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 Appleがめざすカーボンニュートラルとはなにか。世界の脱炭素化社会への取り組みにも注目!

 2021年4月にM1チップ搭載のiMacが発表されたばかりのAppleですが、2030年にはサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を目標とすることを発表しました。
日本でも「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言され、脱炭素社会の取り組みを進めることが発表されましたが、このような動きを先取りするような内容でした。
 今回の記事では、Appleの環境面への取り組みについてまとめてみましょう。

この記事でわかること
 ・Appleが発表したカーボンニュートラル目標の内容
 ・世界的なカーボンニュートラルへの取り組み
 ・日本政府が発表したカーボンニュートラル目標

Appleが発表したカーボンニュートラル目標の内容について

 まずは、AppleのNewsroomに掲載されている発表内容について見てみましょう。
 タイトルは「Apple、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」と高々にうたっています。
 2030年っていうと、あと10年切ってます。多くの国や組織が2050年程度をターゲットとしているのに比べると、かなり前倒ししていることに驚きを感じます。*注1

 今回の発表の冒頭では、
 ・Appleは現時点ですでに、グローバルな企業運営においてカーボンニュートラルを達成していること
 ・その取り組みをさらに進め、2030年までに事業全体・製造サプライチェーン・製品ライフサイクルのすべてを通じて環境に与える影響をネットゼロにすること
と宣言しています。

 現時点ですでに達成している範囲と、これからカーボンニュートラルを目差す範囲の明確な区別については不明ですが、まだ不十分な所をあと10年で完全にクリアにするということでしょう。
 カーボンニュートラルとは、企業活動によって排出されるCO2と生産されるCO2のバランスを取り、プラスマイナスゼロにすることを意味します。これをApple本体だけでなく、全世界に広く分散しているサプライチェーン全てにおいて達成するというのです。

 Appleは納入業者に対して、厳密で詳細な制約を課すことで有名です。製品の品質はもちろん、以前労働環境で問題を起こしたこともあり、非常に細かいところまで調査と指導を行うことでサプライチェーン全体をコントロールをしています。
 以前Appleは、設計だけに集中して製造を外部に委託する「水平分業モデル」として説明されることも多い企業でした。
しかし今では、このようなコントロールが隅々まで及んでいることから、実質的な「垂直統合モデル」に近いと捉え直す方が、実態に即しているように思われます。*注2

 Appleはこの目標を達成するため、多岐にわたる課題解決のための具体的なロードマップを同時に発表しています。概要としては以下のような内容になります。

 ・低炭素を実現した製品のデザイン
 ・効率的なエネルギーの使用
 ・再生可能エネルギーの利用
 ・工程や材料における革新的な技術の開発
 ・二酸化炭素の除去のための森林の保護など

 「低炭素製品」については、主にリサイクルの活用に取り組むようです。大学との共同研究や自社で開発したリサイクルロボットの活用などが紹介されています。
すでにこの分野では過去11年にわたり、73%ものエネルギー削減を実現しているとのことです。

「効率的なエネルギーの使用」は、平たくいうと「省エネルギー化」を推進するというものです。1億ドルもの資金を準備し、Appleだけでなくサプライヤーに対しても省エネに対する援助をするようです。

「再生可能エネルギー」については、Apple本体はすでに100%を実現しています。今後はサプライヤーに対しても再生可能エネルギーの利用を進めていくことで、当初の目標の達成を目指します。もちろん、新たな太陽光発電所などの設置にも投資をしていくようです。

 「技術の開発」について、具体的には炭素を含まないアルミニウム精錬プロセスの開発に取り組んでいるとしています。
 Apple製品、中でもMacシリーズの筐体はアルミニウム製ですが、すでに100%リサイクル品が製品化されています。これをさらに進めて、製造工程における炭素使用量を削減するとしています。*注3

 さて、いくらCO2排出削減を進めたとしても、完全にゼロにすることは不可能です。カーボンニュートラルを実現するためには、どうにかしてCO2を吸収していく手段が必要です。CO2の排出と吸収がバランスを取ることで、トータルとしてゼロにすることができるという仕組みが成り立ちます。
 もちろん、通常の生産活動だけでCO2の吸収をすることはできませんので、森林の保護や緑化などを進めることが必要です。
 具体的な取り組みの最後にある「二酸化炭素の除去のための森林の保護など」はこのような、CO2を吸収するための取り組みのことです。

世界的なカーボンニュートラルへの取り組みについて

 経済産業省がまとめた資料によると、世界各国のカーボンニュートラルに対する取り組みは次のようになっています。

 ◯EU 2050年までにカーボンニュートラルを実現
 ◯英国 2050年に1990年対比で少なくとも100%削減
 ◯米国 バイデン大統領が2050年までにGHG排出ネットゼロを表明
 ◯中国 2060年までにカーボンニュートラル

 アメリカはトランプ前大統領がパリ協定を離脱するなど、環境問題に対するあゆみは一時停止していました。しかし、民主党のバイデン大統領は、GHG(温室効果ガス)排出ネットゼロに言及するなど、再び世界と歩調を合わせた取り組みを進めるようです。
 英国はEUを離脱したため、独自の目標を設定しています。1990年対比での100%削減を目標にしており完全なネットゼロではありません。

