クラウドゲームサービスの主流となるか?「Amazon Luna」とは
2020年10月にAmazonは、クラウドベースのゲーム配信サービスである「Amazon Luna」への先行アクセスを開始しました。
同じタイプのサービスとしては、Googleの「Stadia」が先行していますが、現在のところはそれほど多くのユーザーを惹きつけているとは言えない状況です。
「Amazon Luna」はStadiaとどのような点が異なるのか?どんな部分に優位性があるのか?など現在わかっている情報をもとに、検討してみたいと思います。
この記事でわかること
・Amazon Lunaについて現在わかっていること
・先行するGoogle Stadiaとの違いについて
・クラウドゲームサービスの普及につながるのか
Amazon Lunaについてわかっていること
まずはAmazonの公式発表から、事実についてまとめてみましょう。
「Amazon Luna」はFire TV・PC・Mac・iPhone・iPadといった、既存のデバイスで利用することができるクラウドベースのゲーム配信サービスです。
Androidでは現在利用できないようですが、間も無く追加される予定です。
ユーザーが追加のハードウエアを購入することなく、自分が持っているデバイスで気軽に利用できる点が大きな特徴です。
「Amazon Luna」については、「Amazon Devices and Servicesイベント」ですでに発表されていましたが、2020年10月20日からついに少数の招待者を対象として、サービスの提供を始めました。
この時は数十万の申し込みに対して、米国内の少数の選ばれた対象者のみ、招待状を送ったとのことです。
このラッキーな人々がどのようにして抽出されたのかは明確にされていませんが、今後は順次、招待者を拡大していく予定です。
Amazon Lunaは始まったばかりのサービスですので、いきなり大規模なユーザーを対象とした本格稼働をするのではなく、テスト的に限られたユーザー群で、「バグ出し」を兼ねているのかもしれません。
ここでは「バグ出し」と表現しましたが、単純にプログラムの不具合だけでなく、UIやユーザー体験といった部分についてもデータを取得し、ブラッシュアップに活かしていくと思われます。
実際Amazonでは、コアとなるユーザー・カジュアルな利用者やゲームに不慣れな層など、多くのカテゴリーのユーザーからのフィードバックを求めています。
利用料金についてベースとなるのは「Luna+」という、月額定額(早期アクセスユーザーでは月額5.99ドル)で利用できるプランです。このプランを契約すると、現在50タイトルのゲームを追加料金なしで利用可能であり、今後順次タイトル数は増加していく予定です。
これらのゲームの中に、ユーザーを満足させるタイトルがあるのなら、十分魅力のある金額設定なではないでしょうか。
例えば、プレステ5(ディスクあり)の場合、499.99ドルですので、ハードを揃える金額で「Luna+」を80ヶ月以上契約できることになります。*注1
特徴ある点として注目すべきところは、「ゲームメーカーが独自に自分のチャンネルを開設することができる」ということです。
これは新たなビジネスモデルとして、成功する可能性を秘めているかもしれません。
ゲームメーカーとしては、サブスクモデルで安定した収益を上げるチャンスがあります。膨大な予算をかけて開発したゲームが、ヒットを逃したために会社の経営にも影響が出てしまう・・・
そのようなリスクを避けることができれば、大きなメリットとなるでしょう。
おそらく第一弾として、人気ゲームメーカー「Ubisoft」のタイトルが利用できるチャンネルの開設が予定されています。
Ubisoftのチャンネルでは、「ASSASSINS CREED VALHALLA」という、人気のあるタイトルも登場予定ということですから、ファンにとっては見逃せないサービスとなるでしょう。
これを聞くと、Amazon Lunaに数十万人の申し込みがあったというのも、うなづける内容です。
後述しますが、先行する「Google Stadia」との明確な違いが、この部分にあります。
また、Amazon Lunaの専用コントローラーである「Luna Controller」は、49.99ドルで販売されます。
確かに、PCのキーボードでスペースキー使って操作するのでは、本格的なゲームはプレイできませんね。
