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大林組が挑戦する建設3Dプリンター導入プロジェクト

近年の建設テクノロジーの中で、最も注目が集まっている技術の一つが、3Dプリンターです。

3Dプリンターの建造物は自由度の高い建築が可能であるということで期待されていることも多い一方、従来とは一線を画す技術となるため、相応の課題も発生しています。

今回は大林組が取り組む、3Dプリンターによる建築物製造プロジェクトに注目し、彼らの取り組みや、3Dプリントによる建築が持つ特徴などについて見ていきます。

①大林組が開発した高性能3Dプリンタ
②複雑な構造の実現と高いコストパフォーマンスの両立が可能
③建設業界の課題解決に大きな前進をもたらす可能性も

大林組が取り組む3Dプリンタ建築

2017年、大林組は特殊なセメント系材料を使った建造物の出力を可能にする3Dプリンタを開発し、汎用性の高い建造が可能になったとして、注目を集めました*1。

大林組の開発した国産3Dプリンタ

一般的に普及している3Dプリンターは、樹脂や石膏などを素材とする、ハンドサイズの構造物を出力するものが大半を占めていました。

一方で大型の構造物となると、コンクリートなどの耐久性の高い素材を使用する必要があり、これらを使った3Dプリントの技術は発展途上とされてきたのです。

しかし、大林組が開発した建造物3Dプリンタは、特殊なセメント材料を用いた出力が可能となっており、強度を確保しながらも、3Dプリンタらしい柔軟な運用を実現しています。

大林組はこの3Dプリンタを用い、モルタルブロックを複数製造して、それらを組み合わせたアーチ状の小さなブロック橋の建造も実験的に行いました*2。

速乾性に優れた3Dプリンターを使用することで、ブロックを1ピースあたり15分のペースで製造し、それらを組み合わせて橋の建造を行うことに成功しました。

そのためより大きなプロジェクトにおいても、同様に作業の効率化を進めていく効果が期待されています。

シェル型ベンチの建設・曝露試験も実施

また、2019年にはさらに大きなプロジェクトを、大林組は実施しました。

8月に建設を開始し、年末ごろに大林組施設内で完成したシェル型のベンチは、幅7メートル、高さ2.5メートルにもなる大型のベンチで、3Dプリンタの建造物としては国内最大級のスケールとなっています*3。

まるで貝殻のような曲線を描く、従来技術では非常に高度とされてきた設計をもとに作られた、今回のベンチですが、特殊モルタルと自社開発のコンクリートの複合構造を用いることで、実現に成功しました。

現在、大林組は曝露実験を実施中で、およそ2年をかけて今回のベンチの経過観察を行い、ひび割れの程度や塗装状態の変化、光沢の具合を計測していきます。

今回の実験にとどまらず、大林組は実践的な現場における3Dプリンタの導入も計画しており、小規模でも実用的な建物に使っていきたいと考えているようです。

大林組の3Dプリンタの特徴

3Dプリンタ技術の建築分野への応用は難しく、実現には時間がかかると言われてきました。大林組が実用化に向けて研究開発を行なってきた3Dプリンタは、どのような特徴を有しているのでしょうか。

建設3Dプリンタが抱えてきた課題

建築用の3Dプリンタがハンドサイズのプリンタほど普及しなかった理由として、材料の問題があります。

コンクリートのようなセメント系材料は、もともと圧縮力に関しては十分な力を発揮しますが、引っ張る力については問題を抱えており、鉄筋コンクリートに代表されるように、鋼材との組み合わせによる複合構造を採用することが一般的でした*4。

また、日本は欧米圏に比べて3Dプリンタの建設分野への応用が特に遅れてきたとされています。その理由として、日本は木造建築の需要が欧米に比べて大きく、3Dプリンタの需要も比較的小さいということが挙げられます。

石造建築の歴史が古く、木造需要がほとんどない欧米圏にとって、3Dプリンタ建築は間違いなく次世代の建設現場を支える技術であった一方、日本の現場はその限りではないという事情です。

世界レベルでも通用する、大林組の3Dプリンタ技術

そんな課題を抱える中、大林組が開発した3Dプリンタ技術には、いくつかの特徴が挙げられます。

一つは、大林組が開発した「スリムクリート」と呼ばれる、常温硬化可能な超高強度繊維補強コンクリートの使用です。

自己充填性があり、3Dプリンタ用の特殊モルタルで製造された外型への流し込み作業も容易に行うことができ、人力の配筋作業に比べて大幅な時間短縮と効率化を実現することに成功しています*5。

大林組の3Dプリンタには、吐出を複数回行い、自由な積層造形の実現も可能になっています。一般的な3Dプリンタの多くは、一筆書きの吐出に限定されており、積層経路は限られていたため、運用方法も限定的でした。

一方、今回の3Dプリンタは一筆書きの必要がなく、3D造形技術を余すところなく運用することができるよう改良が加えられています。大型のロボットアームと、この技術を組み合わせることで、大型建築にも耐えうる部材製造が可能となったのです。

建設に3Dプリンタを導入して得られる成果

建設用3Dプリンタの導入によって得られる成果として、幾つものメリットが期待できます。

コストパフォーマンスの大幅な向上

一つは、コストパフォーマンスの大幅な向上です。3Dプリンタで製造可能な部材が増加することで、製造にかかる材料費や人件費は大きく削減され、同時に納品スピードも格段に向上することが考えられています。

その結果、建設そのものの業務効率化も促進され、納期の短縮を実現。結果的に、建設事業そのもののコストパフォーマンスが大幅に向上すると期待できます。

人材不足の解消

もう一つは、人材不足の解消です。部材の製造や建設に伴う人手の絶対的な数が減少するため、高度な業務に携わる人手以外を必要としなくなります。

労働人口の減少や高齢化は建設業界における深刻な悩みのタネとして考えられてきましたが、3Dプリンタの導入は、この問題を大きく改善してくれる可能性を秘めています。

おわりに

大林組の3Dプリンタ運用は、まだ本格的な実戦段階に至っていないとはいえ、今後数年間で普及が進むことも十分に考えられます。

複雑な構造を出力できるだけでなく、コスト面でも高いパフォーマンスを生み出す3Dプリンタは、建設における主力技術となっていくことは間違いなさそうです。

出典:
*1 BUILT「3Dプリンタで橋をつくる、大林組が実証に成功」
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/1710/16/news039.html

*2 *1に同じ

*3 ニュースイッチ「なんと幅7m、3Dプリンターで製造した巨大シェル型ベンチがスゴい」
https://newswitch.jp/p/20568

*4 3DP id.arts「大林組、3Dプリンタ用特殊モルタルと超高強度繊維補強コンクリートとの複合構造を開発」
https://idarts.co.jp/3dp/obayashi-3d-printing-concrete/

*5 大林組「3Dプリンター用特殊モルタルと超高強度繊維補強コンクリートとの複合構造を開発しました」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20190829_1.html

 

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