 急速な工業化が進み、世界のあらゆる産業にプロダクトを提供するようになってきた中国は、そもそも企業活動を制限するような厳しい環境面での制約については、これまで積極的ではありませんでした。
 しかし、脱炭素分野問題に対しては、2030年までにCO2排出量を削減する目標に転じ、2060年までにはカーボンニュートラルを目指す事を表明しています。
 広大な国土と多くの国民を抱え、活発な生産活動をおこなっている中国抜きには、世界レベルでの環境対策はそもそも実現不可能です。この表明通りに環境面での取り組みが進むことを期待したいものです。

 これらの目標が実行可能かどうか、というよりも「本気で取り組む気があるかどうか」は、具体的な実効性のある計画の有無で判断できそうです。
 同じく経済産業省の資料を参照すると、

 ◯EU 10年間で120兆円のグリーンディール投資計画
 ◯ドイツ 6兆円の先端技術開発支援
 ◯フランス 2年間でクリーンエネルギーやインフラに3.6兆円投資
 ◯韓国 5年間で再生エネルギー拡大、EV普及などに3.8兆円
 ◯米国 4年間で脱炭素分野に対して200兆円の予算(バイデン候補公約)
 ◯英国 2030年までに政府支出1.7兆円

 米国の予算については、大統領選を戦っている段階でのバイデン候補の公約です。実際に大統領となってから、公約通りの政策を出すかどうかはまだ不明であり、200兆円の予算が実行されるかどうかは未定です。
 一方中国については、まだ習主席が国際舞台で表明したという段階であり、具体的な予算内容や取り組みついては、はっきりしていません。

日本政府が発表したカーボンニュートラル目標について

 Appleの発表は2020年7月でしたが、2020年から2021年にかけての日本政府の動きについてまとめてみましょう。

◯2020年10月 
 ・「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言(第203回臨時国会)
 
 ・地球温暖化対策推進本部で2050年カーボンニュートラル実現に向けて、菅総理から各閣僚に対して指示を出す

◯2020年11月 
 ・国会において「気候非常事態宣言決議」が採択

◯2020年12月
 ・「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」閣議決定
 ・「令和3年度与党税制改正大綱」の取りまとめ

 2020年10月の宣言や指示、さらに11月の決議の採択については、「このままでは地球温暖化を止められないので、世界と歩調を合わせて2050年まで取り組みを強化する」という内容です。そのための具体的な取り組みをスタートしましょう、という感じではないでしょうか。
 問題はその「具体性と実効性」となります。12月の総合経済対策や税制改正大綱は、タイトルだけ見ると、環境問題となんの関係があるのかちょっとわかりにくいですね。

 この2つに対しては、コロナで疲弊した経済対策という位置付けであり、「ポストコロナの新しい成長戦略」の中で環境対策が取り上げられています。
 このような対策は、コロナとは別枠できちんと論じた方が良いのでは?と思う点もありますが、とりあえず枕詞に「コロナ対策」をつけておいた方が、現時点では話が通りやすいというのもあるのではないでしょうか。

 税制の優遇措置などについても、「コロナ禍で生じた欠損金をカーボンニュートラルなどの投資の範囲で控除」という、ややインパクトに欠ける内容のように思えます。
 しかし技術革新に対する基金についは、2兆円の枠で予算設定しているとのことですから、こちらには期待が持てるかもしれません。ただし、現在のところ経済産業省のまとめた資料を見る限りでは「具体的で実効性のある」とまでは言い切れないようです。
 今後このような目標に対して、本当に意味があり効果が期待できる政策が出てくるかに注目したいところです。

【まとめ】
 今回は、Appleのカーボンニュートラルへの取り組みをきっかけとして、世界や日本の現状についても一覧してまとめてみました。
 経済産業省のプランの中には「水素社会の実現」というものもあり、これらの内容についてはやや不安を感じる点もあります。
 それに比べてAppleの今回のロードマップは、具体性があり、これまでの継続した取り組みでの実績をベースとして、実現可能なものに思えます。巨大なサプライチェーンを持つAppleの取り組みが、一つのモデルケースとして実現することを期待したいと思います。

 

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■参考文献
注1
Apple Newsroom
https://www.apple.com/jp/newsroom/2020/07/apple-commits-to-be-100-percent-carbon-neutral-for-its-supply-chain-and-products-by-2030/
経済産業省 「2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_wg/pdf/002_03_00.pdf
注2
Apple 「サプライヤー責任」
https://www.apple.com/jp/supplier-responsibility/
マイナビニュース 「BBCによる中国での過酷な労働環境レポート、Appleが反論へ」
https://news.mynavi.jp/article/20141222-a345/
注3
Apple 製品環境報告書
https://www.apple.com/jp/environment/pdf/products/notebooks/13-inch_MacBookAir_w_Retina_PER_oct2018_J.pdf

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