Amazon実店舗部門の新ブランド「Amazon Go Grocery(グローサリー)」とは
世界のEC業界で圧倒的な存在感を示し続け、GAFAの一角として現在進行形で成長を続けるAmazon。
そのAmazonが、実店舗の運営にも積極的な動きを見せ続けています。現在の売上ボリュームから見ると、まだウェイトがそれほど高くない実店舗になぜ、Amazonは進出しようとしているのでしょうか。
今回の記事では、実店舗の新ブランドである「Amazon Go Grocery(グローサリー)」の話題を手始めに、Amazonの戦略について探っていきましょう。
この記事でわかること
・Amazonの新ブランド「Go Grocery」とは
・実店舗運営に投資を続けるAmazonの戦略について
・キーワードは「O2O」や「オムニチャンネル」
Amazonの新ブランド「Go Grocery」について
Amazonは2020年9月、ワシントン州レドモンドに「Amazon Go Grocery」というブランド名で店舗を出店しました。これはAmazon本社近くにオープンした1号店に続く2店舗目になります。
【grocery】は食料品を意味する英単語で、実際に成果や精肉などの食料品を中心とした商品を取り揃えています。他にも飲料・日用品・ペットフードなど、一般的なスーパーと同じような商品構成となっています。
コンビニエンスストアとして先行する「Amazon Go」と比べて、生鮮食料品が揃っていることと、店舗面積が広いことが異なる部分となっています。
「Amazon Go Grocery」2号店の面積は約1200平方メートルであり、「Amazon Go」の店舗面積は約110~210平方メートル程度ですから、その広さは歴然です。
どちらも無人レジを導入しており、店舗内に配置した多くのカメラがどの商品をピックアップしたのかを監視・記録しています。利用者は商品を手に取り、そのまま店舗を後にするだけで、後日クレジット決済などを通じて代金が清算される仕組みも同じです。
「Amazon Go」が、都市中心部におけるビジネスマンの利用を中心としたコンビニエンス形式なのに対して、「Amazon Go Grocery」はもっと一般的な利用者を想定した、日常的な買い物ができるスーパーとしての位置付けになります。
ただし、食料品などについては「量り売り」がなく、パック詰めされた「個数売り」となっているところが一つの特徴です。客の注文に答えて、切り売りするための人員を節約することがその理由です。
よく「無人店舗」という記事を見かけますが、「Amazon Go Grocery」は決して無人の店舗ではありません。レジや一般的な接客の部分はできる限り無人化していますが、商品陳列・品出し・アルコール販売時のID確認スタッフなどは常駐していますので、店舗内で全く店員を見かけないということではありません。
極力無駄な人員を排除し、ITを活用した効率的な店舗設計をしているのが「Amazon Go」であり、そのコンセプトでもあります。*注1
積極的に実店舗運営に投資を続けるAmazonの戦略
ではなぜAmazonが近年、実店舗の展開に力を入れて取り組んでいるのでしょう?
Amazonといえば、言わずと知れたEC業界の巨人です。いまさら時代遅れの実店舗販売に参入しなくても良さそうな気がします。
しかし単純に市場規模という視点で見た場合、EC販売よりも実店舗での販売額の方がまだまだ大きなボリュームを持っています。
特に生鮮食料品を中心とする食品関連については、ECショップとは相性が悪く、実店舗で実際に自分の目で見て購入する方が圧倒的に優位です。
貪欲に成長を追い求めるAmazonにとって、実店舗販売というマーケットはその規模からいっても、十分に魅力的に感じられるのでしょう。
その意味では、現在精力的に投資を続けている実店舗営業は、市場に対してどのようにアプローチするのか、その戦略データを収集している段階であると見ることができそうです。*注2
実際、Amazonは異なるタイプの実店舗を、複数ブランドで展開しています。これまで紹介してきた「Amazon Go」・「Amazon Go Grocery」以外にも、キオスク型の「Amazon Pick UP」・書店チェーンの「Amazon Books」、4つ星以上の評価がある商品を販売する「Amazon 4-star」・オンラインで注文した食料品を受け取ることができる「Amazon Fresh Pickup」があります。
もちろん、Amazonが137億ドルで買収した「ホールフーズ」も、全米で500店舗が営業を行っています。
「ホールフーズ」のような、全米に店舗を持つ大規模なスーパーの運営をすることで、消費者の動向などのデータの収集を行っています。さらに、仕入れから流通・販売までのオペレーションでの実績を元に、効率性などの検討をしているのでしょう。
ホールフーズに比べて小規模の各種ブランドは、業態ごとの実店舗運営に関するテストケースとも考えられます。このようにして各種のノウハウを構築した上で、最終的には新しい業態かシステムを大々的に展開する未来が予想されます。*注3
キーワードは「O2O」や「オムニチャンネル」
実店舗での販売という広大で魅力のあるマーケットへの進出が、Amazonの目指す未来です。より具体的にどのような戦略をとるのかについては、「O2O」や「オムニチャンネル」というキーワードがヒントになりそうです。
「O2O」は”Online to Offline”のことで、最近になって注目されている戦略の一つです。
