AppleのスマートスピーカーHomePodがアジア進出〜気になるAppleのアジア戦略とHomePodの課題〜
2017〜2018年に掛けて、日本国内でも少しずつメジャーな存在となりつつあるスマートスピーカー。
GoogleのGoogle HomeシリーズやAmazonのEchoシリーズなど、海外企業の製品を中心に、さまざまな製品・サービスが入り乱れている現状は、正に群雄割拠の戦国時代。
しかし、ここで忘れてはいけないのが、Appleのスマートスピーカーです。
SiriのiPhoneへの搭載でこの分野の先陣を切ったAppleが、スマートスピーカーではどのような戦略を考えているのか。今回はそれを読み取っていきたいと思います。
この記事では次の3つのことがわかります。
1.Appleにとっての中国市場の重要性
2.HomePodを中国市場へ投入する理由とは?
3.業績下方修正により戦略の変化はあるのか?
Appleにとっての中国市場の重要性
中国と言えば、今や世界第2位の経済大国。約14億人(2017年時点)の人口を抱える世界最大級の規模を誇る市場の1つでもあります。
もちろん、単純に人口が多ければ物もたくさん売れるかというと、必ずしもそうではありません。
人口規模だけでなく、1人1人の国民にある程度の経済力がなければ、物を買うことは出来ないからです。
その点、中国は国内での貧富の差はあれど、経済力の高い国民が多く、少なくともiPhoneやiPadといったApple製品をそれなりに買って貰えるだけの市場規模があるといえます。
今後も経済発展が進めば、その規模はさらに増えていく訳ですから、Appleにとっては決して無視できる場所ではないのです。
iPhoneでも特別対応を採る中国市場
これまで、Appleは特定の市場を極端に重視するような対応は、あまり行ってきませんでした。
最初に変化が訪れたのが2016年9月。
この年に発売されたiPhone7/7PlusとApple Watch Series2では、日本市場向けのモデルのみFeliCaが搭載された特別仕様となり、同時にApple Payが日本へ上陸することとなりました。
とはいえ、翌年のiPhone8/8Plus/X以降は海外向けモデルにもFeliCaが搭載されている為、単純にApple Payの日本投入を早くする為の一時的な対処だったとも考えられます。
次に変化があったのは、2018年の9月。
この時発表されたiPhoneXS/XS Maxは、eSIM 1機と物理SIMカード1枚を組み合わせたデュアルSIMを採用していました。
しかし、実は中国・マカオ・香港向けの端末のみ、eSIMではなく物理SIMカードを2枚搭載できる仕様のデュアルSIMとなっていたのです。
この点についてAppleは明確な理由を明らかにしていませんが、中国・マカオ・香港は相互往来が多いものの、いずれのエリアもプリペイドSIMが主流の為、eSIMの対応にはキャリアが消極的だった為ではないかと考えられています。
以前のAppleであれば、生産や販売上の合理性を重視して、特定地域だけ物理デュアルSIM仕様のモデルを用意するなんてことはしなかったでしょう。
しかし、こうした対応を採らず、わざわざ3地域限定で特別仕様のモデルを用意したということは、それだけAppleが中国を重視している証拠とも言えるのです。
Appleは最近になってインドなどアジア圏の他の市場も開拓し始めていますが、力の入れ具合という点では、やはり中国市場が一歩進んでいると見て良いでしょう。
EchoとGoogle Homeに後れを取るHomePod
さて、話をスマートフォンからスマートスピーカーへ移しましょう。
スマートスピーカーとは、音声認識を利用して声だけで家電を操作するなど、さまざまな機能を使うことが出来るスピーカー型デバイスです。
代表的な製品は、Amazonが販売している「Echo」シリーズ。
こちらは米国でシェアNo.1の地位を築いており、実質的なスタンダートとも言えます。
搭載されているのは、Amazonオリジナルの音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」。
対応する家電製品やサービスも多く、また大手通販サイトAmazonのサービスを利用できるのも大きなメリットの1つです。
続いて、業界第2位のシェアをもっているのが、検索大手Googleの「Google Home」シリーズ。
こちらは音声アシスタントに「Googleアシスタント」を採用しており、GoogleカレンダーなどのGoogle系サービスと相性が良いのが魅力。
日本国内ではEchoよりこちらの方が若干早く販売開始した為、Google Homeを使っているという方も結構多いのではないでしょうか?
