BIM ― 日本での普及状況は?
コンピュータ上に建物の3Dモデルを立ち上げ、そのモデルに設計から施工までの各段階に必要な情報が紐づけられるBIM (Building Information Modelingの略称)。今や建築プロジェクトに欠かせないツールとして普及が進み、海外では国家プロジェクトとして使用が義務付けられているケースも見られます。
それでは、BIMの仕組みと日本での普及状況はどのようになっているのでしょうか。
この記事を読むと以下の3つのことがわかります
①BIMとは
②BIMの普及率
③BIMの活用法
BIMとは
BIMとは、Building Information Modelingの略称。「建物の情報をモデル化する」という名前の通り、コンピュータ上に建物の3Dモデルが情報付きで立ち上がるシステムです。ここで言う「情報」とは、立ち上げられたモデルを構成する各部材の仕様やサイズをはじめ、設計から施工までの各段階に必要な情報ということになります。
BIMの最大の特徴は、図面を介さず建物を直接立体化する設計スタイルにあります。つまり設計対象の建物は1枚1枚の図面から設計していくのではなく、3Dモデルをバーチャルで立ち上げて設計します。各種図面が必要な場合には、3Dモデルを任意の方向に切り取ることで平面図・立面図・断面図等へとアウトプットするのです。また、建具表や面積表などに必要な情報も同時にモデルへと組み込んでいくため、集計表の類もBIMで同時作成することができます。
設計変更に伴うミスが起こらない仕組み
これまでの建築・建設業界では、どこか1ヶ所に設計変更が生じると、平面図、立面図、断面図、建具表、設備図・・・と、各図面の該当箇所を全て修正する必要がありました。ところがBIMでは3Dベースで立ち上げたものを図面に切り出すスタイルであるため、3Dモデルの情報を書き換えるだけですべての図面や集計表の変更が完了します。
人為的なミスで設計変更が反映されず、設備の配管と干渉するようになった、部材のサイズが合わなくなった・・・というトラブルが起こることを、BIMを用いることで未然に防ぐことができるのです。
誰とでも情報共有
BIMを用いて建築設計を行うメリットは、立体や数値で「見える化」した情報を共有できる点にあります。建築の専門家でなくとも、さらには設計図になじみが無くとも、建築主や各界の専門家と情報を共有し、その場で意思決定まで行える精度のモデルがコンピュータ上に立ち上がるのです。コンピュータ上の壁をその場で動かしデザインを検討するなど、2次元の図面から立体を想像できない人にも理解・判断がしやすい機能がBIMにはついているのです。
BIMの普及率
世界のBIM普及
BIMは建物の設計、施工、そして維持管理までの過程を一元管理できるとあって、建築設計事務所だけでなく施工の現場での目覚ましい普及が注目されています。データべ―スと紐づいた3Dモデルで情報共有を行う仕組みは、“ビッグデータやAI(人工知能)に活用するための情報プラットフォームにもなりうる(※①)”からです。
BIMの普及は海外では国家戦略的に進められ、イギリスや韓国では公共工事でのBIM利用が義務付けられている他、シンガポールでは建築建設庁が“床面積5000㎡を超える建物に対し、2015年までに建築確認申請で意匠、構造、設備のBIMモデル提出を義務付けた※②”ニュースも記憶に新しく、その後も2018年完成の国土全体を3Dモデルに集約する国家プロジェクト「バーチャル・シンガポール」構想が進んでいきました。(※③)
世界のBIM導入率にフォーカスすると、東洋経済の記事では、2015年時点での工事現場における導入は、BIM発祥の地アメリカで8割、ヨーロッパ7割、韓国5割とされる中で、日本では4割にとどまっています(※①)。
日本のBIM普及率
ではその後、日本のBIM導入率はどのような変遷を遂げたのでしょうか。前述の2015年の普及率調査に先がけ、2009年日建設計の山梨知彦氏が著書「BIM建設革命」の中での宣言「日本のBIM元年」を皮切りに(※④)、その後国内でも2010年国土交通省「官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトの開始(※⑤)」宣言、2014年同省発表の「官庁営繕事業におけるBIM モデルの作成及び利用に関するガイドライン(※⑥)」など、BIM定着への道を着実に辿ってきています。ゼネコンや組織設計をはじめとした各社がBIMの最新技術を競い合う「Bulid Live Japan」も、継続的に開催されるようになりました(※⑦)。
そして2018年の日本建設業連合会の調査によると、会員企業64社のうち、工事現場等の施工BIMを取り入れている企業は43社。7割弱の割合と、普及率も順調に伸びています(※⑧)。
