大林組が導入するVR教育システム「VRiel」の真価
BIMデータの運用は、実際の建設現場のみに限りません。大林組ではBIMとVR技術を組み合わせ、「VRiel(ヴリエル)」と呼ばれる教育システムを開発しました。
①積木製作に依頼して誕生したVRiel
②教育コストの大幅削減に成功した大林組
③シミュレーション効果は高く、幅広い運用が期待される
大林組が導入したVR教育システム「VRiel」
2016年、大林組はCGパース製作の会社である積木製作に依頼する形で、VRielを開発しました。
このシステムは施工管理者向けのカリキュラムを提供する教育システムとなっており、現場に赴かずともリアルな施工管理シミュレーションを体験することができるようになっています。
大林組が取り組んできた教育コストの問題
VR導入以前より、大林組は体験型研修の導入および実施を行なっていました*1。
主に鉄筋配置の不具合防止などの管理技術を伝承するための研修でしたが、これには標準配筋図をあらかじめ頭に入れる必要があるとともに、工事現場を直接目で見て、不具合箇所に気付く感性が必要でした。
そのために大林組が導入していたのは、実際に鉄筋や型枠を組んだ教育用の躯体モックアップです。実際に体を使って点検箇所の発見をシミュレートすることが出来ていたものの、不具合箇所は常に一定で、複数回シミュレーションを行うには不向きだったのです。
また、モックアップ構築、組み替えにはその度に時間と費用がかかってしまうため、コストパフォーマンスの点でも改善の余地があったのです。
BIMデータと連携したリアルなシミュレーション
そこで登場したVRielは、これまでモックアップを使って行なっていた体験型研修を全て仮想空間にて行い、本物に極めて近い感覚で施工管理の技術を身につける手助けをしてくれます。
VRielが必要とするのは、基本的には市販のヘッドマウントディスプレイ(HMD)とコントローラー、センサーの三つです。
実物のモックアップを正確に取り込んだBIMデータを活用し、仮想空間上に同様のモックアップを再現することで、HMD装着者はまるで本物のモックアップで作業をしているような体験をすることが出来ます。
BIMデータは単なる3Dモデルではなく、材質などの詳細情報もモデルに内包されるため、非常にリアルな体験を仮想空間の中で実現することができるようになったのです。
大林組の積極的なBIM運用の現状
大林組がスムーズにVR技術やBIMデータの運用を教育システムに導入できたのには、早い段階からBIMデータの運用を始めていたことも要因としてあげられるでしょう。
迅速なBIM運用に取り組んできた大林組
大林組が早期から取り組んだのは、ワンモデルBIMの実現です。
従来のゼネコンのBIMモデル構築方法は、2次元で作成した設計図書を下敷きにしたもので、モデル作成の負担が大きくなっていただけでなく、設計変更の際にはモデルの整合性を整えるため、常に現場に最新のモデルを修正しては提供する業務が発生していたのです*2。
そこでワンモデルBIMを導入することにより、建設に関わるプロジェクト関係者は皆一つのモデルから情報を出し入れできることを可能にし、業務における情報伝達のあり方を大きく刷新させてきました。
2017年には本格的なワンモデルBIMの導入に乗り出し、標準ソフトとして「Revit」を導入。本支店にはBIMマネジメント課を発足させ、BIMマネジャーの役割も設けました。
情報伝達の高速化で得られたメリット
大林組がBIMの導入によって目指したのは、「情報伝達の高速化」です。ワンモデルBIMによって、これまで情報共有の場面で時間と費用がかかっていたところを一斉に解消していくことで、従来の現場環境を一新してしまうことなく、効率的なパフォーマンス改善を進めてきました。
現場に直接新しいテクノロジーを導入するとなると、作業員の研修が必要になるなどの新たな業務が発生していました。
しかし、大林組はBIMの導入によって、情報伝達の効率化に施策を特化させてきたため、現場の業務に影響を与えることなく、生産性の向上につなげてきたのです。
VRielがもたらすパフォーマンス向上
VRielの導入により、大林組では主に三つのメリットを創出することに成功しています。
どこでも低コストで運用が可能
一つは、体験型研修を低いコストで、なおかつどこでも実施できるようになったことです。
モックアップの組み立てには時間を要するだけでなく、相応のスペースを用意し、用意のための時間と費用も必要としていました。
しかしながらVRielはVRヘッドセットとソフト、そしてちょっとした会議室ほどのスペースがあれば簡単に実施ができるため、大掛かりな用意も必要なく、オフィス内で簡単に実施することが出来ます。
全国に質の高い研修を低コストで普及する上では、大きなメリットとなっています。
多様な教育カリキュラムを実施可能
VRielを用いたシミュレーションは、リアルなクオリティであるとはいえ、扱うのはデジタルデータです。
そのため、点検箇所の設定や建設物の構造は自由に短時間でカスタマイズができるため、何度もシミュレーションを実施することで、研修者の練度を高めることが出来ます。
また、BIMデータの活用によって鉄筋などの躯体、仕上げ、設備などの品質管理、安全管理などのさまざまな教育ツールを容易に作成することができるため、多様な技術の向上にも役立つことが期待されます*3。
感覚的なスキルを身につけることが可能
VRielでは実際に手足や首など、体をフルに活用して点検箇所の発見に取り組むことができるため、現場でしか得られないような感覚的なスキルを、しっかりと養うことが可能になっています。
VR上では現実と同様に図面を確認したり、コンペックスを使用することもできるため、本番さながらの手順を、シミュレーター内でなぞることも可能です。
また、正解のモデルと不正解のモデルを仮想空間で視覚的に確認できるのも、VRielの強みです。その場で違いをすぐに判別することができるので、経験として記憶に定着することが期待できます。
不具合に気づける感性を養うための研修としては十二分なクオリティに仕上がっているのが、VRielの画期的な点であると言えるでしょう。
おわりに
BIMデータを教育面に積極的に活用しているのが、大林組の特徴です。
VRとBIMを掛け合わせたVRielのような教育用シミュレーションシステムは、今後さらに各社でも導入機会が増えてくることが考えられるでしょう。
出典:
*1 大林組「VR技術を活用した施工管理者向け教育システム『VRiel(ヴリエル)』を開発」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20161125_1.html
*2 建設通信新聞DIGITAL「大林組 ワンモデルBIMへの挑戦」
https://www.kensetsunews.com/web-kan/388797
*3 *1に同じ
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