結果や広告掲載の面で不当な扱いをしている」という申立が、英国の価格比較サイトFoundem、フランスの法曹系検索エンジンejustice.fr、Microsoft傘下の独Ciao! from Bing、以上三社から寄せられたのです。

これに対しGoogleは欧州委員会に情報を提出するとともに、「当社のビジネスはユーザーとパートナーの利益にかなっており、欧州の競争法にも従っていると自信を持っている」「Googleはwebサイトのためではなくユーザーのためにある」と語り、自身に向けられた疑いを誤解であると弁護しました。また2014年にはGoogleが問題解決措置に関する改善案(検索結果ページに表示される商品広告の掲載書式の改善など)を発表したことを受け、欧州委員会はこれを受け入れる形で調査を一旦終了します*3)。

しかしGoogleへの疑惑はその後消えることはありませんでした。2015年、欧州委員会はGoogleがEU競争法(独占禁止法)に違反した疑いがあるとして同社に異議告知書(Statement of Objections)を送ると同時に、Android端末に対しても調査までもが開始されました4)。調査の理由としてはプリインストールアプリを始め、Androidは自社以外の競合アプリに対して排他的な性質を持っているという批判が寄せられたことが挙げられています。これに対してもGoogleは、ネット上のショッピングや旅行計画に関して、あるいはアンドロイド上でのアプリの利用において、Googleはかならずしも独占的でないという主張を公式ブログにて発表します。5)

欧州・インド・米国からの追求

しかし、Googleに対する風当たりはむしろ強まってゆきました。その後Googleは、欧州・インド・米国から立て続けに、独占禁止法違反の疑いを向けられたのです。

一時はGoogleを見逃した欧州委員会でしたが、2017年には「検索結果上に表示されるGoogle shoppingが他のECサイトよりも優先的に表示されている」と結論づけました。結果、EUは反トラスト法違反として24億ユーロ(27億ドル)の罰金支払いをGoogleに科したのです*6)。Googleは即座に意義を唱え、欧州の最高裁判所である欧州司法裁判所にこの決定を上訴することを検討すると発表しました。

インドからもGoogleへの不満の声が爆発します。インド競争委員会(日本で言う公正取引委員会)は2018年、Googleがオンライン検索市場で独占的な支配力を濫用しているとして、Googleに対して13億5860万ルピー(約22億9000万円)の罰金を言い渡します*7)。すでにインドではMatrimony.comやConsumer Unity&Trust Societyといった国内企業から、Googleに関する苦情が6年にわたって寄せられていましたから、そこにEUでの判決が呼び水となった結果であると推測できます。

そして2019年、ついに追求の声はGoogleの生まれ故郷であるアメリカからもあがりました。アメリカ司法省の反トラスト部門が、「市場をリードするオンラインプラットフォーム」に対する報告を公式ページにて発表したのです*8)。
この報告には具体的な企業名こそ出てきませんが、その内容は明らかにGAFAに対する警戒がにじむ文面です。

https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-reviewing-practices-market-leading-online-platforms

その証拠に、2020年2月にはアメリカ合衆国司法省と州司法長官による「Google検索のバイアスやAndroid OSの広告・マネージメント」に関する協議が行われました。記事執筆時点である2020年5月現在、米国からの正式な結論は出ていないものの、ウィリアム・バー司法長官は、Googleの活動が独占禁止法に違反するたぐいのものであるのか否かの結論を「2020年度中に決着がつけたい」と意向をしめしています*9)。

Googleの政治的な検索バイアス

知事選挙の25%はGoogleによって決定された?

以上の事実からだけでも、Googleの独占的な商業活動が世界中から警戒されていることが窺えるでしょう。しかし、その圧倒的な影響力が恐れられているのは商業の世界だけではありません。上述の一連の議論と並行して、Googleは「政治的・思想的」な面からも厳しい視線を向けられているのです。

