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4社の導入事例から見るBIMのメリットと各社の方向性

この記事を読むと、以下の3つのことが分かります。

①BIMの概念と、その導入メリット
②BIMソフトウェア製作4社が示す導入事例(建築・設計分野)
③導入事例から汲み取れる各社の方向性

この記事ではBIMの基本的な概念とその導入メリットをふまえつつ、BIMソフトウェアを製作している4社の建築・設計分野の導入事例を取り上げ、BIM活用における各社の方向性を探っていきます。

建築・設計の分野で欠かせない存在となっているBIM

BIMはBuilding Information Modelingの略で、3Dモデルデータを作成し、素材などの属性情報をもたせ、施工・管理にまで情報を活用するワークフローです。直感的に把握できる3Dモデルを使い、建物に関する情報をBIMで一括管理することによって、発生するメリットにはどんなものがあるのでしょうか? BIM導入のメリットについて触れていきます。

BIM導入のメリットその1-コストを削減し効率化を図る

事前に3Dモデルを作成し、各種素材の付け替えや、天候の変化、時間の移ろいをシミュレートできるので、無駄を省き、緻密な計画を遂行できます。また、配管の干渉など、現場で起こりうるトラブルを事前にチェックできるため、致命的なミスを予防できます。物理的、時間的コスト削減に力を発揮します。

BIM導入のメリットその2-視覚化による直感的な情報共有

3Dモデル作成によって、直感的な情報共有が可能となっています。これは、建築や設計に携わるプロだけではなく、専門知識を持ち合わせていない関係者への影響も大きく、施主との打ち合わせや企業間のプレゼンテーションを円滑にします。

また、BIMの3Dモデルデータを活用し、VRやMRでより直感的な体験を演出する試みは注目を集めており、BIMデータはより身近なものとなっています。

(*1)

BIM導入のメリットその3-中央モデル作成による他社製ソフトウェアとの連携や分業化

プロジェクトが大きくなると、様々な業種が並列的に作業を行います。基幹となる中央モデルを作成し、リアルタイムで情報を更新することによってミスを防ぎ、着工から完成までの時間を短縮します。

クラウド化による利便性に優れた情報共有のほか、他社製ソフトウェアとの連携機能をもつBIM作成ソフトウェアも多いです。業種、ソフトウェアの垣根を越えたシームレス化のメリットは自社だけではなく、協業先にも及びます。

BIMソフトウェア製作4社の導入事例をピックアップし分析

日本におけるBIM作成・運用において欠かせない4社を選び、各社が公式サイトで紹介する建築・設計分野の導入及び運用事例から、それぞれが打ち出している特色を探っていきます。

各社は無作為に事例を紹介しているわけではありません。自社のBIMソフトウェアの機能を十全に引き出し、サイト訪問者にとって魅力的な事例が選ばれています。事例の中には各社のセールスポイント=BIM導入のメリットが詰まっており、それを分析することによって、各社の方向性がつかもうという方策です。

本稿では、
・AutodeskのRevit
・GRAPHISOFTのARCHICAD21
・VectorのVectorWorks Architect(日本での販売元はエーアンドエー株式会社)
・福井コンピュータアーキテクトのGLOOBE
という4社のBIMソフトウェア導入事例を2件ずつ取り上げていきます。

Revit導入事例1-ゲンスラーによる上海タワー

2016年に完成し、現在(2020年1月)現在でも世界有数の高さを誇る上海タワーでもBIMが用いられました。コンペを勝ち抜いたアメリカのゲンスラーが設計を手がけました。

多くの業種が関連するこの一大プロジェクトでは、共通認識を保持できる3Dモデルの存在が不可欠であり、他社製ソフトウェアとの連携も求められていました。各国の技術者が集う国際的なプロジェクトでもあるため、世界的なシェアを誇り、グローバル化が進んでいるAutodeskのRevitがその強みを生かしました。グローバル化の片鱗は多言語に対応した同社のサイトからもうかがえます。

中央モデル作成によるワークシェアリングにおいて、既に実績がある点も光りました。またBIMによる3Dモデルの活用によって、従来のタワーに比べて32%もの資材を削減でき、技術を結集するだけではなく、その後の上海タワー管理を含め、環境にも配慮したプロジェクトとなりました。

(*2’)

Revit導入事例2-ジル・ヌーバウアー建築事務所

スケールの大きな上海タワーと趣を異にする個人住宅の事例です。アメリカのジル・ヌーバウアー建築事務所に届いた依頼は、自然環境に配慮した、日本で表現するところのエコロジーを重視する内容となっていました。

