GoogleのFuchsiaって何? あらためてモバイルOSを考えた
2016年に登場したGoogleの謎に包まれたOS「Fuchsia」。日本語の読み方は「フクシア」「フクシャ」「フューシア」とさまざまです。既にGoogleには、Android、Chrome OSという2つのOSがあります。いったいFuchsiaとはどんなOSで、何をめざしているのでしょうか。
この記事を読むと次の3つのことが分かります。
・GoogleのFuchsiaはどのようなOSか
・現在使われているモバイルOSのシェアと動向
・モバイルOSはFuchsiaの登場によってどのように変化するか
Fuchsiaを通じて、現時点におけるOS全般における動向の整理をしていきます。
GoogleのFuchsiaとは
まず、Fuchsiaの概要をまとめました。
名前の由来
一般的にFuchsiaは、朱赤で下向きの花を咲かせるアカバナ科低木の植物の名前です。上品な咲き方から「貴婦人のイヤリング」と呼ばれることもあります。中南米やインド諸島などの亜熱帯性気候の地域が原産地で、日本で育てる場合は耐暑性が
弱い植物のため、熱帯夜などに注意が必要です。
原種は100種以上があり、世界中で品種改良が行われて、現在では園芸用に3,000種もの品種があります。日本ではサントリーフラワーズと西宮市が改良した「エンジェル・イヤリングシリーズ」が人気を集めています。そんな花の名前をコードネームにつけていることから、GoogleのFuchsiaもオープンソースとして「品種改良」を狙っているかもしれません。
デザインの観点からは「フクシア色」と呼ばれる色があります。別名は「唐紅(とうべに、からくれない)です。印刷物は基本的にシアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・クロ(K)の4色、つまりCMYKのインキで印刷されますが、その「マゼンタ」です。RGBによる指定では「#FF00FF」になります。1859~1861年、イタリア統一戦争の激戦区がミラノ市のマゼンタでした。このときフランス連合軍は勝利をおさめ、コールタールから深紅色のフクシンという赤い染色を発明しました。その地名にちなんで、この赤色はマゼンタと呼ばれるようになりました。
実はFuchsiaに使われているマイクロカーネルZircon(ジルコン)の旧称はMagenta(マゼンタ)であり、カーネルの名称を花の名に言い換えたものと考えられます。
開発の経緯
Fuchsiaが登場したのは、2016年8月15日です。Googleから公式発表がないまま、突如としてGitHubのリポジトリに公開されました。セキュアなOSを開発するプロジェクトの一環として位置づけられ、初期バージョンにおいては、コマンドラインシェルのみでした。その後、大きな動きはなかったため、Fuchsiaは忘れ去られたかのようにみえました。
ところが2017年に、Fuchsia のGUIとして「Armadillo」が追加されたことから、話題が再燃します。Armadilloはカード型のインターフェースです。Fuchsia は、Googleで有名な自由に本業以外の開発に着手できる20%ルールによって生まれたプロトタイプではなく、GitHubは「残骸置き場ではない」として、本格的なGoogleの取り組みであることが伝えられました。そこで「FuchsiaはAndroidに代わるOSではないか?」という憶測が巻き起こります。とはいえ、この段階ではカード型のインターフェースでアプリの画像を表示させるだけの機能しかありませんでした。
しかし、11月にはプログラム言語であるSwiftを導入。このことにより、iOS、macOS、Linuxのクロスプラットフォームで開発できるようになりました。2018年の1月、GoogleはFuchsiaのPixelbook用ガイドを発表しています。
そして2019年1月。FuchsiaではAndroidアプリの動作を可能にするということが、Android Open Source Project(AOSP)のリポジトリから判明しました。GoogleのモバイルOSはAndroidからFuchsiaに置き換わるものではないという予測が一般的でしたが、結局そのポジショニングは謎に包まれたままです。
OSの特徴
Fuchsiaはゼロからモバイル用に設計されたOSです。グラフィックの高速な表示が可能で、ユーザーエクスペリエンスを大幅に向上させるポテンシャルを秘めています。また、Fuchsiaはフリーのオープンソースのソフトウェアであり、BSDライセンス、MITライセンス、Apache 2.0など複数に適応しています。
