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6Sで考えるユーザーエクスペリエンス

優れたユーザーエクスペリエンス(UX)をデザインするためには、ITに限らず幅広く私たちの日常体験を観察するとよいでしょう。

たとえばテーマパークで遊んだり、ショッピングモールやコンビニエンスストアで買い物をしたり、外出したときに快適だったこと、快適ではなかったこと。キッチンで料理をするとき、居間でくつろぐとき「これは素敵だな!」と感じたこと。そんな何気ない日常にUXのヒントがあります。

ユーザー中心設計(UCD:User-centered design)を提唱したドナルド・A・ノーマン教授は『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』の冒頭で、引かなければならないドアを押したり、押して開けるドアを引いたりする失敗を述べています。このようなミスをする原因は、利用する人間側ではなく、デザイン側に問題があると指摘します。

優れたUXのデザインには人間の研究が欠かせません。6つのSで始まる単語からUXについて考察してみましょう。

1. Senses(センス)

まず直感的に分かること。マニュアルを読んで「ああ、そういうことか」とやっと理解できるようなデザインは、優れているとはいえません。次に、洗練されていること。使いやすいだけでなく、ユーザーに心地よさ、使う喜びを与えるデザインが求められます。

さらに五感に訴えること。ユニバーサルデザインの面から言うと必ずしもよいといえない場合もありますが、アクションにしたがって自然に音が出たり振動したりする工夫もインタラクションデザインとして重要です。

2. Satisfaction(満足)

期待値が高い場合、通常であれば満足するはずの条件を満たしてもユーザーは満足しないときがあります。

コンビニエンスストアを例に挙げましょう。24時間開いていて品揃えが豊富であっても、店員がぞんざいな対応の場合、満足できません。どこにでもコンビニエンスストアがある現在、利便性がコモディティ化(一般的になって差別化が困難な状態)したため、便利なだけでは不十分です。

このような状態で高い満足度を得るためには、ユーザーの期待値を超えるサービスを実現しなければなりません。

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3. Success(成功体験)

「あっミスしちゃった!」という体験は、製品やサービスの批判だけでなく、自分を責める気持ちを生じさせます。何度も失敗を繰り返して不快が続くと、Webサイトであれば離脱するようになります。

エラーメッセージにこだわる開発者もいますが、エラーメッセージを頻発に表示させるシステムはUXとしては優れていません。ユーザーの操作や入力のミスを事前に推測し、エラーを回避する設計が理想です。

たとえば登録フォームでは、必須項目を増やし過ぎると、記入を間違えた場合、登録画面に戻って入力し直さなければなりません。ミスが多くなると登録が面倒になります。逆に「おめでとうございます!登録はすべて完了しました」という画面がひとつあるだけで、ユーザーにはささやかな成功体験を得られます。

4. Share(共有)

便利だったこと、感動したこと、驚いたことを、人間は誰かと共有したくなるものです。特にSNSが普及した現在、簡単に情報や感動を共有できるようになりました。

口コミを発生するには、感情の閾値(最小限度の量)を超える必要があります。ありふれた感動では、背中を押す力は強くありません。ただ、本当によいものは、じわじわと時間をかけて浸透していくことがあります。

5. Synergy(共働)

かつて製品開発はメーカー、完成した製品の利用者はユーザーというように分かれていました。しかし、最近では、ユーザーが積極的に製品や商品の開発に関与するようになりました。シナジーは相乗効果とも言われますが、プロトタイプの段階から関わる体験に喜びを感じるユーザーが増えています。クラウドファンディングもその一例といえるでしょう。

6. Study(学習)

ロールプレイングゲームのように、学習してCP(Combat Power:戦闘力)を上げ、成長することは楽しいですよね。このような学習的な要素もUXを向上させる上では重要です。

ユーザーインターフェース(UI)と異なり、ユーザーエクスペリエンス(UX)は「体験のデザイン」です。テクノロジの理解に加えて、人間を理解しなければなりません。心理学や認知科学の本を読んでも構いませんが、友達や家族と過ごす時間、あるいは過去の思い出の中に重要なUXのヒントが隠されているかもしれません。

 

 

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