紛失防止トラッカーのキラープロダクト「Air Tag」の実用性を他社と比較
スマートタグ分野に満を持して登場したAppleの「Air Tag」。
世界中に存在するiPhoneをネットワーク化して、紛失物を探し出す仕組みを採用するなど、この分野でキラープロダクトとなる可能性を秘めた製品として話題を集めました。
発売からしばらく経過しユーザーレビューなども増え、メーカー発表のスペックだけでない実用性についても言及できるようになりました。今回は他社製品との比較を交えながら、実際の「Air Tag」について使用における性能を探ってみましょう。
この記事でわかること
・Air Tagの特徴と実用性について
・Tileとの比較について
・MAMORIOとの比較について
Air Tagの特徴と実用性について
先ずは「Air Tag」のカタログスペックから確認していきましょう。
◯サイズ 直径 31.9㎜ 厚さ 8.0㎜
500円玉よりも少し大きいサイズと表現されることが多いようです。500円玉の直径が約26.5mmですから20%程度大きいことと、厚みについては4倍以上あることから、実感としては「かなり大きく」感じるのではないでしょうか。
財布にも入れられないことはないですが、かさばる感じがするのは否めないでしょう。
◯重量 11g
他社製のスマートタグに比べると重い部類に入ります。500円玉2枚分よりはやや軽いぐらいですね。
外観は大きめの缶バッジのような感じです。中央部分がやや暑くなっている円形で、金属光沢のある表面にAppleのロゴが刻印されています。
希望すれば文字の刻印も可能で、所有者を明記したり、贈り物としての用途も考慮されています。
アクセサリーがないと使いにくいデザイン
Air Tagそのものにはフックのようなものはついていませんので、そのままならカバンの中や財布の中にに放り込むぐらいしか使用方法がありません。
タグのように使いたのであれば、アクセサリーを別に購入する必要があります。AppleのHPにはたくさんのアクセサリーが紹介されていますが、例えば「Air Tagループ・サンフラワー」の場合、さらに3,800円の出費が必要となります。
本体価格と同じくらいの付属品を購入して初めて「使いやすくなる」という価格設定と製品仕様は、決してユーザーフレンドリーではないですね。さすがAppleといったところでしょうか。
ちなみに、「AirTag Hermesラゲッジタグ‐フォーヴ」なら、5万円オーバーの追加出費です。こうなってくると持ち物よりも、Air Tagのアクセサリー自体を紛失したくありません。
多分、バーキンとかを持っている人じゃないとエルメスのアクセサリーなんてお求めにならないのでは?と思うのですが。しかも、バーキンをどこかに忘れてきてしまうような、うっかりさんがこのアクセサリーを購入する対象ということなんでしょう。こんなレアなターゲット層がいるのか不明ですが、、、。*注1
一目で「トラッカー」とわかるデザインにやや疑問
Apple製品に共通する特徴は「一目でAppleとわかる」デザインにあります。
例えば、MacBookの背面にはAppleのロゴが必ずついています。ロゴの部分だけ筐体の一部分をくりぬいて使用中に光るという機能は、PCとしての性能には一切関係ありません。単に「Appleブランド」であることを主張しているだけのものです。
当然、その分だけ加工コストはUPするため、製品価格にも反映されてしまいます。しかしAppleは、単にコストダウンによる市場競争力をつけるのではなく、高いブランドイメージをつけるという戦略を選択しました。
BMWやベンツなどが「一目でわかる」のと同じように。ユーザーにもApple製品を所有するという優越感と満足感を与えるプロダクトデザインを続けています。
今回のAir Tagについても同様で、ロゴマークが一目でわかる場所に刻印されています。しかし、これは「スマートタグ」としてはどうなんだろう?と思わざるを得ません。
スマートタグがその役割を発揮するのは、対象となる物が紛失した時です。もし、紛失物分を取得した人が悪意を持っていたら?そしてその紛失物に明らかに「トラッカー」と分かる物ががついていたとしたら?
