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Googleの建設業兄弟会社「Sidewalk Labs(サイドウォークラボ)」頓挫の影響とは

新型コロナウイルスの影響により、多くの業界が壊滅的な打撃を受ける中、新しい時代をデジタルの力で作り上げていこうという動きが加速しています。

感染経路の特定や感染者数の集計など、センサーとインターネットを使った特定が急がれており、 企業では新たな設備の導入が検討されています*1。

しかし、テクノロジーは一体どこまで個人の生活に立ち入り、公共の情報として共有されるべきか、という問題があることも事実です。

人の動きをスマート技術で捉えるスマートシティは、次世代の世の中を支える構想として注目されてきましたが、プライバシーにまつわる障壁は高いものがあります。

Googleの兄弟会社であるSidewalk Labs(サイドウォークラボ)は、カナダのトロントに一からスマートシティを構築しようと試みましたが、先日計画の停止を発表しました。

理想郷ともされるスマートシティは、なぜ簡単に実現しないのでしょうか。

目次:
①トロントで進められた世界最大のスマートシティ計画
②データ活用の是非をめぐり、計画は中止
③プライバシーの侵害と利便性を巡って、今後も議論が期待される

Sidewalk Labs(サイドウォークラボ)とは

今回トロントにおける都市開発を主導していたサイドウォークラボは、Googleと非常に親しい関係にある会社です。

Googleの親会社アルファベットの子会社

Googleの親会社であるAlphabet(アルファベット)は、テクノロジーからバイオ、投資まで様々な分野の産業の持ち株会社を務めるコングロマリットです。

そのうちの1つで、2015年にニューヨークで誕生した企業こそ、今回のスマートシティ計画を主導していたサイドウォークラボです。

サイドウォークラボ公式:https://www.sidewalklabs.com/

サイドウォークラボは都市計画やインフラに携わり、生活にかかるコストの減少や、より効率的な移動手段の提案などを進めてきた企業です。

事実上Googleの子会社とも言える同社の活動は、その登場以来投資家たちの注目を集め、彼らが進めてきたトロントのスマートシティ計画は、目玉企画の1つでした。

サイドウォークラボが進めてきたスマートシティ計画

カナダのトロントにおけるウォーターフロント(港湾地区)における再開発プロジェクトは、サイドウォークラボが創設から2年後に発表した計画です。

4万9千平方メートルにも及ぶ土地を、クリーンエネルギーの活用やサステイナブルな部材を用いた建設、インフラ整備により生まれ変わらせるというものです。

そして最も人々の注目を集めたのが、街中のあらゆる場所でデータ収集を行い、より効率的な都市運営を可能にするというスマート化の提案でした。

人の移動が活発な時間以外は電力の消耗を抑えるなど、リアルタイムの街の様子の変化に応じる柔軟性の高いスマートシティを、サイドウォークラボは実現しようとしたのです。

トロントにおけるスマートシティ化の失敗

一見すると、街づくりにおける先進的な取り組みであるように見えたサイドウォークラボの計画ですが、いざ実行へ移すとなると、大きな反発を経験することになります。

デジタル監視社会への強烈な抵抗

結論から言うと、サイドウォークラボによるトロントの計画は、2020年5月に再開発計画からの撤退が発表されました。

参考:TechCrunch「グーグル子会社スマートシティ開発のSidewalk Labsがトロント事業から撤退」
https://jp.techcrunch.com/2020/05/09/2020-05-07-sidewalk-labs-shuts-down-toronto-project/

今回の撤退発表が行われた理由として、やはり大きなウェイトを占めていると言われているのが、国内外からの強い反対です。

地域住民を始め、サイドウォークラボの再開発プロジェクトに強烈な抵抗が生まれたのは、同社が住民のプライバシーを侵害する大きな懸念があるという点です。

今回のプロジェクトでサイドウォークラボが推し進めたスマートシティ計画は、一企業が個人の一挙一動をデータによって監視し、コントロールするものです。

あらゆる街の情報を収集し、街の運営に活かしていくとアプローチは、確かに全体の利益を顧みると効率的な取り組みかもしれません。

しかしあまりに行き過ぎた住民のデータ管理は、個人のプライバシーを侵害するものであるとして、地域から反発を受け、次第に世界中から非難が相次ぐようになりました。

追い討ちをかける新型コロナウイルス

そんな反発を続ける地域住民や世界の説得へ大いに時間をかけていた矢先、2020年に入って追い討ちをかけてきたのが、新型コロナウイルスによる世界経済の停滞です。

5月にサイドウォークラボのCEOであるDan Doctoroff(ダン・ドクトロフ)氏が撤退を発表した際、その理由として挙げたのもコロナ禍の影響でした。

前代未聞とも言える巨大な土地の再開発を、行き先不透明な不動産価値の中、一企業が担当するということはあまりにリスクが大きく、撤退を決意したと話しています*2。

もちろん、親会社がGoogle系の企業である以上、このような渦中にあっても計画を継続することは、経済的には可能であったとも推測されます。

しかしそれでもプロジェクトの中止を決定した背景には、同プロジェクトに対する根強い反発を覆せなかったことが、大きく尾を引くことになったからだと考えられます。

サイドウォークラボの失敗からスマートシティのあり方を再考する

サイドウォークラボは、創設後の最初で最大のスマートシティプロジェクトを失敗させてしまい、会社の存続にもつながる窮地に立たされているようにも見られます。

スマートシティは合理的には優れた機能を持った街づくりのあり方ですが、今回の事件から、実行性の面における課題も浮き彫りになりました。

行き過ぎた監視社会がもたらすプライバシーの侵害

1つは、あらゆる人の活動を過度に監視対象としてしまうことで、大きなプライバシーの侵害へとつながってしまうリスクです。

ビッグデータを処理して社会課題の解決が求められる時代において、もはや理論上は国民一人一人のデジタルデータを追跡し、その活動を監視することは造作もありません。

しかしそれを実行するとなると話は別です。私たちの社会には技術の前に法律があり、法律の前に憲法があります。

プライバシーの侵害は、法律どころか国民の自由を保障する憲法に触れる、重大な問題に進展しかねません。

適切なスマート化の「加減」を理解する

スマートシティにおけるデータ活用は、個人のプライバシーを侵害しない程度での運用が求められ、その線引きを進めていくことが肝要になります。

そのため、その町に住む人や国民にとって、どの程度のデータの収集と活用までが、プライバシーに触れるかどうかを探る必要があります。

例えば隣国の中国においては、キャッシュレス決済やAI技術の進展により、彼らのIDは政府が管理する信用スコアと紐づいています。

そうかと思えば、カナダのトロントにおける、スマートシティを効率的に動かすためのデータ収集は、住民にとっては大問題のプロジェクトでした。

どの程度までのデータ活用が許されるかは、国や地域によって様々です。

日本において、どれほどの活動まで許されるかについては、これからしっかりと検討していく必要があるでしょう。

おわりに

新型コロナウイルスによって、社会におけるデータ活用の常識は変わりつつあります。

ウイルス感染者や感染の疑いがある人は、国や自治体によって監視し、国民が自由にそのデータを閲覧できる技術についても、国内で運用の是非が問われています。

データ活用のあり方についての議論は、今後ますます活発になっていくことでしょう。

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出典:
*1 PRTimes「IoT-EX、企業BCP対策として濃厚接触者特定サービスの提供開始」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000049175.html
*2 Tech Crunch「グーグル子会社スマートシティ開発のSidewalk Labsがトロント事業から撤退」
https://jp.techcrunch.com/2020/05/09/2020-05-07-sidewalk-labs-shuts-down-toronto-project/

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