Facebookやtwitterといった巨大メディアが直面するモラル 特定アカウントの削除は言論の自由に抵触するか?
普段この記事で取り扱う内容はITに関する新しい技術やユニークなサービスについてご紹介することが多いのですが、今回は社会問題・政治・倫理といった側面について考察してみたいと思います。21世紀になって登場したSNSが今まさに直面する問題であり、今後のメディアとしてのあり方に関係する重要な内容でもあります。
この記事では以下の3つのことがわかります。
①ソーシャルメディアの成長と影響力
②特定アカウントの停止と反応
③検閲の問題とソーシャルメディアの今後
Facebookをはじめとするソーシャルメディアの成長
もともと特定大学のアカウント所有者限定でスタートしたクローズドなサービスだったFacebookですが、その後一般にも解放され今やSNSを代表するプラットフォームとして、大きな影響力を持つようになりました。先行するTwitterは拡散力が高く、コアなファンも多いサービスですが匿名であることや、伝達できる情報に限界があることなどから収益化に苦労し、ビジネスという面ではFacebookが優位に立ってきました。
ソーシャルメディアと社会運動の関係
FacebookやTwitterが社会的な影響があるという面で注目を集めたのは、いわゆる「アラブの春」と呼ばれた一連の革命運動のひとつ、チュニジアを舞台とする「ジャスミン革命」でした。アラブ世界で長く民衆を支配していた長期独裁政権が、この一連の民主化運動によって揺らぐという大きな動きにソーシャルメディアが活用されたのが2010年頃の動きでした。
ソーシャルメディアの特徴
Facebookの特徴として、「リアルタイムでの感動の共有」が挙げられます。「いいね」ボタンをクリックするだけで賛同の意を示し、それをソーシャルな繋がりを通じて広く拡散することができる。その影響力が社会運動や政治活動にも有効であるという事例となりました。持たざる民衆が広く仲間を集めることができるツールとして、ソーシャルメディアの影響力が示された最初の例です。
ソーシャルメディアの政治への利用
政治での影響力については、2008年のアメリカ大統領選挙でバラク・オバマ氏がSNSを積極的に活用したことが有名です。当時、民主党候補者としてはヒラリー・クリントン氏が有力であり、控えめに見て当初は泡沫候補にしか過ぎなかったバラク・オバマ氏が、草の根運動を通じて支援者を拡大し、最終的に大統領となりました。この選挙で大きな影響力を持ったのがソーシャルメディアの活用です。
国内での選挙運動でも解禁
このように、学生同士の「恋人探し」ツールとして出発したFacebookというサービスは、当初想定した範囲を大きく超え、社会的・政治的な影響力を持つまでに成長し、このような活動を行う層には欠かせないプラットフォームになっています。国内でも、選挙運動でのSNSの利用が法改正によって認められるようになり、若い層へアピールする重要アイテムとしてその対策が必須となりつつあります。
マスメディアとソーシャルメディアの違い
ここまで、「メディア」という一般的な名称でSNSを表現してきましたが、過去のメディアとはそもそも根本的な性質が異なることを一度確認しておきましょう。いわゆる「マスメディア」と呼ばれる新聞やTVなどは、そのコンテンツをメディア自身が作成し、内容を吟味した上で公開しているのに対して、FacebookやTwitterに代表されるソーシャルメディアでは、コンテツの制作者がユーザーであり、運営事業者はプラットフォームを提供しているに過ぎないという点が大きく異なります。
コンテンツの内容に責任を負うマスメディア
そのため従来のマスメディアにおいては、コンテンツの内容について厳格な倫理規程や基準に基づき、精査された上で各種メディアで公開されます。不適切な記事が出ると批判を浴びるのも、こうしたメディアとしての責任を負うことが義務として課されているからです。その一方で、それぞれのメディアの政治的なスタンスや傾向にバイアスがかかることも多く、「このメディアは保守よりの記事が目立つ」などということにも繋がります。公共性という面とメディアとしてのスタンスのバランスをどのように両立させるか、という問題を抱えています。
プラットフォームを提供するソーシャルメディア
それに対してソーシャルメディアの場合、運営事業者は基本的にプラットフォームを提供するだけであり、そこで流通する情報については「関与しない」のが原則です。コンテンツの良し悪しについては、利用するユーザーに委ねることで責任を負う必要はありません。しかし、コミュニティとしての健全な交流を担保するために一定のルールを設けて、これに違反するアカウントについては凍結などを措置を取るようにしています。