答えは簡単です、すぐに「Air Tag」を外してしまうでしょう。
こういうケースを想定するのであれば、スマートタグとしての優れたデザインは「トラッカーであることを主張しないこと」ではないでしょうか。
財布の中やカバンにつけるにしても、カード型やコイン型などのようにそれとなく、自然に付けられるものが良いのかもしれません。
エルメスのケースに入ったAir Tagなんか、あまりにも自己主張が強すぎる気がします。もはやトラッカーというより、ファッションアイテムということなのでしょう。
トラッカーとしての性能について
では、肝心の追跡性能についてはどうでしょうか。
Air TagはiPhoneとペアリングして利用します。紛失物が近くにあるときは、BluetoothやUWB(超広帯域無線通信)を使って探します。しかし、iPhoneとの距離は最大でも10mで、電波の障害となるようなものがあるとさらに距離は短くなります。
同じ建物内にあっても壁などで隔てられた場所にあると接続できないケースもあり、「近くにある」からといって確実に場所を特定できるとは限らないようです。
ユーザーレビューの中には、障害物なしの状態でも7m程度が最大接続距離であったという報告もあり、あまりカタログスペックを過信しないほうが良さそうです。*注2
紛失物が近距離にないときは、全世界に広がるiPhoneユーザーによるネットワークが力を発揮します。Air Tagが最も注目されているのはこの部分でしょう。
紛失物の近くにあるiPhoneがロケーション情報をAppleのネットワークに送り、その情報が持ち主に通知されるという仕組みです。世界中に数億台が稼働しているiPhoneが協力して、紛失物を探してくれるというものです。
競合となるスマートタグも同じように、「自社製品によるネットワーク」の利用ができるケースがありますが、デバイスの数ではAppleが圧倒しています。
このシステムがAir Tagの一番の優位性であり、キラープロダクトとして他者に脅威を与えていると言ってよいでしょう。AppleのHPでも「何億人ものAppleユーザーが、一緒に探してくれます。」と言う印象的なキャッチフレーズで紹介しています。
では、実際のところはどうなのでしょう?この仕組みはきちんと機能するのでしょうか。
一つ問題となるのは、Air Tag自身はGPS機能を持っていないことです。そのため、もし世界中のどこかのiPhoneが、紛失したAir Tagを発見したとしても、そのAir Tag自体は正確な位置を測定し送信することができません。ネットワーク上に送信されるのは、「発見したiPhoneの位置」になる訳です。
さらに、Air TagとiPhoneの距離は障害物なしの状態で10m弱までしか検知できません。もし紛失物が遮蔽物のある場所にあり、近くをiPhoneユーザがあまり通らないようなところだとした場合、「何億人ものAppleユーザーネットワーク」がうまく機能しないこともありそうです。
非常に強力なネットワークを持っているものの、それが機能するかどうは運次第になるかもしれません。しかも、せっかく検知したとしてもピンポイントでAir Tagの場所を特定することは難しく、「だいたいこのあたり」ぐらいの精度です。
その他の特徴について
ではAir Tagのその他の特徴について、見ていきましょう。
電池は交換可能で、約1年は使えます。これは他社のデバイスと同程度です。
紛失物が近くにあるときは、iPhoneの操作で音を鳴らすことができます。ただし、音量は思ったよりも抑えられているようですので、騒音がある環境下ではよく聞こえないケースもあるようです。
逆にAir Tagを操作してiPhoneを探す機能はありません。これは不便な点ですね。
また、Android端末には対応していませんのでユーザーはiPhoneを所持している必要があります。しかも、常時携帯してないと意味がありませんので、iPhoneをサブで使っているぐらいではAir Tagの性能を活かせない点がネックです。
Air Tagに関して、カタログスペック以外で気になる点をまとめると次のようになります。
・結構厚みがあるので、用途が限定される
・アクセサリーが必要(必須ではない)なので、トータルコストがかかる
・近距離での接続が思ったよりも短い
・ネットワーク経由でのトラッキングについて、位置特定の精度がやや不安
・デバイスを操作してiPhoneを探す機能がない
・そもそも目立ちすぎるデザインで、盗難防止には疑問あり
・タグから一定距離離れると告知する機能がない
Appleが最初にリリースしたスマートタグですから、ブランドイメージが先行しているデザインになっているような感じを受けます。本当に紛失や盗難の防止を志向するなら、目立たないデザイン・小型化・薄型化にするべきでしょう。
現時点では、紛失防止トラッキングデバイスとしてよりも、ファッション性を重視しているように思えます。*注3
Tileとの比較
では、次に先行して市場を開拓してきた代表的なデバイスである「Tile」と比較してみましょう。
記事執筆現在、Mate・Pro・Slim・Stickerという4つのカテゴリーで製品を出しています。Air Tagと個別製品で比較するならMateかProというところでしょう。
今回は製品ラインナップ全体を一応の比較対象として、優劣を見ていくこととします。
Mateは35mm角のスクエア形状であり、厚みは6.2mmとAir Tagよりやや薄くなっています。重さは6.0gですからAir Tagの半分程度。クリップできる穴があるので、対象となるものに簡単に取り付けることができます。
薄さ・軽さ・取り付けやすさについては、Air Tagより優れています。電池は交換可能で、約1年持つことはほぼ同程度と言えます。
機能的には、最大接続距離が約60mとAir Tagよりもかなり優れています。ただし、接続する環境に大きく依存しますので、必ず60mの距離で接続可能とは限りません。
ProはMateとほぼ同じデザインですが重さが2倍の12.0gであり、サイズも一回り大きくなります。カラーリングはMateがホワイトのみ、Proがブラックとホワイトの2種類があります。シンプルなモノトーンを採用し、何にでも合わせやすいデザインとなっています。
iOSだけでなくAndoroid端末にもペアリング可能であり、各社のスマートスピーカーとも連携ができます。