3Dモデルを使って配管などの干渉を排除し、無駄な資材を削減するいかにもBIMらしいメリットは、環境に配慮した住宅を作り上げるコンセプトにもマッチしています。

太陽の動きをシミュレートし、冷暖房や空調の位置を設計。排出する二酸化炭素の低減まで考えられた、木材を多用したあたたかみのある外観だけではない、質実ともにエコロジーな家が誕生しました。個人の要望にも徹底的に応える芸の細かやさが感じられる事例です。

(*3)

Revit導入事例から探る方向性

BIMの真骨頂たる3Dモデルを利用したコスト削減が前面に出ており、また大手ならではの国際競争力を海外の事例によってアピールしています。

大きなプロジェクトだけではなく、こだわりの個人住宅でも行き届いた設計をアシストし、技術の発達やコストの削減が環境保全につながることも言外に示しています。

グローバル化による他業種他社製ソフトウェアとの連携をふまえながらも、無駄の排除が自然環境に良い影響をもたらすと信ずる、巨視的な視点がある印象ですね。

ARCHICAD21導入事例1-株式会社ixrea

2Dモデルを3Dモデルに統一しつつ、業務の効率化をはかった事例です。その際、BIM活用の先駆者に教えを請う、協働先にBIMを勧めるなど、意欲をもって2Dモデルからの脱却を目指す流れは、日々進化するテクノロジーに対応する建築・設計分野の技術者にとって他人事ではない内容となっています。

その真摯な姿勢によって、同社のBIMに関する造詣は、チームワーク機能を利用し、BIMクラウドを活用するレベルにまで到っています。協働先を巻きこみながら着々と効率化を図っていった一例です。

(*4)

ARCHICAD21導入事例2-シンガポールの国際インフラ会社サーバナ・ジュロン

2017年からシンガポール政府が推し進めている『IDD(インテグレーテッド・デジタル・デリバリー)』に呼応する形で、次世代BIM戦略としてVRに注目。BIMモデルをVR化し、5面のスクリーンに投影し会議する『CAVE』という施設を建造しました。

またBIMクラウドをいち早く利用し、ドローンやBIMにまつわるプログラミングを次世代BIM戦略に盛りこみ、更にはAIやロボット利用の可能性にまで言及し、そのビジョンは先進的なものとなっています。

(*5)

ARCHICAD21導入事例から探る方向性

GRAPHISOFTが提唱するOpenBIMやBIMクラウドが登場するなど、他社製ソフトウェアや他業種との連携や利便性の追求が挙げられています。これからBIMを導入する会社はもちろん、BIM利用の更なるメリットを追求したい会社にも興味深い内容となっています。

2Dモデルからの脱却事例、次世代BIM戦略など未来志向の話題が多いです。旧態依然とした状態を良しとせず、未来へ投資し、横のつながりも重視する技術者たちを後押しする姿勢が見られます。新しい技術や、技術の伝達そのものに対するリスペクトが感じられる内容です。

VectorWorks Architect導入事例1-一級建築士事務所山田屋

古民家の改修というプロジェクトに取り組んでいる最中、3Dモデルの必要性を痛感し、2D CAD →3D CADという変遷を経て、最終的にBIMへ行き着きます。BIMによる3Dモデルによって建材の劣化や蟻害、建物の変形をシミュレートし、視覚化に成功。プレゼンテーションにも活用し成果を得ています。

3Dモデルを見た熟練職人が、そこに現場があるかの如き判断を下している時に手応えを感じるも、2Dの図面にしか対応できない業者へのファイル変換で悪戦苦闘する一面も紹介されています。

BIMによる3Dモデルの恩恵を感じながらも、他業種や他社製ソフトウェアとの連携を期待するものとなっています。

(*6)

VectorWorks Architect導入事例その2-株式会社丹青社

ポケモンセンターのように非日常に満ちたデザインを手掛けているのが丹青社です。スケッチからイメージを膨らませる大胆なデザインには、2D図面だと直感的に分かりづらい曲面が多用されています。2Dの図面と3Dモデルでは視覚的なインパクトが異なり、デザイナーや協力会社と打ち合わせをする際、BIMによる3Dモデルがあるのとないのとでは、共通認識の作りやすさ、情報共有のしやすさに雲泥の差が出てしまいます。

また、遊具などの仕掛けを施設に盛りこむ際にも、あらかじめ干渉や安全性を確認できるBIMは有用です。子供が遊具内を移動するイメージまでシミュレートする丹青社のきめ細やかな配慮をBIMがアシストしました。

(*7)

VectorWorks Architect導入事例から探る方向性

クリエイティビティの高い、ニッチともとれるプロジェクトで、実力を発揮しています。3Dモデル作成のメリットがクローズアップされており、同社のソフトウェアに対する絶対的な信頼がうかがえます。

