農業用途での利用が進むクボタのドローンについて
トラクターなどの農業機器で有名なクボタが、ドローンを販売しているとの事なので、少し調べてみました。
そういえば、農薬散布などの農業用途でラジコンヘリが活用されていますので、ドローンも農業との親和性が高いといえます。
今回の記事では、クボタのドローンについて調べながら、農業分野で利用する際にどのような利点があるのか?などをまとめてみました。
この記事でわかること
・クボタから発売されているドローン
・農業用ドローンのシェア
・クボタが新たなイノベーションを求めて海外企業に出資
クボタから発売されているドローンについて
クボタのHPを見ると、これまで3機種が発売されています。
◯MG-1SAK
8プロペラ式のドローンで、10Lの薬剤散布用タンクを搭載。
パーツを取り替えることで粒剤の散布も可能。
障害物検知&高度一定制御レーダーで衝突を自動で回避する機能あり。
本体・散布装置・バッテリー・充電器のセットで165万円。
◯MG-1RTK
MG-1SAKの上位機種。
FPV搭載、RTK方式を採用。
価格は174万円。※現在は生産終了
※FPV(First Person View)とは
ドローンに搭載されたカメラから送られた映像を見ながら操縦できる仕組み。
実際にドローンに搭乗しているような感覚を得ることができる。
ドローンレースなどでゴーグルを使って操縦しているのがこの機能です。*注1
※RTK(Real Time Kinematic)とは
高精度位置測定技術の一つで、GPS測定に比べてより精度の高い位置測定が可能。
GPSが数mの誤差であるのに対して、わずか数cm以下の誤差で飛行することができます。*注2
◯T20K
大型モデルで16Lのタンクを搭載しており、MGシリーズと比べて広範囲への薬剤散布が可能。
価格204万円。*注3
クボタは、トラクターなどの農業用機器の製造販売で有名な企業です。しかし、これまでは農業用の無人ヘリなどの製品ラインは持っていなかったため、ヤマハなど他メーカーが農業用の無人ヘリを市場に供給していました。
農業用の無人ヘリの場合、ドローンに比べると高額であり、操縦も難しいという点がネックとなり、全ての営農事業者が自分達で準備するのはかなり厳しい状況でした。
例えば、ヤマハの2018年モデルである、「FAZER R」という無人ヘリの場合、本体価格は1,300万円近くになります。*注4
もちろん、性能的な比較をした場合、稼働時間や積載可能な薬液の量などについては無人ヘリの方がはるかに上です。
さらに一度に散布できる範囲も広いため、単純に一回あたりの散布作業を比較するのであれば、無人ヘリに軍配が上がります。
しかし、前述のような欠点があるため多くの農家では、外部業者に委託して薬液の散布などを行ってきました。
今後、低価格で操作性も良いドローンで可能となれば、自前で一台購入することができるようになります。*注5
特にクボタの場合、すでに全国の営農事業者への販路を持っていることが大きな強みになります。外部事業者に農薬散布を依頼するコストと比較して、優位性があるような農家が顧客候補となりますので、新たな市場が生まれたようなものです。
また、ドローンの操縦に対する講習会のようなサポートに対しても、各種農業用機器で培ってきたノウハウが活かせるでしょう。まさに、目の前に大きなチャンスが広がっている状態です。
このチャンスを逃さず、タイムリーに農業用ドローンを投入できたのは、実は自社開発製品ではなく海外の有名ドローンメーカーの製品を、OEMのような形で販売しているからです。
無人ヘリのノウハウをすでに持っているヤマハなどのメーカーに比べて、ドローンの分野での実績がないクボタの場合、海外製品のOEM販売が一番スピーディな市場への展開だったと言えます。
クボタがOMEに使用した海外メーカーは、世界三大ドローンメーカーの一つである「DJI」です。
DJIのAGRASシリーズに、MG-1S ADVANCED・MG-1P RTK・T20という製品があり、それぞれがクボタのMG-1SAK・MG-1RTK・T20Kに対応しています。おそらく、クボタの製品名の最後の”K”は”KUBOTA”の”K”だと思われます。
基本的な性能もほぼ同じです。クボタラインナップのMG-1RTKは、本来であればMG-1SAKの上位機種に相当しますので、そちらが生産中止になっているのは若干分からない点ではありますが、FPVやRTKなどの機能が日本の農家にはあまり必要なかったのかもしれません。
なおT20については、クボタのクラウド営農・サービス支援システム「KSAS」に対応しています。これは、農機具から得られる作物情報や、作業者による作業情報などをクラウド上で一元管理し、分析や履歴管理をするシステムです。
T20による農薬散布の履歴などが、自動でデータとして蓄積されていくことで、今後の作業計画などに活かすことができます。
この機能については、DJIのT20から日本国内向けとしてカスタマイズされている部分になります。*注6
農業用ドローンのシェア
現在、国内市場で農業用ドローンはどれくらい普及し、どのメーカーがシェアを持っているのでしょう。
農林水産省がまとめた「農業用ドローンの普及に向けて」を見ると、一般社団法人農林水産航空協会におけるドローンの登録機体数に参考となる数値があります。
2016年ぐらいから登録台数が増え始め、2018年時点までに1,000台を超えるドローンが登録されています。
登録台数のシェアについては、DJIが全体の40%程度でトップ、ついで丸山製作所・縁ルート・クボタとなっています。
この数値ではクボタのシェアは13%程度となっています。これも実質的にDJIの製品ですから、日本国内市場ではDJIがかなりのシェアを持っているということになります。