iPhoneで使えるといっても、Air Tagのように世界各地のiPhoneネットワークを利用することはできません。同じTileアプリを使っているユーザーのネットワークや、パートナーシップを結んでいる各種サービスと連携しながら、紛失物のトラッキングをする仕組みを取っています。
規模こそAppleには及びませんが、独自のTileプラットフォームを拡大中です。
便利な点としては、Tileデバイスの方からペアリングしている端末を探すことができることです。Air Tagではこれができません。
カード型のSlimなら財布に入れても気にならないぐらいの薄さですし、小型のStickerはシールで貼り付けて使うことができます。
目的に応じて選択できる製品ラインナップが充実しているのは「Tile」の利点ではないでしょうか。
価格についてはオープン価格設定ですので、販売店や時期によって価格は変動します。
Mateであればだいたい2,400円前後で販売されています。Air Tagのように純正アクセサリーを使わなくても装着することが可能ですから、価格優位性もTileの方がプラスに評価できます。*注4
MAMORIOとの比較
MAMORIOは日本発の紛失防止トラッカーです。
一番の特徴を先に紹介すると「置き忘れ防止機能」があることです。ペアリングした端末と一定距離離れると、通知が来るように設定できます。出先で荷物を忘れそうになった瞬間にアラートが来るため、置き忘れを防止できるいう機能です。
荷物や対象物との距離が離れてしまう前に注意を促すというのは、実用上一番役に立つ機能ではないでしょうか。
Air Tagのように、悪意を持った第三者にタグを外されてしまっては、せっかく世界中に張り巡らせたネットワークも無意味です。そうなる前に持ち主に知らせ、忘れ物を防止することが最も効果的な手段だと思われます。なぜ、Air Tagにこの機能が実装されてないのか、残念でなりません。
MAMORIOはラインナップも豊富で、小型・シールタイプ・カード型・ボタンのように縫い付けるものなど、目的に応じて選択することができます。
タグ型のMAMORIOは、縦35.5mm×横19mm×厚さ3.5mmであり、重量は3gと非常に軽量です。
さらにストラップ穴がありますので、荷物にも簡単につけられ小型ですから邪魔にもなりません。
ただし、電池交換は不可となっており電池が切れる1年ほどで、使い捨てることになります。
MAMORIO Spotという仕組みを構築し、公共交通機関(JRなど)と提携してMAMORIOを探すことができます。頻繁に駅を利用する日本のビジネスパーソンに適したシステムになっています。さすが、国産というところでしょうか。
使い捨てはもったいないという方には、「OTAKIAGE (お焚き上げ) 」というサービスを選択することができます。ユーザー登録から180日を経過すると、割引価格で次世代機を購入することができるというものです。
MAMORIOの価格は2,800円前後と、今回紹介した中では最も安いため、比較的気軽に購入することができるのもポイントです。
ただし海外旅行での忘れ物探索には向いていませんので、日本国内利用に限定される点はネックとなります。
忘れ物トラッカーが本当に便利なら、一つではなくいくつか使いたいと考えるのが自然です。複数購入して使うのに一番適しているのが、MAMORIOかもしれません。*注5
【まとめ】
鳴り物入りで登場したAppleのAir Tagですが、先行するデバイスにも十分にいいところはあり、使用する目的やシチュエーションによってはAir Tagより有効な面もあります。
Air TagはiPhoneとのスムーズな連携など、Apple製品を持っているユーザーにとっては十分訴求できる製品だと思います。しかしAndroidユーザーであるなら、逆に選択肢が広くAir Tagである必要性は無いのかもしれません。
Air Tagによってスマートタグに注目が集まっていることもあり、今後もユニークなデバイスの登場が期待できます。
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■参考文献
注1
https://www.apple.com/jp/airtag/
注2
NOMANOMA 「AirTag(エアタグ)の通信範囲について!ロッカーや車内、ポケットでの通信距離の違いは?!」
https://nomanoma-web.com/2021/05/airtag%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%82%BF%E3%82%B0%E3%81%AE%E9%80%9A%E4%BF%A1%E7%AF%84%E5%9B%B2%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BC%81%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%84%E8%BB%8A%E5%86%85/
注3
Apple 「Air Tag」
https://www.apple.com/jp/airtag/
注4
Tile
https://thetileapp.jp/
注5
MAMORIO STORE
https://store.mamorio.jp/
https://mamorio.jp/
Real Sound (Yahoo!News) 「AirTag」を買う前に。安価に手に入るスマートタグの優位性とは?
https://news.yahoo.co.jp/articles/489bc96cce591a74cc10990ea50c6fce95995dbd
IT Media News(Yahoo! News) 「 Appleの「AirTag」は紛失防止タグの“黒船”か 既存製品との違いをチェック」
https://news.yahoo.co.jp/articles/7ab50ca793a07c304dc5f1e200820b0083ea142a?page=2
日経Tech 「「AirTag」でスマートタグに地殻変動、スマホ大手が相次いで進出する理由」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00086/00167/
MAMORIO Biz
https://mamorio.biz/
Tile Premiumとは
https://thetileapp.jp/premium/