iPhone 7の新色を歴代カラバリに位置付ける
9月16日、iPhone 7が発売されました。おサイフケータイのFeliCa対応、防水など「待ってました!」という機能のほか、高性能のA10チップ搭載、インカメラの解像度アップ、賛否両論のイヤホンジャック廃止など話題を集めています。
さらにiPhone 7で注目したいのは「カラバリ(カラーバリエーション)」です。2013年のiPhone5sから引き継がれてきたスペースグレーがなくなり、2色の黒が加わりました。
iPhone 7のWebサイトにアクセスすると、コンテンツ全体が黒を背景とした重厚感のあるデザインになっています。アップル社のサイトは白を基調としたものが大半です。アップル社らしくない印象を受けますが、黒に対するこだわりと自信が感じられます。
新色ジェットブラックとは?
今回加わった2色の黒は、ブラックとジェットブラックです。
つや消し(マット)の黒がブラック、光沢のある黒がジェットブラックという違いがあります。ブラックはアルミニウムの表面にビーズを吹き付けて加工しています。一方、ジェットブラックは9段階の酸化皮膜処理と研磨加工が施され、アルミニウムとガラスの境界が分からないほど精密に作られています。
ジェットブラックは、発売以前にはピアノブラックという名前でウワサが飛び交っていました。ピアノブラックは名称の通りピアノの外観や黒鍵のような漆塗りの黒です。家電の塗装でよく使われます。一方、ジェットブラックの「Jet」は黒玉(こくぎょく)という宝石のJetと推測されています。黒玉は長い歳月を経て、水中で化石化した樹木から作られた宝石とのこと。
いずれも高級感のある黒ですが、楽器や家電に使われる一般的なピアノブラックではなく、歴史を経た宝石の輝きという意味付けに、アップル社らしいネーミングのセンスが感じられるのではないでしょうか。
デザインには、線、形、色、空間、質感、タイポグラフィーなどの要素があり、色は重要な要素のひとつです。Webサイトのインターフェースはもちろん、商品開発時のプロダクトデザインとしても大切な要素です。
そこで、iPhone登場時から現在までのカラーバリエーションの歴史をチャートにしてみました。インフォグラフィクスほどではありませんが、この年表からiPhone筐体のカラバリの歴史を考察してみましょう。
ジョブズ存命時はシンプルなカラー
当初、iPhoneはシルバー1色で登場しました。スティーブ・ジョブズが存命の頃には、基本的にブラックとホワイトの2色です。2010年にiPhone 4が登場したとき、フロントパネルがブラックからホワイトに変更されていますが、ジョブズのシンプル志向が影響を及ぼしていたのではないか、と考えられます。
ただし、iPhone以外の製品では、初代iMacは丸みを帯びたスケルトンの筐体にボンダイブルーの1色で登場した後、次々と多色展開を行いました。また、iPod miniやiPod Shuffleもカラーバリエーションが豊富です。多色展開も検討した上で、ジョブズの判断によってiPhoneはブラックとホワイトに戦略的に絞り込んだのかもしれません。
ジョブズ没後には多色化にシフト
ところが、ジョブズの没後、1年間はホワイトとブラックでしたが、翌年の2013年から一気に多色展開にシフトします。iPhone 5sではブラックが姿を消して、代わりにスペースグレーになりました。シルバーが復活し、新色ゴールドが登場しました。ゴールドは品切れになるほど、人気が出たカラーです。
一方、率直なところ失敗作ともいえるのがiPhone 5cです。ホワイト、ピンク、イエロー、ブルー、グリーンという5色を打ち出しましたが、「おもちゃの電話のようだ」のような酷評を受けました。高級感を与える5sに対して、廉価版の5cはカラフルさを強調して差別化したと考えられますが、市場には歓迎されなかったようです。
高級感を訴求するゴールドとブラック
iPhoneはいわばスマートフォン市場のマーケットリーダーであり、廉価版のような価格競争戦略は不向きといえるかもしれません。SEの影が薄いのも、そのような要因があると考えられます。
iPhone 6s/6s Plusでは、ゴールドから派生したローズゴールドが注目を浴びました。ゴールド路線が落ち着いて登場したのが、ブラックの展開と位置付けられそうです。
2色の黒はiPhone 5以前への回帰でもあり、新たな高級感を訴求する意図が読み取れます。商品戦略として2色の黒を用意する展開は考えにくいのですが、マットと光沢という「質感の違い」による差別化は見事です。
今後、スマートフォンは機能的な差別化が難しくなる製品と考えられます。そこで、独自の価値観や世界観が求められます。2色の黒が消費者にどのように評価され、今後のカラバリ戦略がどのように変わっていくのか興味深く見守りましょう。
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