例えば米国行動研究技術機構の心理学者、ロバート・エプスタインとロナルド・ロバートソンは、2015年にとある実験によってGoogleがもつ政治的なバイアスを浮き彫りにしてみせました。その実験とは、参加者が模擬選挙で投票を行うというシンプルなモノ。ただし、架空の検索エンジンを元に事前に情報収集を行い、その内容を踏まえて投票するという点に、この実験の特徴があります。
その結果被験者は、ランダムに表示された候補者の評判の中で、よりページ上位に表示された結果に強く影響される事が明らかになりました。それどころか、仮に3番目以下の記事に正反対な主張が掲載されたとしても、むしろその検索結果がかえって一番目の検索結果の信頼感を高める効果をもたらしたのです。極端に言えば、私達は「グーグル検索の1番上の記事を真実だと錯覚する」傾向があるのです。
こうした結果を踏まえエプスタインは「世界中で行われた総選挙の得票率差にもとづいたわたしたちの推定では、すべての選挙結果のうち最大25パーセントをグーグルが決めた可能性があります」と語ります*10)。それがGoogleの陰謀か否かは別として、Google検索で1位に表示されることの政治的な影響力は、疑いようが無いものと言えるでしょう。

この調査の後を追うように、2016年末にはGoogleに対する批判的な調査が2つ登場しました。
そのうち1つが、CanIRank.com社の調査です。CanIRank.com(キャンアイランク・ドットコム)はオンライン検索のマーケティングを手がけるアメリカの調査会社ですが、同社の調査ではGoogleの検索結果が、より「リベラル」な内容の記事で上位が占められていると報告したのです。CanIRankは、まず「銃規制」「妊娠中絶」「TPP」「ブラック」といった政治的キーワードの上位1,200を超えるURLを収集し、それぞれの政治的立場(大雑把に言えば右派・中立・左派のどの位置にあるか)を分類。その結果を集計し、Googleの検索結果に政治的な偏りが無いかを調査するというものでした。この調査では、「左派」または「左より」の主張をするページのほうが全体で約40%順位が高く、それどころか右翼よりのページが存在しないケースが16%も含まれていたのです。
こうした「リベラルな検索結果」に対し、同社は更に分析を続けました。例えば政治的な左寄りの傾向を示すページは、バランスのとれたページに比べて外部リンクが著しく少なく、かつ単語数や記事の分量でも右寄りのページに比較してボリュームに乏しい傾向が見られたのです。
もしこの調査が事実だとすれば、Googleは外部リンクやコンテンツ量において劣る左派のウェブページを、贔屓的に上位表示していると批判されても仕方がない結果といえるでしょう*11)。

さらにイギリスの大手新聞である「The Guardian」からも、2016年に同様の批判が上がりました。これは「ホロコーストという事実はなかった」といった、お世辞にも客観的な史料に基づく中立的な記事とは呼べない記事ばかりが、グーグル検索の上位を占めているという指摘でした12)。上述した2つの調査に比べて客観性に欠ける内容ではありますが、記事中で取り上げられる『Googleで「did the hol」までの単語で検索をすると「Top 10 reasons why the holocaust didn’t happen.(ホロコーストなど起こっていないと言える10の理由)」という記事がトップに出てきた』というエピソードは、Googleの検索バイアスに関する議論で度々引用される有名なものとなりました。
こうした批判に対しGoogleは、商業的な検索バイアスへの批判のときと同様に、迅速なアルゴリズムの修正を行いました
13)。しかしこのアルゴリズムの改善も、万民が納得する公平な検索結果の実現には至りませんでした。むしろ批判の声は、より大きなものとなってゆくのです。

トランプ大統領による、名指しのGoogle批判

2018年、ドナルド・トランプ米大統領が、Googleで政治的な検索を行うとその多くが自身を始めとする共和党・保守派に関して否定的な報道しか表示されないとの主張を、Twitter上にて行います。さらにその数時間後には、トランプ政権がGoogleエンジンの規制を視野に調査を進めているという報道が、ワシントン・ポストより報じられました*14)。
https://www.washingtonpost.com/news/morning-mix/wp/2018/08/28/trump-wakes-up-googles-himself-and-doesnt-like-what-he-sees-illegal/?noredirect=on&utm_term=.e1bebd893df2

これに対しGoogleはアメリカの大手メディアであるCNBCを内部ミーティングに招き入れ、繰り返しその潔白をアピールします。Googleは、自分たちがデータ主義的に検索結果ページの表示を設定している立場である点や、広告と異なり検索結果に対してはパーソナライゼーションがほとんど意味をなしていない点を挙げ、自社が検索結果に対して一切の政治的操作を行っていないことを主張したのです*15)。

しかし同年の年末にはさらなる再反論が、Google検索の競合である「DuckDuckGo」から投げかけられました。「DuckDuckGo」はユーザーの個人情報や検索結果を保存しないことをポリシーに掲げる検索エンジンです。同社は「シークレットモードで同じ時間に同じ単語でGoogle検索をかけても、検索結果が同じものにはならない」などの点から、Googleの検索結果はパーソナライズ化された非中立的なものであると、2018年12月4日に指摘したのです*16)。

