VRのアミューズメント利用~ハウステンボス編~
VR(Virtual Reality:仮想現実)とは、3DCGなどで作り出された仮想的な世界に入り込み、その世界での活動などを疑似体験することです。ゴーグルの形状をしたヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使うのが一般的になっています。2016年はVR元年とも呼ばれ、市場規模は世界で8兆円などと大々的に扱われ話題になりました。今回はVRをアミューズメントで利用する例を取り上げてみたいと思います。
VR機器の進化
VR元年と言われた2016年はオキュラス社が発売した「オキュラス・リフト」、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテイメント)の「PSVR」などの機器が話題になりました。「オキュラス・リフト」は110度の視野角があり、従来品と比べて仮想世界への没入感が高く、VRを身近なものにした元祖とも言えるものです。XboxやPC上でゲームをする際に使用することが前提となっています。発売当初から頭部の動きにほとんど遅延することなく追従できるスペックが話題となりました。
2017年にはSUMSUNG製のスマートフォンに対応した「Gear VR」が発売されています。手に入りやすい価格帯に設定されていますので、VR機器の普及がより進むのではないかと思われています。このようにVRはゲームとの相性がよく、仮想世界という舞台とマッチする技術でもあります。VRを各社が取り入れているのは、こうした新技術の開発に相応の予算を投入することができ、かつ発売と同時に回収が見込めるというのがその理由と思われます。
没入感とアミューズメントへの利用
HMDを使う場合、主に視覚情報を刺激して仮想世界を体験することになります。そこからさらに進み、人間の持つ五感をもっと刺激して没入感を増すようなサービスも運用され始めています。長崎県にある「ハウステンボス」はエイチ・アイ・エス(HIS)に経営が変わってから様々なアトラクションを取り入れV字回復をしたことで有名です。ロボットが受付などを行う「変なホテル」など斬新なアイディアで話題となり、ニュースなどで見た人も多いのではないでしょうか。
VR KING?世界最強VRコースター?
このハウステンボスで2017年にVRを利用したアミューズメント施設がオープンしました。「VR KING」というアトラクションです。”世界最強VRコースター”というタイトルでデビューし、現在でも多くの人気を集めています。仕組みとしては、3DCGで作られた仮想的なジェットコースターをHMDを装着して体験するというものですが、視覚情報だけではジェットコースターの疑似体験としはやや物足りないでしょう。そこで、「モーションシート」と「ライドシステム」という設備を同時に使うことで、実際のジェットコースターに乗っているのと同じような体感を作り出しています。
五感を刺激する設備
まず、「モーションシート」に座ると視認するジェットコースターの動きに合わせてシートが上下左右に移動します。コースターがスタートし、ガタガタと揺れながら最頂点まで登りつめる時のドキドキ感、あの感覚をリアルに感じることができます。さらに落下するときにはシートが前のめりになるので、まるで本当に自分が谷底に落ちていくような感覚に陥ります。これらのシートは本物のジェットコースターと同じようにレールの上を滑走する「ライドシステム」と組み合わせることで、画面上で加速して左右に曲がる時の遠心力もリアルに体験できるという優れものです。
初期投資とメンテナンス費用に圧倒的な優位性
ハウステンボスの例では、あくまで仮想世界でのコンテンツとしてですがジェットコースターとして、「世界最高度・世界最速・世界最長」とうたっています。実際にこうした人気アトラクションを作った場合、数十億円から数百億円の初期投資が必要となります。例えば、有名なジェットコースターの建設費用(初期費用)は次のようになっています。
・スプラッシュ・マウンテン(東京ディズニーランド) 285億円
・カリブの海賊(東京ディズニーランド)160億円
・ええじゃないか(東急ハイランド) 36億円
実は、これらのジェットコースターの初期投資費用は、アトラクションの利用料だけでは元を取れない場合が多いと言われています。アトラクションを充実させることで、入場料・関連施設の利用料・飲食などの収入が上がる事を見込んでやっとペイする仕組みです。そのため、大規模な施設でないとこのような魅力のあるアトラクションに大きな投資をすることができません。
いいことづくめのVRアトラクション
しかし、VR技術を使うことで、初期投資費用を抑えてジェットコースターのような魅力的で集客が望めるアトラクションを導入することが可能となります。メリットは初期投資費用の安さだけではありません。メンテナンス費用も実際の設備に比べれば格段に安価で済みます。もちろん、仮想技術ですから安全であることは間違いありませんので、事故などのリスクも少なく、天候にも影響されないなど、いいとこづくしです。また、こうした体験型アトラクションではリピーターを確保することがとても重要であり、飽きさせないようにする工夫が欠かせません。現実のジェットコースターの場合、コースを変更するのは大変な工事が必要となるのに比べ、VRを使えばコンテンツを入れ替えるだけで簡単に新しいコースにすることができます。
さらに映画館などで4DXとして定着している体感型上映システムとVR技術を組み合わせれば、これまで以上に没入感を得られるアトラクションになるでしょう。
まとめ
今回取り上げたハウステンボスの例のように、VR技術に4DXの体感システムを組み合わせることで、より現実に近い体験と没入感を提供できるようになりました。今後、テレビゲームの世界だけでなく、商用アミューズメント施設での導入も増えてくるのは確実でしょう。
実際の設備を導入していた従来のアトラクションよりも低予算でスタートでき、維持管理費用も抑えられ、安全性も高く、天候などの影響も受けない。コンテンツを入れ替えることでリフレッシュも可能。VR技術の発展と普及によって、東京ディズニーランド並みのアトラクションを地方にいながら身近な施設で体験できる日も近いかもしれません。