もちろん、2021年の現時点とはタイムラグがあることや、未登録のドローンなども考慮すると多少の差異は出てくるでしょう。*注7
農林水産省がドローンの普及に前向きということもあり、今後国内の農業用ドローンの分野が伸びることが予想されます。単に機体の販売だけでなく、周辺機器やパーツなどの販売、操縦方法のトレーニング、業務委託、修理・メンテナンスなど、幅広い周辺産業も伸びることが確実です。
農業用ドローンは産業用途のドローンの中でも、一番有望で確実な分野と言えるのではないでしょうか。
海外でも、農業分野におけるドローンの活用が急速に進んでいるというニュースが最近報道されました。
SDKI Inc.のレポートによると、米国の農業用ドローン市場は、2025年までに1億4,480万米ドルに達すると予測されています。農業用ドローン分野への投資も活発であり、多くの新興企業が新たに資金を調達しているため、今後さらなる活性化が期待できる分野となっています。*注8
クボタが新たなイノベーションを求めて海外企業に出資
クボタは、自社での農業用ドローン開発の実績がなく、DJIから供給を受けている状況です。しかし、独自の国内販路を持っていることもあり、今後農業用ドローン分野での技術革新をうまく取り入れた新たな製品を提供するために、海外のスタートアップへ出資をおこなっています。
2019年に立ち上げた、社外パートナーとの連携を進める「イノベーションセンター」によるものです。
イスラエルのスタートアップ企業である「Tevel Aerobotics Technologies」は、有線ドローンによる果樹収穫サービスを手がけています。
果樹や野菜の栽培では機械化が進んいないため、有線ドローンによる果樹収穫サービスは、省力化・効率化を実現するユニークな試みとして注目されています。
特に高齢化が進み、働き手の減少が問題となっている日本国内において、このサービスが実現すれば大きな市場として期待されるでしょう。*注9
【まとめ】
ドローンの一般的なイメージとしては、複数のプロペラを持ち無線操縦で空を飛ぶものではないでしょうか。
しかし、水中ドローンや記事で紹介した有線ドローンなどもあり、それぞれの利点を活かした利用が研究されています。
有線ならば電源供給しながら長時間の稼働も可能になるため、産業分野でも大きな可能性を持っています。
今回の記事では、クボタの農業用ドローンを中心にまとめてみました。起伏が多い地形でも比較的簡単に導入できるドローンは、今後農業分野でますます利用が進むことは間違いないでしょう。
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■参考文献
注1
DRONE NEWS 「ドローンの話によく出てくる「FPV」とは何だろう?」
https://drone-school-navi.com/dronenews_column/column/20170801-2/
注2
FUTURE STRIDE 「RTKとGPSの違いとは?これからの高精度測位サービスについて」
https://www.softbank.jp/biz/future_stride/entry/column/20200911_2/
注3
クボタ 農業用ドローン
https://agriculture.kubota.co.jp/product/kanren/index_drone/
農家WEB 「クボタの農業用ドローンの価格は?製品一覧とあわせてご紹介」
https://www.noukaweb.com/drone-kubota/
注4
日本経済新聞 「ヤマハ発動機、産業用無人ヘリ「FAZER R」2018年モデルを発売」
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP459744_Q7A011C1000000/
ヤマハ 「日本の空で活躍する産業用無人ヘリコプター」
https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/heli/
注5
FLIGHT AG 「無人ヘリとドローン農薬散布を徹底比較。価格・費用でどちらが得?」
https://flights-ag.com/blog/agri_drone/476/
注6
KUBOTA 「ICTを利用した営農・サービス支援システム「クボタスマートアグリシステム」のサービスを開始」
https://www.kubota.co.jp/news/2014/2014-20j.html
「T20」
https://agriculture.kubota.co.jp/product/kanren/t20k/
注7 農林水産省 「農業用ドローンの普及に向けて」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/pdf/hukyuukeikaku.pdf
農家Web 「農業用ドローン、主なメーカーと市場シェアまとめ」
https://www.noukaweb.com/drone-market-share/
注8
RIMETIMES 「米国の農業用ドローン市場「2025年までに1億4,480万米ドルに達する予測」ードローンの種類別、アプリケーション別および地域別ー現在のシナリオと予測(2019-2025年)」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000072515.html
注9
DORONE 「クボタ、ドローン果樹収穫サービス手掛けるイスラエルTevel社に出資」
https://www.drone.jp/news/2021020211060243304.html