まとめ

Googleにとって不幸なのは、過去10年にわたる水掛け論に対し決定的な反論を返す術が無いという点に尽きるでしょう。「Googleが情報操作を施し世界を牛耳ろうとしている」という陰謀論に対抗する唯一の手段があるとすれば、それは自社の検索アルゴリズムをオープンにする以外にありえません。しかし、仮にGoogleがその方法で自身の潔白を証明したならば、アルゴリズムを逆手に取った不道徳なエンジニア・ライターの手によって、Google検索の上位はまたたく間に無価値な記事で埋め尽くされることは火を見るより明らかです。
天下のGoogleが10年以上にわたって自身の中立性を証明できない最大の要因が、このジレンマにあるといえるでしょう。それどころか、仮にGoogleのプログラマー全員が完全に公正な態度で仕事に望んだことを証明できたとしても、結局アルゴリズムによって偏った検索結果が生じることは十分に起こりえる事態なのですから、Googleの苦難は終わることがありません。

こうした事態に対し、我々に出来ることは何があるのでしょうか?米国のジャーナル誌であるWIREDでは、こうしたGoogleの検索バイアスへに対し下記のように語っています。

Unfortunately for a company like Google, politics and public policy are best communicated between people—not because people are less manipulative and misleading than an algorithm, but because people can adjust, respond, change the subject. […] This is why we have entire professions—journalism and library science come to mind—whose ideal is to inform accurately.
(原文:https://www.wired.com/story/google-algorithm-conservatives-biased-its-just-not-human

グーグルのような企業にとってはあいにくなことだが、政治や公共政策の分野について情報交換するなら、人と人とが直接伝え合うのが最もよいコミュニケーション方法といえる。アルゴリズムと比べ、人間のほうが操られにくく誤解が少ないからではない。人間は対立を避け、相手に応じた対応を取り、話題を変えることができるからだ。
(中略)
こんな世の中だから、ジャーナリストや図書館司書などの専門家が必要とされる。こうした人々の目標は、情報を正しく伝えることにある。
(日本語版:https://wired.jp/2019/03/19/google-algorithm-conservatives-biased

デジタル社会においてなるべく公平かつ公正でありたいと願うのならば、信頼できる相談相手とオフラインでつながらなければならない。この皮肉な結論こそ、我々が取りうるGoogleへの唯一にして最後の抵抗なのかもしれません。
Google検索は、すでに我々の日常に完全に浸透し、その利用をまったく放棄することは事実上不可能でしょう。しかしそれでも、情報収集のすべてをGoogle検索に依存することの危険性は、だれしも理解しておく必要があるのではないでしょうか。

1)https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20191129-00152050
2)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1012/01/news023.html
3)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1402/06/news083.html
4)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1504/16/news049.html
5)http://googleblog.blogspot.be/2015/04/the-search-for-harm.html
http://googlepolicyeurope.blogspot.be/2015/04/android-has-helped-create-more-choice.html
6)https://www.cnbc.com/2017/06/27/eu-hits-google-with-a-record-antitrust-fine-of-2-point-7-billion.html
7)https://in.reuters.com/article/india-google-antitrust/competition-commission-of-india-fines-google-for-abusing-dominant-position-idINKBN1FS29Z
8)https://www.cnet.com/news/department-of-justice-kicks-off-antitrust-review-of-tech-giants
9)https://www.reuters.com/article/us-tech-antitrust-google/justice-department-meeting-state-ag-offices-tuesday-to-discuss-google-sources-idUSKBN1ZX2LG
10)https://www.wired.com/2015/08/googles-search-algorithm-steal-presidency
11)http://www.canirank.com/blog/analysis-of-political-bias-in-internet-search-engine-results
12)https://www.theguardian.com/commentisfree/2016/dec/11/google-frames-shapes-and-distorts-how-we-see-world
*13)https://searchengineland.com/googles-results-no-longer-in-denial-over-holocaust-265832
14)https://www.cnbc.com/2018/08/28/trump-accuses-google-of-rigging-search-results-in-favor-of-bad-coverage.html
15)https://www.cnbc.com/2018/09/17/google-tests-changes-to-its-search-algorithm-how-search-works.html
16)https://www.wired.com/story/study-revives-debate-about-googles-filter-bubbles

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