GoogleのChrome OSやAndroidはLinuxカーネルを採用していますが、FuchsiaではZirconというマイクロカーネルを採用しています。マイクロカーネル は必要最小部分をOSが担う設計思想に基づいていて、Fuchsia はTravis Geiselbrecht氏が開発していた組み込みシステムを対象としたOSから派生して生まれました。
Fuchsiaの開発ではFlutterというSDK(ソフトウェア開発キット)を利用します。このSDKはFuchsia を含めてAndroidやiOSなど、クロスプラットフォームの開発が可能です。Googleが開発したウェブ向けプログラム開発言語Dartで、120 fpsで描画できるアプリケーションを開発できます。さらにEscherによって、光でリアリティのある表現をするVolumetric soft shadowsという視覚効果の描画を向上させます。Escherは、クロノス・グループによるリアルタイム3DCGのAPIであるVulkanベースのレンダリングエンジンです。
要するに、AndroidのUI/UXがFuchsiaによって、より美しく速くなると考えてよいでしょう。
モバイルOSのシェアと現状
Fuchsiaについて概要をまとめましたが、現在使われているスマートフォン向けのOSの市場シェアと現状を整理します。
モバイルOSのシェア
まずNet Applicationsが発表した2018年12月のモバイルOSのシェアでは、トップシェアはAndroidの68.9%、iOSが29.3%で、この2つで98.2%を占めます。それ以外のOSは今後消滅するだろう予測するメディアもあり、モバイルOSはiOSとAndroidの争いと考えてよいでしょう。11月のシェアと比較すると、iOSが30.8%から29.3%にシェアを落としていますが、Androidは67.7%から68.9%と伸びています。
しかしOSのバージョン別ではトップシェアはiOS12.1の18.3%で、Android 8.0の15.8%が続きます。Androidでは古いバージョンを利用しているユーザも多く、これは従来からの傾向のようです。
参考:iOS 12.1が増加 – 12月モバイルOSシェア(マイナビ・ニュース)
iOSの現状
現状、2018年の9月に配信されたiOS 12が最新版です。旧機種におけるパフォーマンスが大幅に改善され、スマートフォン依存症を防ぐための「スクリーンタイム」などが導入されました。写真とカメラのアプリの改善や、「アニ文字」「ミー文字」などメッセージアプリのコミュニケーション機能も強化されています。
Appleでは既にiOS 13、macOS 10.15の開発に着手しています。2018年は、iOSとmacOSの統合が期待されましたが、「WWDC 2018」で統合は否定されたものの、スマートフォンとPCでアプリが動く、クロスプラットフォームの環境が整備されつつあります。
Androidの現状
最新バージョンは9.0 Pieで、従来からの最も大きな変化は、アプリを切り替えるUIが変更になったことです。画面下のバーをスワイプすると起動しているアプリが表示され、1番左のアプリを表示させたとき「すべてクリア」の文字をタップすると、アプリを一括終了できます。ホーム画面も画面下のバーをタップして表示させることができるようになり、iPhone Xを意識した操作方法になりました。
その他、画面の回転、ミュート設定、バイブレーション切り替えなどの機能でUIが変更されています。さらに機械学習によってユーザの利用履歴を端末が学習し、ユーザの次の行動を予測してアプリや機能を提案する「App Actions」が追加されました。
UI以外にもiOSと同様にスマートフォン依存症を防止する「Dashboard」、機械学習によるバッテリー節約、ディスプレイの明るさもユーザの好みに合わせて自動的に最適化する機能が加えられています。
まとめ:モバイルOSはこれからどうなるか
いまだにGoogleから正式なコメントはありませんが、Fuchsiaはスマートフォンだけでなく、タブレット、PC、電化製品などの組み込みOSとして幅広く活用されるOSであると予測されています。車載インフォテイメントとして、カーナビ、カーオーディオ、車載DVDやTVなどを集中管理するOSの可能性もあります。いわゆるGoogle Autoの機能です。
Androidブランドを引き継ぐだろうという見解もありますが、OSのカーネルはまったく違うものになるため、メーカーのエンジニアや開発者はFuchsiaに最適化したハードウェアやソフトウェアへの対応を考える必要があります。しかしながら、まだGoogleのロードマップが正式に発表されない現在、全貌は見えていません。未確認情報に踊らされず、しばらくは静観すべきかもしれませんね。
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