BIMの活用法
最後に、国内での具体的なBIM活用事例をご紹介します。
事例①:株式会社日建設計 ― エンジニアとの早期合意で複雑な意匠を ―
「日本のBIM元年」の火付け役ともなった日建設計 山梨明彦氏の設計室によるプロジェクト、ホキ・コレクション(2010年)。プロジェクトの目的のひとつに企画段階から基本設計、実施設計に至るまで一貫して3次元モデルを用いて行えることを実証実験することが挙げられています。
設計の初期段階から施工面での細かな取り合いを検討できるBIMの特性を活用することで曲面を多用した複雑な形状の実現や周辺建物への影響について、関係者と早期段階で合意が取れたといいます。
‘特に平面図ではまったく想像もつかない建物なので、3次元で見られることでより利用するイメージやシーンを思い浮かべることができ、施工主やエンジニアに設計意図を伝えやすい。※⑨’
2次元では把握の難しい配管等の取り合いは、施工段階まで見落としが続くとコストにも響く重要事項です。本プロジェクトは複雑な意匠実現へ向け、BIMを最大限に活用した代表例と言えるでしょう。
事例②:株式会社奥村組 ― 難易度の高い工事をシステム化 ―
関西を代表するゼネコンである奥村組。鉄道工事におけるコスト削減と工期短縮、そして工事品質の向上にBIMを活用しました(※⑩)。近年鉄道高架橋には耐震性を高めるため多くの鉄筋が使われるようになり、構造体のデザインも複雑化しているといいます。そこで同社では、BIMを用いた3次元配筋支援システムを「Autodesk Revit Structure」のバージョンアップに反映させていきました。同社システム部は、
‘Revit Structureの3次元配筋モデルは“実物の配筋のでき上がり”そのままというか、図面と写真が一体化した感じで、とにかく非常に分かりやすかったです。干渉チェックもスムーズ’
というレビューを発信しています。複雑な配筋は膨大な時間を要するだけでなく、現場で図面通りに組めずに手戻りが生じるケースも生じかねません。奥村組のケースでは、BIMは施工現場におけるトラブルを未然に解決する、画期的な支援システムとして活用されました。
まとめ
設計から施工まで、最近は設計前の企画から施工後の建物維持管理まで、あらゆるタイミングを3Dモデルで解決、サポートしてくれるBIM。
誰もが立体形式で設計内容を見て理解できるという機能から、短期で正確に建造物を仕上げられる画期的なシステムとして、今後も更なる浸透が見込まれています。
従来であれば修正や協議に充てられていた時間が設計・デザインに回せるとなれば、建築の可能性も想像を超えた拡がりを見せてくれることでしょう。
参考・引用
※① 東洋経済オンライン「ゼネコンの未来を変える『3D改革』の衝撃」
https://toyokeizai.net/articles/-/129374?page=2
※② 日経×TECH「竣工モデルは当たり前!BIM義務化で普及が加速」
https://tech.nikkeibp.co.jp/kn/atcl/knpcolumn/14/546679/030400020/
※③ 日経×TECH「2018年に完成!シンガポールが国土丸ごと3Dモデル化」
https://tech.nikkeibp.co.jp/kn/atcl/knpcolumn/14/546679/022900019/
※④ ArchiFuture Web「BIMの今を考える(日建設計 山梨知彦氏)」
http://www.archifuture-web.jp/magazine/284.html
※⑤ 国土交通省プレスリリース
http://www.mlit.go.jp/common/000110964.pdf
※⑥ 国土交通省ガイドライン
http://www.mlit.go.jp/common/001247622.pdf
※⑦ 前田建設 建築設計統括部門HP
https://www.maeda-arch-design.jp/buildlive.html
※⑧ 家入龍太公式サイト
http://ieiri-lab.jp/supporters/2018/07/bim-enters-mojorty-adoption.html
※⑨Autodesk社 事例紹介サイト 株式会社日建設計
http://bim-design.com/case/sekkeijimusho/nikken.html
※⑩Autodesk社 事例紹介サイト 株式会社奥村組
http://bim-design.com/case/gc/okumuragumi.html
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