オンラインからオフライン(実店舗)へ集客を促す手法のことで、SNSの活用などもその手法に含まれます。オンライン上で得られる情報や具体的なメリット(クーポン)などを元に、消費者を実店舗に誘導することができます。
サイバーエージェントの調査・予測によると、日本国内におけるO2O市場は今後急速に拡大するとされています。*注4
Amazonは、EC以外にもAmazon Primeなどのオンラインサービスで、多くのユーザーにアプローチできるメリットを活かし、実店舗への誘導を進めることができます。
生鮮食料品についてもオンラインで注文、受け取りは近くの実店舗でというフローが確立すれば、「ネットは生鮮食料品が弱い」というウィークポイントをクリアすることができるでしょう。
O2OはAmazonにとって、重要かつ大きな優位性を持つアプローチと言えます。
同様に「オムニチャンネル」も、キーワードとして取り上げておく必要がありそうです。
「オムニチャンネル」とは、オンライン・オフラインのどちらかではなく、両方をカバーすることを代表例として、数多くの販売チャンネルを持つことです。「マルチチャンネル」と同意です。
魅力的な商品を揃え流通網を確立すれば、あとは「どうやって売るか」だけです。オンラインでもオフラインでも、ユーザーにアクセスできるチャンネルが多ければ多いほど優位になります。
世界最高水準のITエンジニアリング技術と、膨大な消費者の行動データを元に、実店舗においても、これまでとは一線を画すような新しいサービスを模索しているAmazon。
既存の実店舗にとって、これほどの脅威は他にないでしょう。
実際ウォールマートは、Amazonを競合相手と目しAWSの利用をしないよう、パートナー企業に要請しているという報道もあったぐらいです。
おかげで、マイクロソフト提供のAzureが小売分野での存在感を増してきています。* 注5
【まとめ】
最近、私の住んでいる近くのスーパーでも、セルフレジの導入が進んできました。少し前に「今後10年でなくなる職業」が話題になり、確かその中に「レジ打ち」も入っていたなと思いながら眺めています。
セルフレジどころか、レジ自体を一切無くしてしまう「Amazo Go」の登場に驚いたのもつかの間、より規模の大きいスーパーでも、レジを必要としないシステムが利用され始めたというのが「Amazon Go Grocery」です。
いずれ、「Amazon」という名前をネットだけでなく、実社会でも頻繁に目にするようになるのかもしれません。
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参考
President Online 「日本未上陸!アマゾンのリアル店舗3業態」
https://president.jp/articles/-/29095
Impress Watch 「Amazonが今後2-3年で変えるリアル店舗の世界。Goの先にある小売変革」
https://www.watch.impress.co.jp/docs/topic/1169016.html
日本経済新聞 「アマゾン店舗に行ってみた 検索や評価、ウェブさながら」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO56702270S0A310C2H56A00/
Forbs 「アマゾンによる買収がホールフーズと業界に及ぼした変化」
https://forbesjapan.com/articles/detail/28160/1/1/1
Diamond Online 「アマゾン、レジなし食品スーパー「アマゾン・ゴー・グロサリー」をシアトルに出店」
https://diamond-rm.net/overseas/51131/
■参考文献
注1
Diamond Chain Store Online 「米アマゾン、レジなし小型スーパー「ゴー・グロサリー」の2号店をオープン」
https://diamond-rm.net/overseas/63903/
Blogos 「Amazon Go】、ついにレジなし食品スーパーのアマゾンゴー・グローサリーがオープン!」
https://blogos.com/article/438565/
注2
nilsen 「食品・日用品オンラインショッピングの未来」
https://www.nielsen.com/wp-content/uploads/sites/3/2019/04/JP20Nielsen20Global20Connected20Commerce20Report20January202017.pdf
Business Insider 「アマゾンはなぜ前年割れしてまでリアル店舗に進出するのか」
https://www.businessinsider.jp/post-186135
注3
Cnet Japan 「アマゾンの実店舗、もう7種類に–狙いは何なのか」
https://japan.cnet.com/article/35150289/
注4
Cyber Agent 「店舗集客型デジタル広告(O2O広告)」の市場規模調査を実施」
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=23249
impress 「O2O とは 意味/解説/説明 (オーツーオー) 【Online to Offline】」
https://webtan.impress.co.jp/g/o2o
注5
IT Media 「Microsoftとタッグを組んだWalmart 対Amazonで譲れるものと譲れないもの」
https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1807/19/news095.html