ソーシャルメディア運営事業者とコンテンツの関係
法に抵触するような不適切な投稿や過激な批判を繰り返すことで、コミュニティの健全な交流を阻害するとみなされるようなアカウントが凍結の対象となるのが一般的なルールです。そこで「政治的なスタンス」や「社会運動・宗教的な勧誘」などについては、フラットな立場で静観することがソーシャルメディアの役割として妥当と思われますが、ここ数年この点についていくつかの問題が発生し注目を集めています。
大きな影響力を持つ存在となったSNS
前述した通り、ソーシャルメディアが社会に与える影響が大きいということが認知されるにしたがって、公共インフラとしての役割を求められるようになってきました。全世界で20億人を超えるユーザーがあり、毎日8億人が「いいね」で感動を共有しているFacebookは、今や「GAFA」の一角としてGoogle, Apple, Amazonと並ぶ巨大企業です。単なる会員制コミュニティとしてのルールだけでなく、公的な役割を持つメディアとしての運営方針が求められています。
リベラルに偏向する傾向があるソーシャルメディア
このような新興IT系企業の場合、自由と放任主義を原則とするリベラル派と親和性が高い傾向があります。実際、Twitter社のCEOを務めるジャック・ドーシー氏は、「我々が左派に大きく偏っているのは明らかだ。我々は皆バイアスを有している」と述べています。また、アメリカ大統領であるトランプ氏も、「ツイッターは有力な共和党員の投稿に対して、『シャドーバン』をしている」と批判しています。Twitterで過激な発言を繰り返し、ソーシャルメディアを積極的に活用しているトランプ大統領だからこそ、こうした点には敏感に反応しているのでしょう。
アレックス・ジョーンズ氏のアカウント停止問題
こうした議論のきっかけとなったのは、2018年に各種ソーシャルメディアが極右派の陰謀論者アレックス・ジョーンズ氏のアカウントを停止・制限した事案でしょう。即座にトランプ大統領が「こうした検閲をするべきではない」とのコメントを発表し、様々な議論が巻き起こりました。ヘイトスピーチを禁止する規定に違反したということで、同氏のアカウントを停止したFacebookの対応について「検閲か否か」という点が問題になっています。
国内でも複数アカウントが停止
国内でも主にYoutubeなどで右派として知られる有名アカウントが、多数停止になる措置が取られる措置が発生し、物議を醸しました。ここにきて、このようなソーシャルメディアによる個人の投稿に関する制限がどこまで認められるかについて急速に議論が高まっており、今後どのような方向で決着がつくかに注目が集まっています。
EU欧州委員会とSNSサービス事業者との合意
一つの動きとして、EUの欧州委員会の決定があげられます。2018年にFacebook、Twitter、Youtube等のSNSサービス事業者との間で、利用者の投稿内容をチェックし不適切と判断された投稿を削除する方向で合意したと報道されました。これは、移民・難民問題に関するヘイト・スピーチや、イスラム過激派等のテロリストによるSNSの利用を制限することが目的です。社会的に解決すべき問題への対応とはいうものの、SNS運営事業者による私的検閲を認める決定となった点が、将来への問題を残した可能性があります。
検閲の問題をどう検証するのか
日本国憲法で制限されている「検閲の禁止」は、これまで政府機関による検閲を意味するものでした。しかし、世界的に影響力を持つ大規模SNSが独自に検閲の権限を持つことについては、想定されていなかった新しい問題です。営利企業として公的機関とは異なる価値判断を持ち、私的企業として独自に意思決定ができる状態での特定アカウントへの排除措置が妥当なのかどうかを誰が検証するのか、現時点では明確な基準がないのが実情です。
まとめ
これまでFacebookを代表とするソーシャルメディアについては、個人情報保護に関する問題、著作権保護に関する問題などが多く議論されてきました。旧来の価値観を超えて、ソーシャルメディア時代に適応した新たな基準を作りながら、うまく折り合いをつけて成長してきました。検閲という新たに出てきた問題については、今後のソーシャルメディアのポジションを決定づける大きな要素が含まれているように思えます。現在のところ、それぞれのメディアで個別対応をとっている状況ですが、何らかの明確な基準が求められる重要なテーマではないでしょうか。
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