Lunaを”ちゃんと”楽しむのであれば、コントローラーは必須アイテムになりそうです。Luna Controller以外にも、bluetoothで接続する任意のコントローラーを利用することもできます。*注2
先行するGoogle Stadiaとの違い
クラウドベースのゲーム配信サービスについては、すでにGoogleが先行して「Stadia」をリリースしています。二つの競合するサービスについて、どのような違いがあるのか簡単に比較してみましょう。
運営企業は世界に名だたるITの巨人、「Amazon」と「Google」です。どちらも世界トップクラスのサーバー群、およびデータセンターを保有しており、LunaやStadiaはその上で稼働しています。安定性や信頼性については、折り紙つきということですね。
Googleのサーバーについては、主にGmail・Google検索・Google Driveなどの、自社サービスを展開するために使われています。
一方のAmazonの方は、「AWS」というクラウドサービスを提供しており、ゲームメーカーなどの利用実績があるという点でも違いがあります。
オンラインゲームのプラットフォームとして、間接的ではあるものの安定したシステムを運用してきたAmazonの方に、若干の優位性があるかもしれません。
さらに付け加えるなら、Googleが無料のインターネットサービスを中心としており、広告モデルで収益を出している企業なのに対して、Amazonの方はネットショップ・AWS・Amazon Prime Videoなど、課金モデルで収益を上げているという違いがあります。
そのため、ユーザーインターフェースなど、エンドユーザーの使い勝手・操作性・魅力的に思えるコンテンツなどに関して、Amazonの方がそのビジネスモデルからしても洗練されているといえます。
ゲームプレイヤーにとって、このような点は非常に重要となるはずです。
ここまでは、AmazonとGoogleの事業タイプの違いで比較していますので、具体的な差というよりもあくまで「印象」のレベルを超えません。
しかしGoogleは、一般ユーザー向けのサービスをスタートしては撤退する、ということを繰り返しているのが気になるところです。
例えば、Google版SNS「Google+」をみなさんは覚えてますか?
このような過去の事例を見ると、Googleは世界最高レベルのIT技術を駆使した実験的なサービスのローンチは得意でも、一般ユーザーの使い勝手まで追求したUI設計や、ブラッシュアップにはあまり関心がないのかもしれません。
ではここからは、具体的な数値や事実で比較して行きましょう。
【提供開始時期】
・Amazon Luna:2020年10月
・Google Stadia:2019年11月
Stadiaが1年ほど先行しています。しかし当初の期待と異なり、それほどユーザーを確保できていないようです。
Lunaが追いつく可能性は十分にあるでしょう。
【提供エリア】
・Amazon Luna:アメリカ国内のみ、ただし今後提供エリアを拡大する予定
・Google Stadia:欧米14カ国
どちらも残念ながら、日本国内ではまだ提供されていません。
日本で利用できるクラウド型のゲーム配信サービスとしては、SIEの「Play Station Now」やNVIDIAの「Ge Force Now」があります。
【料金】
・Amazon Luna:月額5.99ドル
・Google Stadia:月額9.99ドル(無料プランもあり)
Lunaについては、現在ベータ版のテスト運用のような位置付けですので、今後料金が改定される可能性は否定できません。
もし、このままの金額設定で本サービスを提供するのであれば、他のサービスと比べても優位性は高いと思われます。
例えば、Ge Force Nowの場合「月額1,800円」、Play Station Nowは「月額1,180円」です。
しかも、Ge Force Nowの場合、特定のゲームを利用するときには、月額料金と別にソフトの購入代金まで必要になります。
月額固定費用に加えて1万円近いソフトを購入するとなると、かなりコアなユーザーに限られてしまいます。
Lunaは月額料金の範囲で、100タイトル程度のゲームが追加料金なしで利用できることが、大きなメリットとなりそうです。
【画質など】
・Amazon Luna:最大1080p/60fps、4K対応
・Google Stadia:最大720p~4K/60fps
どちらも4K対応と十分なクオリティを持っています。
しかし、画質については回線スピードに大きく左右されますので、ユーザー側の環境がボトルネックになります。