このように、既にアジア進出を果たしているEchoとGoogle Homeですが、一方でAppleのスマートスピーカー「HomePod」は、現時点ではまだアジア進出を果たせていません。
しかし、この状態も変化の兆しが見えてきました。
HomePodがアジア進出を予告〜まずは中国・香港から〜
Appleでは、iOS12.1.1のリリースに合わせ、HomePodの中国本土及び香港でのサポートを開始しています。
加えて、HomePodの同地域への製品投入日程も発表しました。
参考:HomePod、アジア上陸は中国と香港。Apple、2019年前半の発売を予告-iPhone Mania
HomePodは米国などの英語圏を皮切りに、ヨーロッパ諸国で販売を開始しているほか、昨年秋には米国と隣接する南米メキシコ(スペイン語圏)でも販売をスタートしています。
よって、いよいよ待望のアジア圏への投入となった訳ですが、ここで選んだのは日本ではなく中国でした。
他社とは違う地域をあえて選んだのには、一体どういう理由があるのでしょうか?
AppleがHomePodで中国を狙う理由
Echo・Google Homeが進出できていない
AppleがHomePodのアジア圏初上陸地として中国を選んだのは、どういった理由なのでしょうか?
それを推測する上で大きいのが、GoogleとAmazonのスマートスピーカーが現状中国国内から利用できないこと。
中国ではご存じの通りインターネットに対する規制が強く、普段私達が日本で当たり前のように利用しているサービスの中にも、中国国内からは利用できないものがいくつか存在します。
GoogleHomeやAmazon Echoもその1つ。
また、Amazonはそもそも中国国内で通販サイトの運営を行っていませんから、規制の有無に関わらず、Echoを投入するメリットは薄いと思われます(Amazon製のハードウェアの多くは、自社の通販サイトなどの利用増に繋げる為の物で、その為、性能の割に安価な製品が用意されているのです)。
一方、HomePodはものすごく単純に言えばSiriを搭載したスピーカーであり、GoogleやAmazonのサービスがなくても動作が可能。
現在の中国でiPhoneの利用が問題なくできる以上、それをスピーカー型にしたHomePodも特に問題はないということなのかもしれません。
中国語は英語と文法構造が近く話者も多い
一口に中国語といっても地域によって細かく分かれてはいますが、共通するのは英語に近い文法構造であること。
それに加えて話者も多いので音声データのサンプル収集がしやすく、Siriの精度向上が比較的容易であることも、中国市場への参入を決めた理由の1つではないかと考えられます。
対する日本語は、世界的に見れば話者は決して多くありませんし、文法構造も英語などと大きく異なる為、音声認識の精度向上には多くの課題があります。
実際、iPhoneを日々愛用している私も、Siriの日本語認識精度はGoogleアシスタントのそれと比べるとやや力不足に感じることが多いのが正直なところ。
市場規模の大きさも考慮すると、中国市場へ先に投入することが得策とAppleが考えたとしても、不自然には感じません。
Appleの業績下方修正で中国市場への対応も変化が現れる?
さて、ここまでご紹介してきたように、近年中国市場へとても力を入れているApple。
しかし、今後もこのような中国重視戦略を続けるかというと、やや微妙なところがあります。
それが、年始に入ってきたこちらのニュース。
Apple、Q1売上高見通しを下方修正ーー中国との貿易摩擦に言及-TechCrunch
昨年後半から米中は事実上の貿易戦争の状態になりつつありますが、その影響が少しずつAppleにも現れているのかもしれません。
今後も当面の間トランプ大統領の対中国政策が変わることは考えづらいので、Appleも場合によっては戦略の転換を余儀なくされるものと思われます。
もちろん、今回のAppleの決算下方修正は、米中関係だけなく様々な要因が重なったことによるものです。
ただ、そうした米中関係とは別の要因もまた、今後のAppleの対アジア戦略を若干ないしは大きく変えうる可能性があることには、注意が必要でしょう。
まとめ
今回はAppleのHomePodやiPhoneの販売戦略を元に、同社の中国市場を重視したアジア戦略を読み解いてみました。
もちろん、Appleでは中華圏以外のアジア各国・地域にも力を入れていますが、ここ数年はやはり中国を極端に重視した戦略が目立つのが正直なところ。
また、iPhoneのシェアが極端に高いとされる日本でも、販売価格の上昇などもあってか、今年は新型iPhoneより1世代前のiPhone8シリーズの方が売れているという話も一部では報道されています。
Appleにとって2018年はやや苦しい1年になったものと思われますが、それを受けてティム・クックCEOがどのような判断を下すのか、引き続き注目していきたいと思います。
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