ネットワーク版は用意されているものの、他社製ソフトウェアとの連携はうたわれておらず、他業種が集まるような巨大プロジェクトでは、十全の力を引き出せない印象です。

コストをおさえつつ、インテリアデザインにも活用できる部材を選べるため、細かな気配りが必要なプロジェクトをこれからも支えていくことでしょう。人の持つクリエイティビティと他者への気遣いを引き出していくソフトウェアです。

GLOOBE導入事例1-株式会社フジタ

GLOOBEは福井コンピュータアーキテクト製のソフトウェアです。名前から判別できる通り国産です。株式会社フジタでは、2009年からBIMを導入し2DCADデータとの連携に取り組み、BIMと2DCAD両部門間を連携させるため、業務提携フローを作成しました。

またBIM-2DCAD間の更なる連携のため、GLOOBEの生みの親である福井コンピュータアーキテクトのJ-BIM施工図CADを導入し、効率化を図るために同社と協働しました。

このBIMに関する連携を深めていくスタイルは、建築主、行政、サブコン、設備関連業者、外部協力組織、ハード・ソフトベンダーにまで波及し、図らずもBIMによる3Dモデルの有用性を広めていく結果になりました。

(*8)

GLOOBE導入事例その2-空創房、一級建築士事務所

2.5次元のCADを利用するも、限界を感じBIMを導入した事例です。個人事務所は施主への細やかな対応が必要となっています。BIMによる3Dモデルをスマートデバイスで表示し、施主に確認してもらいその場で指示をもらうことによって、現場会議の時間を大幅に短縮させました。1時間かかっていた会議が5分に短縮された例もあります。

クラウド経由でのBIMモデルを活用した際には、個人事務所ならではのフットワークの軽さをBIMが後押しした形となっています。

(*9)

GLOOBE導入事例から探る方向性

国産ソフトウェアということもあり、グローバルな活躍よりも、日本の建築・設計現場でいかに力を発揮できるかに注力しています。日本の法規制変更にもすぐ対応できるのは国産ならではの魅力です。

BIM導入による物的、時間的なコスト削減によって、個人事務所をバックアップしています。日本の建築関係者、技術者のみならず、施主にも寄り添うきめの細かさがあります。同社のソフトウェアと連携させることによって、2D-3Dデータ間のやりとりをスムーズに行えるのも魅力です。

まとめ

4社が紹介するBIM導入事例から、各社が打ち出したいBIM導入のメリットや方向性を探ってみました。

Revitは多業種が関わる大規模プロジェクトでの対応力と、個人宅設計にも力を発揮する汎用性を示しました。また、多言語に対応するサイトからも、国際的な競争力の高さ、グローバル志向がうかがえます。

ARCHICAD21の導入事例では、OpenBIMや、BIMクラウドが取り上げられ、他業種との連携を積極的に行う姿が見られます。先進的なインフラ会社の次世代BIM戦略にも採用されるなど、未来志向の一面があります。

VectorWorksはクリエイティブな建築・設計における3Dモデルの有用性と、微に入り細を穿つ細かな調整、シミュレートが求められる事例で、BIM利用者の独創性を支えています。クリエイティブ志向が強めです。

GLOOBEは日本の建築・設計現場に根差した仕様です。国産ということもあり開発元の福井コンピュータアーキテクトが現場に携わる事例も。同社ソフトウェア内での連携もあり、行き届いたサービスが見受けられます。巨大プロジェクトよりも、日々の業務に励む人々の足元をBIMで支える堅実志向が見え隠れします。

コストや機能だけでは分からない、各社の方向性、メンタリティのようなものを事例から汲み取ってみました。BIMに関する各社の更なる発展が期待されます。

(*1) https://www.aanda.co.jp/casestudy/2019/2019-02.html

(*2)http://bim-design.com/facebook/pdf/j_shnghai_tower_construction_and_development_customer_story.pdf

(*3)https://damassets.autodesk.net/content/dam/autodesk/www/products/autodesk-revit-family/docs/pdf/autodesk_customer_success_story_jna_.pdf?av=20200123171950

(*4) https://www.graphisoft.co.jp/users/special/ixrea_2019.html

(*5) https://www.graphisoft.co.jp/users/special/surbana_jurong_2018.html

(*6) https://www.aanda.co.jp/casestudy/2019/2019-05.html

(*7) https://www.aanda.co.jp/casestudy/2019/2019-03.html

(*8) https://archi.fukuicompu.co.jp/architectstylelab/info/11

(*9) https://archi.fukuicompu.co.jp/architectstylelab/info/9

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