Stadiaでは、レスポンスの悪さがSNSを通じて拡散されたこともあり、一時話題になっていました。
【対応デバイス】
・Amazon Luna:WinPC、Mac、Fire TV、iPhone、iPad(Androidも対応予定)
・Google Stadia:TV(Chromecast)、PC(Chromeブラウザ)、Android端末
Stadia以外のクラウドゲーム配信サービスと比較しても、Lunaは対応する端末が多いのが特徴です。ユーザーがすでに持っているデバイスを使えることで、確実にハードルが下がります。
まず最初に5万もするハードを揃えてからでないと遊べないゲームに比べると、ライトなユーザーを確保しやすいと言えるでしょう。*注3
Amazon Lunaはクラウドゲームサービスの普及につながるか
まだテスト運用中に近いLunaですから、今後普及するかどうかについては未知数です。しかし、Amazon Prime Videoなど動画配信サービスで実績のあるAmazonということもあり、ポテンシャルは大きいと思います。
特に、基本料金の安さ、ゲームメーカーが追加でチャンネルを解説できるというモデル、豊富なデバイスへの対応などについては、先行するサービスに比べても優位性がありそうです。
Play Stationシリーズを代表に、ユーザー側のハードウエア性能が大きなウエイトを占めていたのが元来のゲーム市場です。その極端な例が、ゲーム専用PCのような高性能ハードを使うコアなゲーマーです。
しかし、全てのゲームユーザーが、コアなゲーマーレベルのコスト負担をできるはずもなく、「カジュアル」な利用を希望する層がかなりの数、存在しています。
スマホなどのモバイル端末で空き時間に気軽に遊ぶことができて、希望すれば多少は本格的なゲームもやってみたい。そんなユーザー層への訴求が、Lunaの狙いではないでしょうか。
Amazonが持っている最大のポテンシャルと言っていいのが、「Amazon Prime」の契約者です。
すでに一定の月額課金をして、Prime Videoなどを日常的に利用しているユーザーにとって、多少の追加料金を支払えばゲームも使えるようになるー。
そんなプランが出れば一気に拡大する可能性があります。
まだ具体的なアナウンスはありませんが、今後確実にその方向に進むと思われます。
【まとめ】
5Gの普及でどのように世界が変わるのか?いくつか先行するサービスやビジネスモデルが出始め、期待感が高まっています。
モバイル環境でも、動画や高精細のゲームを楽しむことができるようになるのは、確実な近未来の出来事となるでしょう。
問題は誰がこの分野を支配するプラットフォームを確立するのか?でしたが、現在それを競う有力なプレイヤーが、顔を揃えてきたところです。
おそらくここ数年で、大きな進展がありそうなクラウド型ゲーム配信サービスの動向については、これからも注目していきたいと思います。
■参考文献
注1
PlayStation blog “PlayStation 5 launches in November, starting at $399 for PS5 Digital Edition and $499 for PS5 with Ultra HD Blu-Ray Disc Drive”
https://blog.playstation.com/2020/09/16/playstation-5-launches-in-november-starting-at-399-for-ps5-digital-edition-and-499-for-ps5-with-ultra-hd-blu-ray-disc-drive/
注2
Amazon ”Amazon Luna early access begins today”
https://www.aboutamazon.com/news/devices/amazon-luna-early-access-begins-today
注3
Info comニューズレター 「大手クラウドゲームプラットフォーマーの 戦略とクラウドゲームの今後」
https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr380-20201127-funatsu.html
cnet Japan 「アマゾンの「Luna」がグーグル「Stadia」より成功しそうな理由」
https://japan.cnet.com/article/35160131/